白昼夢

最近転校して来た金髪の少女と黒い青年が、ステンドグラスの嵌められた音楽室でワルツを踊っていた。この日の音楽の授業は特別な教師を招いていて、観客となった生徒は皆仮面を被り、パイプ椅子に腰掛けている。机もない特殊な音楽教室の中で、静かな伴奏に意識を惹かれ、暖かで息苦しい微睡みに沈み込む。

司とシオンはオレンジや赤や青の光の中、緩やかに回転する。

昼下がり、暖かな陽の光が入り込んでいた。ピアノが鳴っているはずが、どこか静かで、頭の芯が麻痺したようだった。

前では人が優雅に踊っている。二人がともに美しかったが、いずれもどこか人間離れして見え、怖気立つような雰囲気があった。

このときは誰もが名前を忘れたようだった。大声で叫ばなければ、この異常から、このある種恐ろしい静寂から逃れられない気がした。

青やオレンジがふたりを染める。二人は回る、止まることのない永遠のワルツ。

光の中はむやみに暖かかった。近くて遠い音が聞こえる。これは人が出す音ではない。周りはみな機械仕掛けの、道の隅に捨てられた哀れな人形なのだ。その只中にあって、白と黒は混ざり合う。そこに善も悪もなく空気に溶け込んでいく。

1.2.3,1.2.3、回れば回るほどに全てが曖昧に、無意味になっていく。窓の外を奇抜な服を着た道化が通る。

1.2.3,1.2.3、天使は地に落ち、悪魔が天に昇っていく。

1.2.3,1.2.3、法律も定理も倫理観も、ばらばらの文字になって姿を消して、元の混沌へと戻っていく。

1.2.3,1.2.3、人間的な理性がなくなっていく、堪え難い虚無が胸に広がっていく。

なぜこんなにも静かなのか?世界が崩壊する時というのは、ガラスが砕けるような繊細にきらびやかな音がするのでなくて、生活のふとした隙間から蝕んで、混沌と虚無という不可解な引力の中に消えていくのだろう。

いつの間にか音楽は終わっていて、二人はまた別のものとして並んで立っている。

狂ったような拍手が静寂を破ろうと試みる。しかし頭は眠ったままだ。

そのうち叫びだしたものがある、友人と話し始めたものがある。そうしてなんとかこの世界にとどまりながら、ぞっとするようなあの瞬間を思い出して静かにおののく。しかし白昼に晒された髑髏はただひたすらに微笑みを浮かべていた。



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