第9.5話 丹羽

畳のいい匂いがしていた。右のずっと奥には真っ黒のテレビがあり、後ろの高いところに窓がある。今は夕暮れ時で、斜めになった日の光が背中にあたり、暑いほどに温かい。

消し忘れたラジオが隣の部屋で気象予報を流している。東には台風、西には山火事。こんなことでは世界が滅びる。ぼんやりした頭は自分の影の黒々として長いのを、そしてそれに反抗するように燻んだ光を反射する白い肌を見る。

足の間に落ちた影が、蠢いているようにみえた。幾千の命の塊が叫び声をあげ、白いところを塗りつぶそうとしているようで、にわかに怖くなって影を毟り取ろうとする。何度も肌を引っ掻いて、 黒いものを取り除こうとして見ても、どんどんそれは存在感を増し、全てを染めようとする。嫌な汗が頰に背中に流れた。灼熱の太陽が全身を焼いているようでありながら、黒いものは一向に退こうとしない。

しまいには耐えられなくなって身体中をかきむしり、無闇に金切り声をあげた。

「今俺は生きている!死んだことになんかするな!」

そんな風に叫んだのだと認識したのと同時に、丹波にわは目を覚ました。

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