第10話 フロで弾けるドSな本性
1
初めは動揺していた悠人だが、湯船を秋穂に譲ってからは落ち着いていた。
「明日香、ココに座ってくれ。頭を洗ってやるから」
「ん」
「いいって言うまで目をつぶってろよ?」
「ん」
ぎゅっ
兄の言葉に従い、必死に目をつぶる幼い少女。悠人は明日香の髪を湯で流し、シャンプーをわしゃわしゃと泡だててゆく
「痒いところはないか?」
「……ん」
「了解。ここらへんか?」
「ん!」
「こら、分かったから動くなよ?」
目や耳にシャンプーの泡が入らないよう注意しつつ、悠人は小さな頭を洗ってゆく。
傷つかないよう指先で優しく頭皮を刺激し、髪は絡まないようにゆっくりと撫でながら。その様子は子育ての経験がない秋穂から見ても手慣れており、明日香も気持ちがいいのかじっと動かずに大人しい。
「そういえばこの頃の明日香って、穏やかな性格だったよな…」
「?」
「物静かで、聞き分けも良くて…でも徐々におかしく――いや、おかしくは無いんだけど、妙な感じに…」
「?」
幼い明日香の素直さに成長後のギャップを感じて愚痴る悠人。
初めは面食らっていた悠人であるが、早くもこの特殊な状況に馴染んでいる。毎日のブラコン妹の奇行が要因なのか、案外にも肝は座っていた。
「大丈夫よ。うまくいけば『今』の明日香も大人しくなるはずだから」
「そうだといいんですけどね…」
「それより悠人くんって、
「昔はよくやってましたからね」
「まあ、そうだったの」
湯船から声をかける秋穂。この状況を仕組んだ張本人が驚いたように目を開いている。
「昔はよくヤッてたなんて…悠人くんも案外オラオラ系だったのね」
「そういう意味じゃありませんよ!明日香の面倒を見てたって話です!」
「ふふ、冗談よ冗談」
「…まったく」
湯気の向こうで和風美女がしとやかに笑っている。悠人は声の主をあまり見ないようにしながら妹の頭を洗い続ける。
「ふふ、これならいつ子どもが出来ても安心ね♡」
「何を言ってるんですか何を!」
「あら、別にヘンな事は言ってないわよ?私も悠人くんもいつかは結婚して、子どもを持つでしょう?」
「ま、まぁ、そうですね…」
「うふふ、おかしな悠人くん」
からかうように目を細める秋穂に、しかし悠人は答えない。
なぜなら秋穂の裸は湯で見えないものの、豊かすぎる胸を浴槽の縁に置いていた。それは胸のボリュームを最も強調する体勢で、抗いがたい光景に悠人は必死に目を逸らす。
(……ったく、あれは反則だろ……!)
『妹が薬で幼くなる』というただでさえ非現実的な状況の中で、グラマラスな叔母と一緒にお風呂である。肝心な部分はタオルで隠しているので大丈夫だと思うが、気恥ずかしさが半端じゃない。純粋無垢な明日香に集中することで悠人の理性はぎりぎり保っていた。
(胸って本当に浮くんだな…たしか秋穂さんはHカップとか言ってたっけ――って何を考えてるんだ俺は!)
