第26話「怪奇」
「犯行は昼日中に行われた、と言うのに犯人を目撃した者がいない。これが閑散とした地方の村で人口が少ないならばともかく」
この街はそれなりに多くの人が住んでいる。
「人気のない通りとかなら、ここでもそういうことはあるのでは?」
敢えて反対意見を口にしたのは、僕自身人気のない場所で地面に吸い込まれた例の一件があったからだ、だが。
「言いたいことはわかるよ。だが、犯行現場はそれなりに広く全く人の通らない場所と言う訳でもなかった。たまたまその時犠牲者しか通っていなかっただけでね。加えて、犯人は見てないが犯行は見ていた人物もいたんだ」
「それはどういう」
一瞬言っていることがわからず困惑した僕に女魔法使いは言う。犠牲者は何もない場所で突然切り刻まれて死んだのだと。
「何もない場所って、そんなことが」
「信じられないのも無理はない。犯行の目撃者も『言っても信じてもらえない』と思っていたようで聞き出すのには苦労したからね。誰がどう見ても怪奇現象、目撃者が信用して貰えないと思って口をつぐんだのも無理はない。これが私達魔法使い相手だと話は別になるんだが」
「別? 別になるんですか?」
「ああ」
一瞬だけ何でと疑問が浮かぶが、何でもないことの様に平然とし頷く女魔法使いが抱えているモノを見て、僕の疑問はあっさり氷解する。
「まさか、犯人は魔法使――」
「可能性はある。この手の怪奇現象めいた事件を起こせるヤツは私が知りうる限り三者だ。一人は君が言うように魔法使い」
僕の言葉を肯定した女魔法使いは指を一つ折り。
「一人は魔物」
「まっ、魔物?!」
「そう。町中で目撃するようなことはまずないし、そうでなくても目撃例は低いんだけどね。とある例外的な場所を除けば。君は知ってるかな、ダンジョンと言うのだけど」
女魔法使いが何気なく口にしただけの単語。だがそれについて僕はよく知っていた。コアの主人になる前からもある程度は知っていた。前世でファンタジーなゲームや小説に親しんだ僕が魔法ありのファンタジー世界に転生したのだから、気にするなと言う方が無理だった。もし僕がコアの主になっていなかったら、別の意味で興奮しつつ女魔法使いに色々聞いていたかもしれない。
「希少な物品が眠り、探索者の命を喰らう危険な迷宮。そこには守護者や番兵として内部には魔物が巣くっていることもあるんだ。ごくごくまれに目撃の出る魔物はこのダンジョンから出たモノじゃないかと推測する学者もいる。実際、ダンジョンから出て人を襲う魔物と言うのは実在してね」
女魔法使い曰く、とある場所で起きた連続行方不明事件の犯人がそういう魔物だったそうだ。
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