第9話 フロから始まるブラコン調教




8





「悠人くん、ちょっといいかしら」




夕食後、自室へ戻ろうとしていた悠人は秋穂に呼び止められた。




「…ごめんね、ちょっと内緒の話があるの」

「どうかしました?」




リビングに続くドアを背に妙齢の美女が静かに佇んでいる。薄暗い廊下に浮かぶ白い顔はいつになく真剣で、悠人は思わず姿勢を正した。




「まだ伝えてなかったことがあると思ってね。明日香ちゃんのことで」

「明日香の?」

「ええ、本当は此処へ来た日に伝えたら良かったんだけど…はしゃいじゃって忘れてたの」




そう言って困ったように微笑う。天真爛漫なその微笑みに悠人も知らず笑みを返していた。



成熟した大人の女性である秋穂だが、こんな時に浮かべる笑みはまるっきり子どものようで、年齢を忘れさせる程あどけない雰囲気になる。



しかし、有栖川秋穂は両親を亡くした自分たちを育ててくれた恩人であり、悠人にとって母のような存在。



優しさと気品、わずかに幼く見える美顔。なよなかな肢体は大人の女性としての色香に溢れている。同級生には決して見当たらない、女としての精神的な余裕も持ち合わせている。



故に、今もこうして二人っきりで相対していると、悠人は静かに息を呑んでしまうのだ。




「それで秋穂さん、話って――」

「悠人くん、今までよく明日香を守ってくれたわ。ありがとう」




ぎゅっ




言葉と共に優しく、優しく、慈しむように抱き締められた。

あまりにも突然のことに、悠人は声を出すのも忘れて固まってしまう。




「あ、あの…」

「…ごめんね、暫くこのままでいさせて」




身を包み込む柔らかさと、鼻先を擽る女の甘い香り。

顔を埋める豊満な双丘からは鼓動とともに優しい熱が伝わってくる。




「二人とも、目を離したらすぐに大きくなるのね…悠人くんも明日香ちゃんも、気づいたらこんなに大人になってるんですもの」




秋穂は身の大きさを確かめるように悠人の背中を撫でる。こちらに気を遣ってのことだろう、優しく労るような指使いが少し擽ったい。




「どうしたんですか急に…まるで母さんみたいですよ」

「あら、確かにそうね。」




言葉の意図を察し、秋穂が微笑う。


二人の保護者をかって出た時、秋穂は『私を母親みたいに思わないで、一人の大人として接しなさい』と律するように言ったことがある。




「あの時の私って、少し怖かったかしら?」

「…どうでしょうね」




あの時、秋穂がなぜ突き放すように言ったのか、悠人には分かっていた。秋穂はもともと母性本能が強い女性なのだ。一度世話を焼いてしまえばキリがなくなる、悠人たちの成長を思って敢えて突き放したのだ。




「こら、ちゃんと答えなさい。保護者の私に秘密は厳禁よ」

「すみません、記憶にないです」

「それはウソ。ホントは怖かったのね」




くすくす朗らかに微笑う秋穂につられて悠人も笑う。そのまま目を閉じ、秋穂のなよなかな腕の中に身を委ねた。




(…母さんがいたら、こんな感じだったのかもな)




ここまで心が安らぐのはなぜだろう。腕に包まれるよう抱かれるうちに、心が無防備になってゆくのを感じる。背中を叩く手はひたすら優しく、緩やかなリズムは子守唄のよう。




「悠人くんは大きく、元気に、育ったわね…」




優しい抱擁の中、薄っすらと涙が宿る声を悠人は聞き逃さなかった。




「…今ならどんなお願いしても聞いてくれそうですね」




薄く笑いながら、悠人はあえて軽い口調でそう言った。




「あら、お小遣いの値上げでも期待してるのかしら?」

「聞いてもらえるんですか? 実は欲しいものがあって」

「無駄遣いじゃないなら、私が買いに行くから遠慮なく言ってね」

「…やっぱり、いいです…」

「ふふっ、えっちな本なら買ってきてあげるわよ?」

「要りませんよ!」




元気づけようと朗らかに振る舞う悠人に、叔母は柔らかい眼差しを向ける。それからじっくり噛みしめるように言葉を紡いだ。




「私から見ても明日香は十分立派に育ったと思うわ、姉さん、、、もきっと天国で喜んでると思う」




秋穂は悠人の母の妹にあたり、長瀬兄妹の叔母ということになる。ただ、秋穂と母は祖父母の再婚によって姉妹となった、いわゆる連れ子同士なので身内ではあるが血の繋がりはない。だが、二人のことを秋穂は誰より大切に思っていた。