髪を洗う手を動かしながら、悠人は必死になって欲望を追い払う。
先程抱き合ったせいで柔らかで弾力もある胸の感触は知ってしまっているし、今も生々しい感触が身体に残っている。少しでも気を抜けば秋穂の方を向いてしまいそうだ。
(これで明日香が『今』の明日香だったらヤバかった…!子どもに戻ってくれて助かったというか…)
シャンプーを泡立てながら跳ね上がる鼓動を落ち着かせる。浴室の熱気のせいか、それとも目に毒すぎる光景のせいか、悠人は目の前が少しだけぼうっとしてきて。
「それじゃ、悠人くんの背中を流すわね」
「――は?」
その時、湯船に浸かる秋穂がとんでもないことを言い出した。
「いや、俺は自分で洗えますけど…」
「ダメよ。それじゃあ三人で入る意味がないでしょう?」
「えっ、あの…」
「ほら、そのままでいいから」
断ろうとする悠人の背を叩き、秋穂は湯船から出て背後に回る。悠人は拒否しようにも明日香を洗っていて動けない。
「人に洗ってもらうって気持ちいいのよ?」
「いやいや、大丈夫ですって!自分で洗えますから!」
「悠人くんの背中なんて、今まで洗ってあげたことは無かったでしょう?少しはお母さんっぽいことがしたいの」
「ですが…」
「もう、まだ
ちょっと不機嫌そうな声。
先程の廊下での会話が尾を引いているのだろう。保護者である秋穂を頼らない姿勢に不満な様子で―――
「ちょ…っ!? 秋穂さん!?」
驚く悠人を横目に秋穂は纏っていたタオルの結び目を解いた。
浴室の床にバスタオルが滑り落ち、和風美女の豊かすぎる胸と白く艶めかしい肌が露わになる。悠人は慌てて視線を戻すが、それでもばっちり見てしまった。
――大人の女の綺麗さと、溢れるほどの妖しい色香を。
「…悠人くん、洗ってもいいわよね?」
先程より強く、有無を云わさない声で秋穂が言う。更に硬直している少年の背中にぎゅっと抱きついて頬を寄せると
「…そうじゃないと、もっと凄いコト、しちゃうわ」
囁き声に含まれる本気の色に悠人は降参するしかなかった。
「…わ、わかりました。」
「うん。よろしい♪」
こうして承諾を得た秋穂は上機嫌で拘束を解いてくれた。背中に押し当てられた破壊力抜群の感触が離れてゆく。
(あ、秋穂さんってかなり強引だよな…普段は奥ゆかしいのに)
背後から聞こえるポンプ音に悠人はほっと胸を撫で下ろす。
裸の美女&幼女と一緒にお風呂という既に色々とヤバい状態なのに、これ以上されたら完全に理性が崩壊してしまう。そうなれば薬で幼くなっている明日香がどうなるか分からない。
「それじゃあ、洗っていくわね」
「ええ、お願いしま…す?」
悠人が答えた瞬間、身体の前に泡に濡れた両腕が回される。背中を洗うのでは…?と疑問を持った時には正解がすぐに襲いかかってきた。
「っ!? ああああ、あの!?」
「あっ、こら…動いたら洗いにくいでしょう?」
悠人は後ろから抱き締められ、押し当てられた柔らかな双丘を上下へと滑らされていた。
「ちょっ!あ、秋穂さん!何してるんですか!」
「何って……決まってるでしょう?洗ってあげているのよ、私の胸で」
平然と言いながら、ホールドした腕を離さない秋穂は悠人の背中を豊かな胸でいやらしく擦ってゆく。
「洗うならタオルを使えば良いじゃないですか!そっち!ドアの方にありますから!」
悲鳴にも似た叫び声をあげる少年に秋穂は妖しく微笑みながら
「何言ってるの、明日香ももうすぐ元に戻っちゃうのよ?私達の仲も今のうちに深めた方がいいでしょう?」
「どういう理屈ですか!?」
「悠人くんが強情なのが悪いってコト♡」
「は!?」
「いいから、お母さんに任せなさい――よいしょ、っと♡」
悠人の背中を白い胸が媚びるように蠢いて、ボディーソープがくちゅくちゅといやらしい音を立てる。蕩けるような心地よさに悠人は必死に唇を噛んで堪えた。
(まずい!主導権を取らないとまずい!このままでは!)
全身のぼせたように真っ赤になりながら、悠人は必死に思考を巡らせる。しかし、背中を滑る擽ったい甘い熱に思考がまとまるはずもない。
「ん……っ♡ これは思ってたよりずっと……あっ」
鼻にかかった甘い声が耳の後ろから聞こえてきて、これでは本当にどうにかなってしまいそうだ。すると秋穂は岩のように硬直したままの悠人に
「あらあら、悠人くんったら……んっ、どうしたのかしら…?」
「な、なにが…ですか」
「そんなに硬直…しちゃって……はぁ、情けないわね」
