第27話「昔話」
「君は親に言われたことがないかな? 親が子供をしつけるときなんかに使ったりするんだが。『どこそこにはお化けが居るから近寄ってはいけない』というものを」
それは悪い子はどうのこうのと子供を怖がらせることでコントロールしようとするたぐいの話の一つで僕自身小さなころに聞かされたことのあるモノだった。
「子供が危険なところに近寄らないようにとか夜更かししないようにって脅かすやつの一つですよね?」
「ああ。その通り。だが――」
ある街では本当に化け物が、魔物が棲みついていたと魔法使いは語った。
「棲みかを改めたら人の骨がどっさり、と言うことはなかったものの行方不明者の所持品や身体の一部、血痕などが見つかってね。犠牲者がどうなったかについては残念ながらそれ以上は分からなかったが、魔物の方は私達で仕留めて、事件はそれっきり起こらなくなった」
「……ええと、なんと言っていいか」
事件が解決したなら喜ばしいことかもしれない。だが、行方不明者の生存の可能性が断たれてしまっているとなると、良かったですねとも僕は言えず。
「とりあえず事件は解決した。世間的にはそういうことになってる。じっさいその街でのラヴボンの事件は解決したものの」
女魔法使いは言う。その近くの都市でも不可解な事件が起きていたのだと。
「件数は少なく、すぐ近くの街で魔物被害が出ている。同じ魔物の仕業だろうと相方……その時同じ事件に当たっていた同僚は言ったんだけどね。こう、この手の調査をいくつもやらされて生えた勘みたいなものが訴えてきたんだ。『ほんとうにそう?』とね」
「そう仰るということは?」
「うん。犯人は別にいた。そして、その手口が今回の件と酷似してるんだ、だから――」
女魔法使いは犯人を未解決とみている不可解な事件の犯人であるとみなしているのだろう。
「参考までに聞くけど、ウェポストの街に行ったことは?」
「ない、ですね。ラヴボンの南にあるんでしたっけ? 地理としてどの辺りかくらいは分かりますが」
西にずっと進んでたどり着いた街を抜けて更に西に進んだ先にそんな名前の街があることぐらいは僕も知っているが、今世ではあちこちで歩いたことはなく、話にあがった街にも足を運んだことはなかった。
「そう。ちなみにその東のロカビンではウェポストで起きたような事件は起きていない。だが、ウェポストで少々調べた結果、犯人は東に向かった可能性が高いとわかったんだ」
「それでこの街に」
「ああ。同僚は私とは違ってウェポストの件も同じ魔物の仕業とみなしていたからね。そうでなかったことと犯人が東に向かった旨を伝えて、この街で落ち合うことにしたんだ。まさか落ち合って早々にこうなるとは私も予想外だった」
予想外と言うなら僕もここの所予想外の連続ではあったが、女魔法使いは何より聞き逃せないことを言った。
「落ち合って、と言うことは……」
「ああ。同僚が居てくれたからこそこの短時間で目撃証言を得たりなんなり出来たんだ。一人だったらこうして君と会話してる余裕なんてまだなかったはずだ」
魔法使いがもう一人この街に居るという事実。一般市民なら心強いと思うところだろうが、ダンジョンの主と言う後ろ暗いところがあり、街の地下にダンジョンの通路を伸ばしている僕としては手放しで喜べない事態だった。
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