第12話「謝罪」
「申し訳ありませんでした」
魔法使いの紹介状があるとはいえ遅刻は遅刻。そもそも案内していた時間をなかったことにしても石畳の中とダンジョンの中に居たのでかなりの遅刻になっていた。たどり着くなり謝罪したのは当然のことだろう。
「遅ぇよ」
届け先である店の事務所に居たのは僕を待っていたであろう年配の男性が一人で、明らかに機嫌の悪そうな声でそう言った。
「すみません。あの、これ」
僕はもう一度謝ってから注文書をひかえ目に出し、魔法使いを案内して遅刻したこと、その証明に一筆書いて貰ったことも伝える。わざわざ書いてもらった理由でもあったし、今の仕事先には拾ってもらった恩がある。こんなところで取引先から悪印象は持たれたくなかった、が。
「はぁ? 嘘ならもっとマシな嘘をつけよ。魔法使い様がこんな田舎の街に来る訳ないだろ」
「ですけど」
確かに男性の言うことも一理はある。だからこそ僕も出会った時はおどろいたのだから。だが、この男性にも別の意味で驚かされた。証明一枚がある程度の効力を持ってしまう程に魔法使いは権力を有しているのだ。もしこの後僕があの魔法使いと再会して、ことのいきさつを話し、一緒にここを訪れたら、勝手に嘘だと決めつけたこの男性の立場はかなり拙いことになる。そして、僕としても一度口にしてしまった以上、実は嘘でしたと引っ込められない。
「『ですけど』でもなんでもねぇよ! 嘘も大概にしろってんだ、気にいら」
「どうした」
「あ、店長、実はこいつが――」
男性の声が事務所の外にまで漏れていたのか、店側の戸口から顔を見せた別の男性に僕の話を嘘と決めつけた男性が客観性皆無の説明を始め。
「……なるほど、遅れて来た上に『魔法使い様から遅刻を証明する書付を貰ったと嘘をついた』か……」
「そうです、言うに事欠いて」
「で、それが本当だったらどうする?」
「へ?」
説明を一通り聞いて反芻する店長と呼ばれた男性が切り返すと、得意げだった男性が固まった。
「魔法使い様のことを騙ってバレれば相応の処罰が下る。遅刻の言い訳につく嘘にしちゃリスクが大きいだろ」
「ですが」
「『ですけど』も何もないんじゃなかったか?」
「うぐっ」
先ほどの男性のセリフは最初から聞こえていたらしい。ともあれ、嘘と決めつけた男性を黙らせた店長は僕の方に向き直り、証明を見せて貰えるかいと口にし。
「あ、はい。これです」
嘘と決めつけた男性とは違う対応に僕はあの時書いて貰ったモノを取り出して見せることにした。
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