第4話 ブラコンとライバル



4




「ただいま~」




悠人は小さな花束を抱えてようやく我が家へ帰還。すっかり遅くなってしまい、妹はムクレているだろうと思っていたら――




「おかえり悠人くんっ!」

「んむぅ!」



「ああっ、こんなに大きくなって……♡」

「んぐっ!ふむっ、んんん!?」



「ん…っ、あん、もう♡ 相変わらずおっぱい好きの甘えん坊なんだから…♡」

「むがむがむが!?」




イキナリのヘッドロック!


しかも、




(こ、この…凄まじい重量感は…!?)




セーター越しの柔らかい感触。頭を胸に抱えるように押し付けられ、視界も塞がれて身動きがとれない。凄まじい重量のおっぱいが頭を、顔を圧迫している。




「…膣内射精予定おかえりなさい…」




悩ましい感触から顔を上げれば、美しい満面の笑み。




「あ、秋穂さん!?」

「…もう、名前を呼ぶのが遅いわよ?会ったらすぐに名前を呼んで抱きしめて欲しかったのに」

「そんなヒマなかったですよね!?」

「あら、そうだったかしら?」




てへ、と舌を出して笑う和風美女。大人の女性がするには子どもっぽい仕草だが、彼女からは違和感を覚えない。妖しく、小悪魔的な色香に二の句が継げない。




「あの、秋穂さん…なぜ、ここに…?」

「ウフフ…、気になる?」

「そりゃもちろん――って、ちょっと離してもらえませんか、その…当たってますので」

「あら、何が当たってるのかしら? 具体的に言ってもらわないと分からないわ」

「相変わらずグイグイきますね!?」




うふふ、と妖しく笑う有栖川秋穂ありすがわあきほ――悠人と明日香の叔母であり、保護者である。幼い頃から母代わりとなって面倒を見てくれた恩人であり、悠人は決して頭が上がらない。




「それにしても、久しぶりね悠人くん。元気そうで良かったわ」

「秋穂さんも元気そうで―――」

「下のコも元気になったかしら?」

「仮にも保護者がなんてコト訊くんですか!」




『叔母』と言っても秋穂の年齢は二十代そこそこで、世間一般のおばさんイメージはない。それに秋穂は他の大人たちよりもずっと美しい。



化粧っ気のないナチュラルメイクに、ゆるりとお団子に巻いたロングヘア。口元の黒子ほくろがセクシーな、艷やかでたおやかな雰囲気をもつ和風美女。



そして、どこよりも目を惹くのは細身には不釣り合いな大きな胸で――




「ふふっ、悠人くんってば相変わらずカワイイんだから…」




キレイで、優しくて、イイ匂いのするお姉さん。それが悠人の第一印象だった。




「ああ…っ♡でもでもっ!悠人くんの困った顔…ああんっ、もっともっとイジメたくなっちゃう…っ!」




キレイだけど、なんかヤベぇお姉さん。それが悠人の総合印象だった。




「とにかく!秋穂さん!ちょっと!離れて!くだ、さいっ!」

「ああんっ、もう…強引なんだから」

「秋穂さんに言われたくありません!」




細っこい肩を掴み、悩ましい感触から無理やり抜け出す。これ以上おっぱいを顔にぐりぐりされたら今度はこっちが当てしまうのだ。こちらは健全な思春期男子であり、聖人君子でもなんでもないんだから。




「うふふ、びっくりしてるようね?悠人くん」

「ええ、そりゃそうですよ」

「それに『イキナリおっぱい』だったものね?」

「…そんなどっかのステーキショップみたいに言わなくても…」

「びっくりドッキリーは楽しかった?」

「……秋穂さんって飲食店好きなんですか? しかもチェーン店」

「ええ、そうね。研究所帰りによく利用していたもの」

「さいですか…」




保護者の秋穂は悠人たちと同居せず、海外で薬品の研究をしている。若い研究員としては特に優秀らしく、秋穂のおかげで難病に効果的な薬が実用化されたらしい。詳しいことはも悠人も知らないが、叔母は世界でも屈指の科学者なのだとか。




