第43話「荷造」
「別の魔法使い、か」
僕に忠告をした数日後、女魔法使いはもう一人と共にこの地を去って行った。幾人かの犠牲者も出ている上に犯人と戦い命を落とした謎の男までいたというのに事後処理を含めて数日で済ませるというのは、あの二人がこういう事態になれているからなのか。
「物語なら『平和な日常が戻ってきました。めでちゃし、めでたし』で終わってくれていいところなんだけどな」
ダンジョンの主をやっていてはそうもいかないし、女魔法使いの残した忠告もある。ロクなことにならない気がヒシヒシとして、久しぶりに戻った我が家で僕は荷造りをしていた。
白系でありながら純白とまでいかない壁の色合いがやや疲れた目に優しい。
「被害者だって言うのに、何が悲しくて夜逃げの準備をしないといけないやら」
件の魔法使いとやらと揉めてこの街に住めなくなることも考えての荷造りをしているのだが、一応すべての家財道具を持ち出せるようにはしないつもりでもある。
事実、椅子もテーブルもタンスもそのままだ。
後ろ暗いことをしていて逃げだそうとしてるなどと取られるのは本末転倒であるし、不本意ながら今の僕はダンジョンの主でもある。家の地下をダンジョンにしていざというときは家財だけダンジョンの方へ送ってしまえば荷造りなんて不要なのだから。
「心配かけたので帰郷して家族に顔を見せてくる」
今こしらえてるのは、そんな名目の小旅行に出かける程度の荷物で、着替えやら身の回りの日常品、読みかけの本、大体そんなところだ。
「杞憂であればいいけれど」
女魔法使いがわざわざ忠告してくれたことを鑑みると、何事もありませんでしたでは済まない気がする。
「コア、どう思う?」
「ご主人様の危惧は妥当なものだと思われます。気取られては本末転倒ですので、ご主人様と接触した二人の魔法使いのデータを直接収集することは叶いませんでしたが――」
魔法使い、常人にはない力を持つ者。敵対すれば厄介な相手であることは言うまでもない。
「流石にあの二人ほど魔法使いとしての実力はないと思うけど」
それこそ人々を守り助ける為に危険へ身を晒していたあの女魔法使いたちと比べることなんて失礼と言うものだろう。
「権力持ってるっていう意味で厄介だよなぁ。話を聞く限り性格も良くなさそうだし」
小説とかで時々見かける鼻持ちならない傲慢な権力者ムーブをしてくる予感がして、顔も見ておらずそもそも遭ったこともないのにこのままどこかに逃げ出したくなる。
「最悪それこそ僕は姿をくらましてしまうのも手かもだけど」
問題は家族と雇先の人々だ。僕が姿を消したなら、追及されるのはそこだろう。
「はぁ、何事もなく終わって平穏が再び……ってなってくれないかな」
目には優しい色合いなのだが、ただの壁はコアと違って返事をしてくれなかった。
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