第17話 "identity"

R.Xはため息をついた。面白そうだと思って覗いてみた蘇生者は悉く消えかけていて、あの暗い目を思い出した。

「あら?あなた、外国の人よね。」

最近蘇生させたのだろう、黒髪の少し冴えない女は軽く微笑んで校長室は二階にあると親切に案内する。

面倒なことになりそうだと思った彼は、ただ手短に、特に用があったわけではないと言い、また、少しだけ教室の様子を見たいと付け加えた。

「変わってらっしゃるのね。多分それくらいなら大丈夫。でも、気づかれないように気をつけて。」

にっこり笑いかけると、彼女もそれに合わせて笑う。罪というものが、消えた存在だった。

彼は漸く観察対象を見つけたと満足げに笑みを浮かべ、廊下の支柱に寄りかかり彼女を見守る。

(死ね、消えろ、エトセトラ・・・彼女はもうその言葉になにも感じないのに。)

自らの手にさえ、わずかに重みを感じた。それをためらいもせず振り払う。

(ご苦労なことだ。司も、あんな手帳燃やして仕舞えばいいのに。)

R.Xは再び深いため息をついたが、その次の瞬間、少女は魂の抜け殻だけを残して消えてしまっていた。

彼以外の誰も、彼女の消滅に気づいていないようだった。

R.Xは家に帰ると、シオンがいるはずのドアを開けた。消えていたらと思った少女はしかし確かにそこにいて、華やかに微笑む。足元では黒猫が鳴く。

「どうされたの?」

無垢な表情から逃げるように階下に降りた。そこにあった鏡に自身を映す。

確かにそこにいる。金色の目、茶色い肌、黒い髪。

鏡に頼らなければ見えなくなってしまうほど本質を歪めたことを悔いたあと、司のもとに向かった。

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