第47話「失念」

 方針は定まった。崩落のおそれがある橋のいずれかをあの魔法使いの随行員が通った時に橋を崩落させ、巻き込んで殺傷する。


「それでもう決まりでいいと思っていたんだけどな……」


 不意に僕は思い出したのだ。随行員が求めてきたのは金銭であったこと、そして莫大な金銭を用意できる心当たりが一つだけ存在していたことを。


「その程度の額であれば可能と思われます」


 ソレが僕が尋ねた時にダンジョンコアから返って来た答えだった。


「そうか……まぁ、そうなるよね」


 ダンジョンは侵入者を誘引するために財宝や希少なアイテムなどを用いる。ならばダンジョンコアに用立てられないかと聞いてみた結果、勤め先に負担をかけることなく問題が片付きそうなことが判明したわけだ。


「それで、ダンジョン産のお金が魔法使いに『わが国で生産されたモノでない』と見破られる可能性は?」

「魔力の残滓などの面ではありません。偽造防止用の細工も模倣は可能です。ただし、通し番号が入れられていた場合、同じ番号が複数存在する事態になることはありうるかと」

「あぁ、そうなるか……」


 造幣局のような場所を通さず用意する金銭となれば当然ぶち当たる問題だが、そう言えばこの手の問題を僕が前世で読んだ小説はどう解決していたのやら。


「どうなされますか?」

「バレない方に賭けて用意して貰う金銭で賄賂を随行員に渡すか、別の方法を考えるか、かぁ……いっそのこと橋の施工をした企業とか役場にダンジョンの力を使って侵入して賄賂に使われる金銭を盗み出すという手もあるけど」


 窃盗の調査に魔法使いが動けば藪をつついて蛇を出すことになりかねない。


「なぁ、一定時間が経つと消滅する偽物の金銭なんてモノを用意することはできるか?」


 隠滅できるなら通し番号が同じモノが一時存在しても危険性は低いのではと思い至って僕はコアに質問してみる。


「可能ですが消失後しばらくの間金銭のあった場所に魔力反応……残滓が残ります」

「っ、それはそうなるよね……」


 そして随行員のバックには魔法使いが居る。魔法使いとしての実力が高いとは思えないが、未知数でもあり。


「あの随行員が要求した金銭をすべて着服してるなら『手元にあった金がなくなった』とは言いづらいだろうけど――」


 金銭の一部が魔法使いに流れていた場合、原因解明に魔法使いが動くこともありうる。


「慎重すぎても動けなくなるのは解る、だけどどうしたものかなぁ」


 質問するまでいいアイデアに思えた自動で消える金銭までが解決策になりそうもないことを知って僕はため息をついた。

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ダンジョンアンチのダンジョン運営 闇谷 紅 @yamitanikou

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