濡れた声で挑発してくる。真っ赤になった悠人の耳元でクスクスと妖しく微笑う秋穂は微かな優越感を抱いていた。
「もう…、お母さん相手に興奮してるだなんて……いけない子、ね」
母親然として叱りながらも、秋穂の表情は甘く蕩けている。その証拠に全身が桜色に染まり、胸の先端は硬く張り詰めていた。
「はぁ、はぁ…………あっ♡」
胸が強く擦れてしまうたび、唇から切ない声が漏れる。秋穂は半ば無意識のうちに全身を悠人の背に預けてしまっていた。
「ん……悠人、くん……すごい、どんどん熱くなって…♡」
囁くように名前を呼びながら、二人の体温がどんどん上がってゆく。いつしか秋穂は限界まで身体を押し付けて夢中になって胸を擦りつけていた。
「はぁっ、はぁっ…♡ 何を固まっているのかしら?男の子だったらどんな時も堂々としておくものよ…?」
悠人をなじりながら秋穂は火照った身体をねっとりと擦り付け続ける。少年が反撃できないことを知りながら、和風美女は限りになく自慰に近い行為に及んでいた。
「ふふ…♡こっちを向いてもいいの…よ? 前も洗ってあげましょうか…?」
和風美女の蠱惑的な問いが風呂場に響く。その言葉に返事をするように少年の肩がピクリと跳ねて、そして――
悠人が突然、その場を立ち上がった。
2
「…いい加減にしろよ」
悠人は秋穂を見下ろしながら低い声で言った。瞳の中に映るのは燃えるような怒り。
秋穂はこちらを信じて誂っているのかしらないが、大切な妹に薬を盛られた上にココまでされては流石に限界だった。
「そんなに洗いたいなら、洗わせてあげますよ。ただし、二人とも俺が先に洗ってあげます」
怒りとともに理性が吹き飛んだ悠人はボディーソープの蓋を開けると、残っていた中身を全てぶち撒ける。冷たい白い液体が和風美女と妖精のように愛らしい少女にとくとくと注がれて
「ゆ、悠人くん、待って…」「おにい、ちゃん…?」
今さら焦ってももう遅い。
悠人は秋穂と明日香を並べるように押し倒し、そのまま手のひらでソープを泡立ててやる。泡まみれの全身を滑るように擦ってやれば、秋穂の柔らかすぎる胸や尻の起伏も明日香のきめ細い肌の感触も全てを味わえて、
「ああっ…!悠人くん、だ、駄目…っ!」「んあああっ…!」
二人が濡れた声で抵抗しても悠人は構わなかった。
白い湯気が満たす浴室で秋穂の胸を揉みながら明日香の尻を掴み、明日香の腿を撫でながら秋穂の肌を吸ってやる。黒々とした欲望のままに二人の身体を貪り食らう。
「ああ…っ!すごい…っ、こんなぁ…!」「ふ、んはぁ…っ!」
すると最初は抵抗していた二人だが、やがて艶めかしい嬌声しか上げなくなり、悠人がしやすいように腰を持ち上げたり、身体を支えて触りやすくしたりと協力するようになった。
そして、思考も表情も完全に蕩けさせた二人を床に並べて寝かせると
「……もう二度と俺に逆らえないようにしてやる」
悠人は秋穂の彫刻のように白い腿を割り開き、そのまま――
*******
*****
***
*
「………はっ」
そうして悠人は目が覚めた。
「あっ、気が付きましたかお兄ちゃん」
重い瞼を持ち上げると、明日香が顔を覗き込んでいる。
「気がついてよかったです。お風呂で倒れたと聞いてびっくりしましたよ、もう」
「倒れた…?」
身体が重く、まだ意識がぼんやりとして思考が定まらない。
「お兄ちゃんはうっかり屋さんです、あんまり長くお風呂に入ったら駄目ですよ?のぼせちゃいます」
「あ、ああ…悪かった」
確かに風呂に入っていて、秋穂さんと薬の力で幼女化した明日香が突入してきて……あれ、そこからの記憶が曖昧だ。もしかして全部夢だったのだろうか。
「とっても心配しちゃいました…あ、私がお兄ちゃんを運んで着替えさせたんですよ。きゃっ♡」
「そ、そうか…ありがとな明日香」
頬を染める明日香に礼を言う。風呂場で倒れたということは全裸だったはずで、妹とはいえ裸を見られるのは流石に恥ずかしい。
「でも私としたことが、普通に着替えさせて他には何もしませんでした…」
「そ、そうか…。それを聞いて安心した」
「この私が無防備なお兄ちゃんにナニもしなかったんです…ナニも…」
「ありがとう、本当にありがとうございますです(真顔)」
心底残念そうな明日香だが、がっかりするポイントが相変わらずおかしい。悠人としては自身の貞操の無事を喜ぶばかりだ。
「それに私ったらお兄ちゃんのベッドにいるのに、いつものTシャツとホットパンツ姿なんて…もっとお兄ちゃんが劣情を催すにふさわしい格好があったはずなのに…」
