第4話「嫌悪」
「ある程度事情が分かったところで、まず言っておく。僕はこの迷宮と言う奴が気に食わない」
前世に呼んだ小説に主人公がダンジョンを運営するものがいくつかあったのだが、一部の例外を除き、僕は途中で投げ出した。理由としては、その手のダンジョンは侵入者を殺傷して糧とする存在であったからだ。
「人間で……お前を触った時点で人間でなくなったのかもしれないけれど、それでも僕は人間のつもりだ。同族を誘い込んで殺傷するような悪趣味なマネなんて御免だ」
僕の投げ出した小説の迷宮管理者はその辺りに葛藤も嫌悪も抱かないサイコパスとか頭のおかしいやつらだった。人間だからこそ、犠牲になる側の事情もある程度察せる。ダンジョンから溢れてきた魔物で自分達や大切な人の身に危険が及ぶから、だとか至極まっとうな理由でダンジョンに挑んだ人間を平然と殺してる描写を見た時は読んだことを後悔したものだ。
「はっきり言って快楽殺人やらかすような奴の思考回路なんて理解できないし、理解したくもない。迷宮管理して何の罪もない人間をおびき寄せて殺せだとか言うなら、僕はお前を砕く」
砕く手段がある訳でも思い浮かんだわけでもないが、前世の祖父たちに恥じるような生き方は出来ない。
「もし、ここにこのまま取り残されるようなことがあるとしても、そして一人誰にも知られることなくの垂れ死ぬとしても――」
「了解致しました」
「え?」
決意を語る中で、急に割り込んできた承諾に僕は面を喰らい。
「了解?」
「はい、了解致しました。ご主人様は何の罪もない人間の殺傷を良しとされない、そう記憶いたしました。そして、私からはそれは杞憂だと申し上げます」
「杞憂だって?」
聞き返す僕に石は言った。自身はあくまで道具であり、主の望まないことをさせることはないのだと。
「迷宮としての力を活用するのには迷宮内部もしくはコアに触れた生命体が死傷することで放出される力を必要しますが、この部屋だけであれば、二十年維持するほどの力は私の中に蓄積されています」
「っ、それは誰かを殺して得た力か?」
補足として明かす内容にまた嫌悪感を覚えつつ問えば、石はいえとこれを否定する。
「殺された前任者の生命の代価です」
「っ」
「前任者もご主人様の様に迷宮を運営することは望まず、『悪用される危険性があるから』と秘かに隠し持っていたところを何者かに嗅ぎ付けられ――」
あそこで殺された、ということなのだろう、だが。
「って、待てよ?! それじゃ、その前任者を殺した奴は?」
話を呑み込んで、ふと重要な問題に気づく。殺してまでこいつを奪おうとした人間が居たなら、なぜ無造作にこいつは石畳の上に転がっていたのか。当然の疑問が僕の口からあがり。
「私が殺しました」
石は何の感情も乗らぬ声で答えた。
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