第44話「訪問」
「お前が、あの二人に助けられた者だな」
確認ではなく、断定。フンと鼻まで鳴らしたのは、あの女魔法使いの言っていた魔法使いではない。おそらく魔法使いの随行員の一人だ。トレードマークの杖は持っていなかった上、下級役人だった時になじみのあったスーツのもっと上等そうなモノを身に包んでいたのだから。
「はい」
口にした内容からも権力者の腰巾着をしている魔法使いの取り巻きと判断して僕は肯定の言葉を口にしておく。もう現時点でめんどくさい相手であろうなということは分かるが、下手にもめて勤め先や家族に迷惑がかかることは避けたい。
それに、こういう下っ端だけ使いに出してくるというのは、よくよく考えれば悪いことだけでもないのだ。件の魔法使いと顔合わせをすることがなければ、関わり合いにならずに済む。そういう意味で先方が怠惰だったり無駄に高慢なのは大歓迎だ。
「クハイサ様がこの後ここを訪問される。出迎えの準備をしておけ」
そんな僕の目算は、その言葉であっさり砕けた。この国のお役所仕事なら下っ端一人派遣して終わりでも僕は驚かないのだが、魔物らしきものの事件であること、魔法使いがこれを解決したこと、あるいはその両方がそれほど重いことであったのか。
「あの、出迎えの準備とは?」
正直これを口に出しただけでもうめんどくさいことになりそうな気はしたのだが、件の魔法使いが気分を害しでもした時の方がさらに面倒なことになる。
「そんなこともわからんとはな。いや、学のない平民にそれを要求することが過ちか」
これ見よがしにため息をついたソレは、説明を始める。
「まったく、私が慈悲の心を持ち合わせていたからいいものの、他の者であればどうなったことか」
といった感じに恩着せがましい言葉をところどころに挟みつつであるが、その理由は言うまでもない。
「説明してやってるんだから金をよこせ」
であろう。授業料だとか勉強代なんて表現も出来るかもしれないが、個人的には濁すことすらめんどくさくて。
同時にここでこの手の要求を突っぱねればあることないこと件の魔法使いに吹き込む上に説明とやらがなくなることも解っている。
役人時代ですら同僚へ賄賂が横行してるくらいに政府が腐っていたのだから、ぶっちゃけこの程度のこと驚くまでもなかったのだろう。
下級役人をやめさせられてそちら側から離れていたから少し忘れていたのかもしれない。
「一人暮らしの上に先の事件で暫く仕事にも出られず、大した蓄えはありませんが……」
ただ、できないことはできないとだけは言っておくべきだろう。ない袖は振れぬと。
「何だそんなことか。おまえは勤め先があるのだろう? そこから給金を前借すればよいではないか」
だが、こちらの予防策をあっさり超えてこられるぐらいのクズな要求をソレは助言の形でしてきたのだった。
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