第6話 B.E

見慣れた姿だった。黒いブレザー、校則を破った黒いシャツ、耳にかかる青い玉。黒い青年が、赤く染まった道を背負って死体を抱えている。まだ鮮血が流れ、その美しい白い手を黒く染めていた。

「なぜ、あなたが。」

車を開けてやり、中に入れる。虚空を見つめる青年に代わり、瞳孔の開いたその目を閉じてやる。死体を抱えた青年は忍びやかに笑う。

「この肉が、そんなに大事か。」

真っ黒な瞳をみつめる。生からも死からも見放されたような青年は、善良なるものから最も遠かった。

「たとえ入れ物であっても、何年もその中にあれば愛着も生まれるものです。」

「ならば君は牛も豚も食べる資格はないな。」

躍起になって口を開きかけ、言葉を飲んだ。司 聖秋に人と動物を分けろということは、白人と黒人をわけろというのと同じことだと知っている。

微笑みを浮かべ、暮れなずむ街を眺める青年の膝の上には、死者の頭が乗る。

「なぜ、このようなことを。」

独り言だったものを、今度は明確な質問として主人に投げかける。道の明かりがつき始め、雲は最後の強烈な光を受けている。

「試して見たくなった。こういう人間が、いつまで生きていけるのか。」

老人は顔をしかめた。青年の人格を疑ったことはこれまでほとんどなかったが、今日ばかりは納得できなかった。

「生あるものは、ただそれだけで美しいものではないですか。」

「・・・否定する気持ちはわかるが、これは別に特殊な行為ではない。分かるかB.E、私にも、この青年にも、街行く人にも、疑いの余地なく殺人鬼の血が流れているんだよ。それを今更正論や罰なんかでこの衝動を抑えることなんて、ほとんど無意味に等しい。人は皆生きているだけで罪人だ。カインとアベルの頃から続く、人殺しの血筋が、私にも流れているというだけだ。B.E 、非難するなら私が死んだあとにしてくれ。」

指示があって大豪邸の前に止まる。B.Eと呼ばれた男は密かに眉をひそめた。

「また、ですか。」

静かな、寂しげな表情に口を噤んだ。

「確か服は荷台にあったね。」

死体を無造作に落とし、拾うこともせず車から降り、荷台の荷物を引っ張り出す。臙脂の箱に、黒いリボンが巻いてある。

「ここで待っていてくれ。夜明け前には戻れるはずだから。」

親を亡くした青年が、この執事と、自分の生活とを賄うために何をしているのか、B.Eにはわかっていた。止める資格もないことを知っていたが、偶にこの理不尽を呪いたくなる。

それでも真っ暗な屋敷へと歩みを進める青年を姿が見えなくなるまで見送り、それから後部座席を見遣った。そこには命のかけらもなく、吹き消された蝋燭より無残な最期が横たわっていた。

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