第15.5話 広子
暗闇から目を開くと、いつもの席に座っていた。カッターで切り刻まれ、落書きの残る卓。黒板を見れば大きく死ねと書かれている。
俯いて、机の一点だけを見ることにこだわってみる。そのうち、何もかもの意味がなくなる。全てが一つになって、善も悪も、苦しみも快感もなくなる。痛みも、安らぎも。
人っ子一人いなかったはずの教室に、チョークの音だけが響き渡る。きっと人の言うことを聞くのに飽きて、勝手に生きることにしたのだろう。そのうち椅子や机が震えだした。かたかた、かたかた、最初は遠くの方だけでしていた物音は今や教室全体に広がり、堪え難い音量になって襲いかかってくる。
助けを呼ぼうと立ちかけた広子は自分が口を聞けないことを思い出した。そのうち机が、椅子が、宙に浮き始めた。自分も宙に浮いた。遠くに雪を被った山が見える。
急峻な山、どこで見たかも忘れてしまった気高い山に手を伸ばそうとすると、なにか黒い靄のようなものが邪魔をする。足は椅子に吸い付いたように動かず、恐ろしくなって下を見ると、真っ暗な底なしの穴が、口を開けていた。
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