第46話「事実」

「おいおい……」


 前世の母国と比べてこの国には圧倒的に地震が少ない。もし前世の母国の十分の一の頻度でもこの国で地震が起きていたなら、街にある橋の六割は崩落していると思う。

 何故解るかと言えば、手抜き工事の疑いがあることを思い出した橋だけでなく他の橋もいくつか調べてみたからだ。


「本当に大丈夫かこの国……」


 思わず口から呆れを隠せてない声が漏れたが、大丈夫ではないんだろうな。かつての上司も酷かったが、あの魔法使いの随行員は輪をかけて酷った。アレを随行させてる魔法使いの方もまず間違いなくロクでもないやからだろう。


「国に仕えている人間の中でも上の方に居る連中が腐ってるとかなぁ」


 家族が居らず外国語が堪能だったなら国外脱出を考えてもいいかもしれないレベルで絶望しか見えない。


「それはそれとして」


 直近の問題は橋か。崩落で犠牲者を出すくらいなら危ない橋はすぐにでも崩しておくべきとも思えるが、街の住民には橋が使えないと困る人間も多い。とは言え、魔法使いご一行以外が渡っている時に橋が崩れて犠牲者が出るのは避けたくて。


「うん? あ、出来るじゃないか」


 魔法使いやその身内が橋の崩落に巻き込まれて死んだとすれば、まず間違いなく騒ぎになる。責任問題と言うかどこの業者が施工したんだという犯人探しは行われるだろうし、結果施工業者が見つかれば同じ業者の作った橋にも疑いの目は向けられるだろう。

 それで、他の橋も大丈夫かと人が利用しなくなって誰もわたっていないタイミングで橋を崩落させるのだ。結果的に橋を利用していた住民には不便を強いてしまうことになるが、犠牲が出るよりはマシだと思って貰うしかない。

 正直、複数もヤバい橋が街に架かっていたのは予想外だったが、選択肢が増えたともいえる。魔法員の随行員を崩落に巻き込むならどうにかして随行員に件の橋を通って貰わなければいけなかったが、これなら崩落のおそれがある橋のどれかさえ通って貰えればいいからだ。

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