第5話 正夢

放課後、いつものように周りから出遅れて学校を出た司は、例になくたった一人で歩いている八月一日をみつけた。

風のない日で、紋黄蝶は空中を揺蕩たゆたうように舞い、崖に咲き乱れる彼岸花は真っ直ぐに立ち、森の方からは龍の髭が白い花を差し伸べている。その景色の中に混ぜ込まれたように、八月一日は歩いている。

「レイ、レム、ヨシ、コウ。」

振り向いた顔は恐怖で歪んでいた。目を見開いて、歯を食いしばっている。これが、これがお前の死。これがお前の世界の終焉。司は静かに歩みを早め、いつの間にか走り、その勢いのまま青年の胸を貫いていた。

「夢の続きは、また後で聞くよ。」

叫び声が響き渡った。ここから見える全ての場所へ届きそうなほどの絶叫、肉の生命をかけた最後の声はしかし、夕焼けの中に沈んでいく。

風が出て来ていた。彼岸花が揺れる、紋黄蝶が止まる。引き抜かれた白い手からいく筋もの血が流れる。

「夢は終わる、この命も、この国も、この世界も。その前後が変わるだけ。しかし君なら生き残れるかもしれない。」

苦悶の表情のまま動かなくなった青年の体を抱き上げ、また歩き出した。後には小さな花のような血痕が続き、そこに蝶が止まっていた。

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