「ああ…、それにしても久しぶりの我が家、そして――」

「えっと…な、なにか?」




そんな妙齢の才女がふるふると肩を震わせたかと思うと




「あぁ…っ、悠人くんの匂い…感触…ああ…っ!昂ぶっちゃう…!」




頬を赤らめて身悶えて………え、エロい――




「あぁっ♡ まさに此処は天国パラダイスね」

「…さいですか…」

「今なら中毒患者の気持ちが分かるわ…こう、ユウトニウム、、、、、、が滲みてイって――ああっ♡」

「救急車呼びましょうか!?ちょっとは落ち着いてくださいね!?」




和風美女のハッスルが止まらない。


『清楚系ビッチ』とか『和風痴女』とかそんな失礼すぎる単語が脳裏をよぎるが、しかしスゴい人なのは確かなのだ。子ども二人を当時はまだ学生だった秋穂が引き取ってくれたのだから。




「コホン! あの、ところで今日は遊びに来てくれたんですか?」

「ええ、悠人くんで遊びに――ではないけど、まぁ挨拶にね?」

「不穏な単語はスルーしときますけど、挨拶って何のことです?」

「それは明日香ちゃんが居るところで説明するわね」




そう言って秋穂さんはスリッパを差し出してくれる、ピカピカのそれはお土産なのか新品だった。




「そういえば、明日香は…?」




いつも帰ってくればパタパタとスリッパを鳴らして走ってくる妹だが、今日に限っては姿を見せない。狭い我が家では会話はどこに居ても聞こえているはずだが、一向に現れない。




「明日香ちゃんは………ヘンタイな事になってるわ」




戸惑っていれば、秋穂さんが目を伏せて暗い顔をしている。憂いを帯びて深刻そうな表情だが言葉の内容はどうもおかしい。




大変、、じゃなくて、ヘンタイ、、、、ですか」

「そうよ……まさか、あのコがあんな性癖をもってるヘンタイさんだったなんて……お姉さんちょっと悲しいわ」

「俺が言うのもなんですが、秋穂さんも大概ですよ」

「あら?ナニがどう、タイガイなのかしら…? ふぅー」

「はぅ…っ! ちょっと!耳に息を吹きかけないでください!」




美女の吐息攻撃を喰らいながらリビングへ入ると、そこには――




「んんんっ!おにぃちゃんんんっっ!!!ふむむむむ~~~~っ!!!」




椅子に縛られた、メイドさんが、居た。




「なに…を、してるの……?」

「んん! むがむが! ふむっんん~!!!」




メイドコスの明日香が懸命にもがいている。足をジタバタさせてうめいているが、しかし何を言っているか分からない。身体を縛る縄がキツイのか、それとも身動きの取れない屈辱からか、真っ赤になって憤慨していた。




藻掻くメイドの猿ぐつわ(※ハンカチ)を解いてやれば、




「ぷぁっ…! おかえりなさいませ!ご主人様!」

「ただいま――って、一言目がそれかよ」

「これはメイドとして大事な言葉ですから!」

「………お前は今、人として大事なものを失ってるぞ………」




明日香の凸凹の激しい肢体がロープに絡み取られ、特に大きな胸がいやらしい形に押しつぶれている。縄が少女の身体を縦横無尽に絡め取り、グラビアアイドル顔負けの肢体は艶めかしさを増している――――なんて格好してるんだ、コイツは。




「うぅぅ~、ご主人さまぁ、助けてください……」




涙で潤んだ大きな瞳。湿った唇も物欲しそうで――はっきり言ってエロい、エロすぎるドエロメイドだった。




「と、とにかく解いてやるから動くなよ?」

「お願いします!ご主人さまぁ…っ!」

「お前はなんでそんなに恍惚としてるんだっての。顔赤いよ」

「それは……縄が苦しいのがその、ちょっと気持ちよかったり……キャッ♡」

「……もう喋らないでいような、明日香」




縛られているエロメイド(妹)が頬を赤らめてうっとりしている。入学式で華々しいデビューを飾った優等生は理性など地平の彼方へ捨て去ってしまったようだ。




「くんくん、ああっ!ご主人様の汗の匂いもいい感じです!」

「……もう黙っていようか、明日香」

「あっ…!ん…っ! く、くすぐった…い!」

「ちょっ! ヘンな声だすなっての!」

「だ、だって…あひっ! あんっ!」




縛られて不自由な身を捻る明日香はひどく扇情的で、時々触れてしまう冷たい肌の感触もドギマギしてしまう。




「ああっ…!そこ…、ダメですぅっ!ご主人さまぁっ…!」

「ヘンな声だすなっちゅうのに!」

「だって、我慢できな――ひゃぁあんっ!」




官能的な熱を帯びてゆく声。ギリギリ捲りあがる白黒のスカートも、ロケットのように強調される巨乳もはっきり言って目の毒すぎる。縄で縛ったのはその道のプロだろう、女体が傷つかないよう緩やかに、それでいて頑丈に縛られている。




