第36話「不可解」


「犯人らしいのとよくわからない男が戦っていた、か……」


 つぶやく僕のそばには誰もいない。千載一遇の好機と男の魔法使いは女の魔法使いを連れだす形で先ほど出て行ったからだ。


「なんだかなぁ」


 聞いたところ戦っていたのは非合法な活動に身を置くものではないかとショージィは推測を残していったわけだが、僕の心当たりで人かもわからない化け物相手に襲い掛かりそうな相手はコアを狙っていた連中くらいしかいない。

 とはいえ、もしそうだとしてもアホとしか言いようがない。昼日中の街中で戦い始めて魔法使いに捕捉されてるのだ。


「連中も魔法使いがこの街に滞在してることくらいはつかんでると思ったんだが……」


 と、声には出さず、心の中で漏らす。

 こんな状況で尻尾を出す理由がわからない。魔法使いの片割れは杖を普通に持って魔法使いであることを隠してもいなかった。目をつけられたら拙いことぐらいは理解しているはずだ。

 このままではあの魔法使い二人の漁夫の利にあって殺人犯もコアを狙う連中も両方捕殺される展開だってありうるというのに。


「ん? 漁夫の利?」


 まさか、目撃されるのは承知で、駆け付けたあの魔法使い二人に殺人犯を押し付けるつもりだったとかだろうか。

 そう、漁夫の利こそが真の目的だったというかのように。


「いや」


 それはない。魔法使いに自分たちという存在が無意味に露見してしまうわけだし、仮に漁夫の利として魔法使い二人を倒して口封じしてしまうつもりだったとしても、この街から魔法使いが還らなければ、それこそ国が動くだろう。貴重な人材であることもあるが、その人材が二人やられてしまったかもしれない何かがあったかもしれないとなれば、国だってこれは無視できないはずだ。


「情報が足りないな」


 とはいえ、身を守ることもできない今、情報集めのために外に出るわけにもいかない。かといってコアと連絡を取るのもここが魔法使いの拠点の一つであることを鑑みると抵抗がある。一見すれば何の変哲もない部屋だが、侵入者や設備への干渉を感知する仕掛けでも仕込まれていた日には窮地に陥るのは僕だ。


「待つしかないか」


 コアを狙う連中は明確な敵。殺人犯も僕に罪を擦り付けようとしたのだから、敵とみていい。他所でも事件を起こしてるなら、僕を不憫に思って勝手に復讐をしたなんてケースはほぼないであろうし、敵と敵がぶつかって勝手につぶれてくれるなら歓迎すべきことでもある。

 ただ一つ、コアを狙ってる連中からこの街でコアが行方不明になってることが魔法使いたちに伝わる可能性があることは気になるが、戦闘能力的な意味でも立場としても僕がここを出てゆくわけにはいかないのだから。


「動きがなければ察知されることもないが、その分何もできない、か」


 これでいいのかは疑問も残るが、うかつな行動もできず。僕はただ出かけて行った二人が帰ってくるのを待つのだった。

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