第16話野望

しかし、孝がそんなチャンスを他人には渡さなかった。


孝は、被験者2号3号と二人にも妙薬を試した。


二人とも遥香と同じ状態になる事が分かると緒方を監禁して学会で孝が発表した。


孝は、称賛を得てスポンサーがいくつも付いた。


ノーベル賞には届かなかったが妙薬を自分の工場で試した。


妙薬は、倍の早さで妊娠を稼働させた。


遥香もまた圭介の子供を妊娠した。


孝は笑いが止まらない日々が続いた。


緒方にも妙薬を使って飼育して研究者という肩書きを忘れさせた。


圭介は、いくら薬のおかげだとはいえ遥香に好かれている事は幸せだった。


緑は産休がとっくに明けても仕事には復帰しなかった。


「緑には、幹部と父が言ってるよ。」


「わたしは、家庭であなたと子供を世話してる方が向いてる。」


と断ってきた。


今や称賛を受けている孝は再び総理大臣に返り咲いた。


孝はどこまでも常に貪欲であった。


総理大臣になり少子高齢化に歯止めを効かせてタイムイズマネーを掲げて働く者にはいくらでも金を払った。


そんな孝を見ていた圭介は複雑な気持ちを抱いていた。


圭介も家庭に和むようになった。


娘を見ていると牢屋にいる遥香を思い出す。


力は、孝に相手にされなくなり良く圭介の家に来るようになった。


恵は、力に明らかな【好き】


が行動になっている。


「力君は、将来何をしたいのかな?」


「僕は、政治家になりたいです。」


力は、涼しい瞳を開けて言った。


「そうか…。」


孝に教育が強く影響していた。


「力君は、パパに似てるから同じ研究者になれば?」


力は、汚い物を見るような瞳を恵と圭介に向けた。


「僕は、お爺様と同じ政治家になって革命を起こしたい。」


「革命?」


「はい。」


力は、トイレに無言で入った。


「恵、力君が好きかい?」


「うん…。大好き。」


危険だと圭介は思った。


力は孝の血が流れている。


野望を持っている。


力を育てようと教育を矯正するんだ。


孝の分身が野放しになれば危険だ。


「力君。」


トイレから出てきた力は異常に手を洗う。


「何ですか?伯父様。」


「今日からうちの子供にならないかい?」


「条件があります。」


「条件?」


「母に会わせて下さい。」


手を洗うのを止めて低い声で力は言った。

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