「というより、縛ったのは――」

「叔母さんです! 秋穂叔母さんにやられました!」

「な、なんでこんなことを…?」




結び目と格闘しつつ振り返れば、秋穂さんは嫋やかに微笑みながら




「…仕方なかったの。明日香ちゃんが昔みたいに『お姉ちゃん』って呼んでくれないから…」

「そ、そんな理由で……」

「悠人くんにとっては『そんな理由』かもしれないけれど、私にとっては大問題なの。決して私が先に悠人くんをお出迎えしたかったから、なんて理由じゃないの」

「は、はぁ…」




静かなるプレッシャーを放つ和風美女。だが私はツッコまない。




「それに明日香ちゃんったら『お兄ちゃんをメイド服で出迎えたら、びっくりして発情して押し倒してくるかもです!ウフフ!』とか口走ってたから…」

「それは縛ってくれてありがとうかもしれませんね。とんだケダモノじゃねぇか俺」

「『お兄ちゃんメイド妹に発情!そのまま玄関で子作りEND』だと思ってたのに!期待してたのにぃ!」

「お前の中でゲームの話はまだ続いてたのか…そんなエンドは永遠に来ねえよ」

「母子手帳だって準備してたのにっ!」

「どんな判断だ。理性をドブに捨てたのか」




やっと縄を解き終われば、ブラコン妹は大層ご不満な様子で。頬を膨らませて叔母であり保護者の美女を睨みながら




「どうしてくれるんですか秋穂さん!私とお兄ちゃんの記念すべき夜が台無しになっちゃったじゃないですか!」

「記念すべき夜って…?」

「俺に訊かないでください」




不思議そうに見つめられても、凡人にブラコンの思考が分かる筈もない。




「私とお兄ちゃんと、新たな家族が増えるハズだった夜に!なんてことしてくれちゃったんですか!」

「新たな家族って…?」

「だから俺に訊かないでください」




ツノでも生えそうな勢いで食って掛かるメイド明日香。顎に指を当て、色っぽく小首をかしげる秋穂さん。


もともと二人の仲は良い方ではなく、こうして言い争う事は昔から多い。どちらも突っ走ったら止まらない、邪魔するものは弾き飛ばす――そんな似たものタイプなのだ。




「秋穂さんのせいで私の家族計画は10年は遅れを取りました!お兄ちゃんの好感度だってMAX120%だったのに!今日だってバッチリの日だったのに!」

「よく分からないけれど、当たらなければDOドゥーということはないのよ?」

「お兄ちゃんのは量も多いし、とっても濃いので大丈夫です!問題ないはずです!」

「でも、初めてだから緊張してイケない…なんてこともあるのよ?」




二人がナニを言っているのか分からない。最早、手に負えない。こんな怪物二人を相手に僕はどうすればいいんですか(敬語)




「お兄ちゃんに限ってそんなことありません!きっと目を血走らせながら何度も何度も求めてくるはずです!私はその愛をバッチリ受け止めるんです!」

「明日香ちゃん…貴方はちょっと誤解をしているわ。お腹の上にいる殿方の頭を優しく撫でてあげる、癒やしてあげるのが淑女の役目よ」

「な、なるほど…」



「それと、今日から私も同居するんだから悠人くんの初めて、、、は私のものよ?」

「何を言ってるんですか!!そんなのダメに決まってます!!お兄ちゃんの初めては私がおいしく頂くんです!秋穂さんにはあげません!」

「悠人くんの童貞はぜったい私が奪うって決めてたんだから…やっと邪魔者が手を離れたんだから、私はヤるといったらヤるわ」

「誰が邪魔者ですか!私はお兄ちゃんの愛する妻でありメイドでもあるんですよ!」




放送禁止なヒドい台詞が飛び交っている気がしても、もう何も考えられない。考えたくない。こんな二人を止めるなんて僕にはできない。




目の前で繰り広げられる美少女メイドと和風美女のやり取りに、長瀬悠人は――




「入学おめでとうな、明日香…」




そっとテーブルの上に祝いの花束を置き、その場を去るのだった。場違いな優しい笑顔と共に。




ブラコン妹にキレイで危ないお姉さん、それにクール系モデル美女、ヘンタイでアホな友人たち――これからの学園生活、一体どうなることやら。



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