第13.5話 絹丘

いつの間にか見知らぬ森の中に立っていた。見回すと木々がすぐ近くにも生え出ていて、しかし生き物がいる感じのしない、静かすぎる場所だった。風も吹かない中に、何かがまつ毛の上に、肩の上に、仄かに落ちて来た。なんということはない、すぐに溶けてしまうような雪である。落ちてくる雪片が先ほどのようにはなかなか自分に当たらないので、その冷たさを求め、追いかけているうちに、少し離れた木の合間から、この世で一番大切な人が呼びかけ、手を振っているのを知った。

「今行く」

そのとき、雲の切れ目から光が漏れた。降る雪は黒く見え、木々は輝き出す。

「今行く」

また言うのだが、気付かないうちに雪に埋もれていた足は、思うように動いてくれない。焦れば焦るほど足は埋まっていき、冷たくて寂しくて、怖くて悲しくて、藻搔くうちに鼻先まで埋り、最後には愛しい人まで見えなくなってしまった。

(宇佐、宇佐!)

叫ぼうとしても息苦しくて声を紡げない。そうこうするうち窒息しないことを不思議に思い、絹丘きぬおかは目を覚ました。

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