第10話 R.X
日曜だというのに早朝から身なりを整えるのを、少女は驚いて目で追った。
「出掛けるの?」
「君も来るか。折角だし、面倒でなければ。」
喜んで立ち上がり、 すぐに準備するからと言って新しく与えた部屋へ消えていく。
「珍しいな、お前が仕事場に誰かを連れて行くなんて。」
浅黒い肌の青年は階段の手すりに腰掛け、豹のように鋭くて普段獰猛なその目を細め、愉快そうに男を見る。
「彼女にとって苦痛では?」
「だから、人には合わせない。気になるならお前が付いていてやればいい。」
真っ黒なスーツとシャツ、そこに銀色の繊細な十字架を掛けている出で立ちは、そのまま葬式に行くように見える。司は少女が出てくるまでの暇を、そばにあった砂時計で埋めている。
片方にあった時間が、使い切る前に 新しい時間へ導かれ、その新旧が混ざり合い、今度は空になるまで落ちていく。
「寿命なんてね、意味がないものだよ。その人が病死だろうが、変死だろうが、事故死だろうが、殺人被害者だろうが自殺だろうが、結局生まれてから死ぬまでが、生きていられる時間だ。それになにか不平等があるだろうか。」
金色の目は何かを語ろうとしてやめた。この青年に何を言ったところで無駄なことはよく知っているし、そのままの方がよほど面白いとR.Xは思う。砂時計を弄るのにも飽いたらしい男は次に鈴を拾いあげた。代わりに砂時計は放り投げられる。
なんの意思も感情もなく転がる砂時計をみて、この男にとって生きている時間への関心など、この砂時計に向ける程のものでしかないのだろうと、奇妙な笑みを浮かべた。
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