第10話「礼」


「けど、お一人ってことは……そっちの方ですよね?」


 何気なくと言うにはあからさまかもしれないが、案内する道すがら僕は女魔法使いに少しぼかしつつ尋ねた。それは当人の戦闘力についての問い。そもそも魔法使いはその希少性故に戦いを得意としない者には護衛がつくし、護衛のついていない魔法使いならば、例外なく護衛が不要な理由を納得するだけの戦闘力を持つ。

 例えば氷の飛礫を前方向にばらまく魔法を使えるのなら、前世の世界でいうところのマシンガンを常に持ち歩いているようなもので、小規模な軍勢を一人で鎮圧した魔法使いの話なんかは僕も聞いたことがある。


「ああ、私の実力の話かい? まぁ、護衛が居ない魔法使いは強いって思ってる人はそれなりに居るみたいだものね」


 だが、女魔法使いの口ぶりは僕の知識とは違って。


「え、それじゃ」

「あ、違うよ。私が護衛がいないのに弱いとかじゃなく、その話は私を含む下っ端にだけ適応されるって話さ。例えば国の魔法使いの一番上とか偉い人なのに護衛が居ないってのは拙いだろう? 立場的にも」

「ああ」


 振り返る僕へ慌てて補足してきた女魔法使いの言葉にそういうことでしたかと納得する。実を言うとこの女魔法使いを案内することにしたのは僕がもし襲われた時、その戦闘力を期待してというのもあった。だから僕の方も強くなかったのと別の理由で慌てたわけではあるが、杞憂だったらしい。


「上位の魔法使い、アークウィザード以上になれば当人が望めばだけど、戦闘力があっても護衛をつけてもらえるんだよ」

「へぇ」

「まぁ、こういう話は身内とか友人に魔法使いでもいないと知らないだろうけどね」

「勉強になりました。と、そろそろ目的地です。あの白い縁取りの緑の屋根の店が見えますよね? お探しのお店はあそこです」


 雑談しているうちに女魔法使いの探してる店が見えてきて、僕は前方の建物を示すと、それじゃ僕はこれでと立ち去ろうとし。


「おっと、待ってくれ。遅刻の証明が要るのだろう?」

「あ」


 指摘されて僕が足を止め女魔法使いの方を見ると、衣服のポケットから取り出した帳面のようなモノに携帯用の筆記具を走らせていて。


「これでいい。この紙は魔法使いしか使うことを許されないものでね。偽造は重罪だ。だから証明書として使えるし、紹介状として使うこともできるんだ。まあ、私程度の使ってるモノだから、効力はお察しだけどね。それでも君の遅刻の理由ぐらいにはなるさ。持っていきたまえ」

「あ、ありがとうございます」


 確かに遅刻の理由は求めていたが、貰ったのはそれ以上の道案内の報酬としては破格の品だった。だから、僕はすぐに受け取って頭を下げたのだった。

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