第37話「咄嗟」
迂闊だったといえば、確かにそうだった。魔法使いの拠点や魔法使いがそばにいるときにコアと連絡を取ったり指示を出すことが憚られたのは確かだが、最初の殺人の時、僕は現場周辺のダンジョン化を解くように指示を出した。コアに指示を出せる機会は存在したのだ。現状では唯一の力を得られそうな場所ということで欲をかいてキープしたままなのが裏目に出た。
「どうかした……かい?」
「あ……いえ、病院にって思いはしたんですけど、もう外に出ても本当に大丈夫なのかなと思いまして」
訝しむ女魔法使いの声で我に返った僕はとっさに硬直の理由をでっちあげる。
「っ、そうか。話の途中だったからね」
「え、ええ。でも、とりあえず応急手当てをしましょう」
僕としても考える時間が欲しかったし、女魔法使いの傷をそのままにしておけないというのも僕の紛れもない本心だった。
「包帯とか何処にあるか教えてもらっても?」
「あ、それならここだ。隠れ家としての役割を持っている以上、負傷した身で逃げ込むことも充分想定されるからね。一刻を争う状態ってこともありうる」
「なるほど」
言われてみればもっともだった。早急に手当てができるよう入り口近くに救急箱的なモノをおいておくのは理にかなっている。滴った血で室内をあまり汚さないと言った意味でも。僕は肩を貸していた女魔法使いを座らせると示された場所にあった包帯やら薬やらを女魔法使いの膝の上に置いた。こちらの世界は前世と違って室内まで土足で侵入する文化なのだ。傷の上に巻く包帯を土足で歩く場所の床には流石に置けない。
「その薬は即効性があって塗れば傷を塞ぐことができる魔法の塗り薬だよ」
「そ、そんなものがあるんですか」
「希少だし余程の緊急時でもないと使ってはいけないことになっているけどね。ショージィ一人しか動けないなんて状況は拙いから」
「今回は緊急時に相当するってことですね」
話を聞いてどこかホッとしたのは、塗り薬のおかげで女魔法使いをダンジョン化が解除されていない病院へ連れて行かないといけない事態を避けられたからだけではないと思う。
「希少と聞くと持ってるだけで緊張するんですが……」
怪我人を前にまごついてはいられない。薬のふたを開け、ロール状に巻かれた包帯の先を解いて、先を四つ折りし、指の触れていない部分で薬を少し掬って傷口に塗る。
「ぐ、う」
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。傷口だからね、何が触れても痛いのさ」
痛みを堪えた表情の混ざった苦笑に僕は得心が言ってポンと掌を拳で打った。
「それはそれとして、塗り薬の量は?」
希少と聞くと適量だったか、使い過ぎていないかが気になってつい質問していた。
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