「いやいや、俺を何だと思ってるんだ」
「ごめんなさい、お兄ちゃん…私の不徳の致すところです…」
申し訳なさそうに目を伏せる妹に悠人は嘆息する。こんな健康的な姿も明日香は十分過ぎるほどキレイだった。
ホットパンツから長く伸びる脚は眩しいほどに艷やかだし、防御力は低いが攻撃力は高い。個人的にはこういう格好は好きで……――なんで獣の思考になってるんだっての。
「なあ、俺ってば明日香に何もしてないよな?秋穂さんにも…」
「? お兄ちゃんは今までぐっすり寝てましたよ?」
「そ、そうか…なら良かった」
祈るような思いで問いかければ、明日香はさらりと答えてくれた。第一希望であった夢オチが叶ったのだ。微かに記憶していることがもしも現実だったなら、自分はとんだ鬼畜野郎になってしまう。
「はぁ…、それにしてもお兄ちゃんの顔を眺めてただ膝枕をするだけなんて、正妻として今回の一件は私史上最大の失態です。」
「明日香、それは妹として花丸あげるくらいの大成功だからな」
しょんぼりと肩を落とす明日香。落ち込みっぷりが半端ない。
さらに不思議なことに先程からブラコン妹が大人しい。いつもと違って少し綺麗な、よそ行きの明日香という感じだ。もしも明日香がいつも通りのブラコン妹だったら、裸の悠人は今頃どうなっていたか分からない。
「…なぁ、明日香」
「はい、なんでしょう?」
「お前ってば、いきなり子どもになったりとかしてないよな?その、幼稚園児くらいの」
「………………………………。」
「な、なんだよその目は……真面目に訊いてるんだ、答えてくれ」
「ごめんなさい、お兄ちゃん。私はお兄ちゃんの趣味を読み違えていました。」
「あん?」
「まさかお兄ちゃんがシスコンではなくロリコンだったなんて…だから今まで私に手を出してくれなかったんですね」
「誰がロリコンだ!あとシスコンでもないからな!」
「大丈夫ですよ、お兄ちゃん。私にはすべて分かっています。すぐに裸&幼稚園帽子で待機します。」
「お前は何をどう分かったんだよ!?」
「ふふふ、冗談ですよ」
からかうように笑う明日香。やはりアレは夢だったらしい。
しかし風呂場で起こったことの全てが夢であったなら、明日香の暴走しがちな行動を抑えられるはずも無いワケで――一体、どこまでが夢だったんだろう…
「でもでも、本当に私はどうかしてしまったんでしょうか…。いつもの私なら既成事実の一つや二つ作った後に、しっかりと動画を撮って証拠の拡散までしているはずなんですよ?」
「…いつものお前が怖すぎるんだが…」
「きっとお風呂場で鼻血を吹いて倒れたお兄ちゃんが心配で心配で、なけなしの自制心が働いてしまったんだと思います…」
「自制心は大盛りどころか特盛で持ってて下さいよ…ところで秋穂さんは?」
「私と一緒にお兄ちゃんを運ぼうとしたんですけど、腰を痛めてしまったみたいで…今は寝室で横になってます。」
「そうか…」
唯一全てを知ってそうな秋穂さんが倒れてしまったなら真相は闇の中だ。詳細は気になるが、そもそも薬で明日香が幼女化するなど妄想も甚だしい。まったくヘンな夢だった。
「お兄ちゃん、具合はもう大丈夫ですか?お水飲みますか?」
「ああ、もう大丈夫だ。ありがとな明日香」
「あっ…、駄目ですよ。まだ横になっていて下さい」
身を起こそうとすれば妹に優しく制される。まだ万全ではない悠人は少しふらついてしまっていた。
「あと十分くらいは寝ていて下さい。ちゃんと起こしますから」
「ホントか…? 何もしないよな…?」
「弱ってるお兄ちゃんにカワイイ妹である私がナニをするんですか!失礼しちゃいます!」
「普段の行いがマイナスに働いてるんだよ…」
「大丈夫、心配いりませんよ。私も膝枕で動けないので、じっくり寝顔を見つめるだけにしますから」
「それはそれで恥ずかしいんだが…」
「もう、ぐずぐず言わずに寝て下さい!ムリやり唇を奪いますよ!」
「どういう脅し文句なんだソレは……でも、ダルいからもう少し寝かせてもらうぞ」
「はい、どうぞおやすみなさい。お兄ちゃん」
全身を包む気怠さに身を任せれば、ゆっくりと意識が薄れてゆく。
「ふふ…、やっぱりお兄ちゃんを受け止められるのは私だけです…」
意識が完全に途切れる一瞬、嬉しそうな囁き声を聞いた気がした。
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