「…ふたりとも、本当に立派になったわね…」




秋穂は息子のように思う少年の髪を撫でつける。


静かな廊下には、微かな歌声が響いていた。優しいメロディはドアの向こうの明日香のもの。妹は鼻歌を交じりで食後のキッチンを片付けていた。




「悠人くんは私との約束、、、ちゃんと果たしたわね」

「…俺一人ではとても無理でしたよ」

「そうね。だから悠人くんは周りの人たちの手を借りて、ここまで立派にやり遂げた――そうでしょう?」




これまでの全てを見てたみたいに、叔母が満足そうに微笑う。

悠人は今まで胸の中でつかえていた何かが、ゆっくりと解けてゆくのを感じた。




「これからは私もお母さんとして、、、、、、、本気でサポートするから、宜しくね」

「…もう十分すぎるほど助かってますよ」

「これからは私に遠慮しちゃダメよ? いいわね?」

「いえ、そういうワケには――」

「あらあら、ずいぶん可愛げのない子ね。『ママ』って呼んでくれないのかしら?」

「………難しいですね、それはちょっと抵抗あります」

「私を『ママ』って呼んで私も悠人くんも二人とも幸せになるのと、このまま心に距離があるのと、どちらがいいかしら?」

「………アドラー心理を悪用しないでください」

「ちっ…、過去に明日香もこの手を使ったのね。小賢しい」

「秋穂さんがそれを言いますか」




渋る悠人には呆れたような目を向けると、嗜めるようにぎゅっと抱き締めた。柔らかで豊かな胸に悠人の顔がさらに沈む。胸の谷間からはミルクのような甘い香りが漂っていた。




「…悠人くんはこれから、年上の女に――母親、、に甘える幸せを知らなくちゃね」




声に悪戯な気配を感じたが、秋穂の身体が心地よくて。

だから悠人はそのまま目を閉じ、彼女のぬくもりを感じ続けた。





0





「ふぅ……」




白い湯気が漂う浴室。秋穂からのねぎらいと抱擁を受けた後、悠人は風呂に入っていた。



抱き締められた悠人は秋穂の匂いがすっかり移ってしまっていた。

秋穂の香水の匂いを纏ったままブラコン妹に会うのは危険、という事で悠人はそのまま風呂場へ直行。嫉妬に燃える明日香がどんなことをしてくるか――考えるだけで恐ろしい。




「…最近、明日香のブラコンっぷりがヒドくなってる……気がする」




悠人は水滴が張り付く天井を見ながら、ぼんやり思い返す。同じ学園に通いだして以来、明日香は以前にも増してアピールしてきている―――――『女の子』として。




「……昔は、割とフツーの妹だったんだけどなぁ…」




幼い頃は儚げで、大人しい妹だったのだ。


それに人見知りで、怖がりで、緊張しいで、ほんのちょっとワガママで。そんな明日香を悠人はずっと傍で世話し続けて、面倒を見続けて、気を遣ったりもして、そうして――




『私はお兄ちゃんが大好きです! ブラコンは犯罪ですか?いいえ、合法です!』




とか言い出すようになってしまった。理由はもちろん謎だ。




「…このままじゃマズイよなぁ…、もし一生独り身とかだったら……」




先ほどの秋穂とのやり取りで、悠人はどうしても兄としての責任を考えてしまう。妹をまともにしなければ、と使命感のようなものまで抱いてしまっていた。




「でも、なんでアイツはあそこまで俺を……」




湯気の向こうに霞む視界。妹の未来を憂えば、浴室のドアの向こうから




『悠人くん、新しいタオルを下ろしたから置いておくわね。』




扉の向こうから叔母が声をかけてきた。




「あ、ありがとうございます秋穂さん………助かります」

『――あら、まだ遠慮してるのかしら? ママって呼んでって言ったのに』




悠人の声の固さに秋穂が笑う。




「今さらその呼び方はキツいですよ」

『全く強情ね…、やっぱり悠人くんにはこの方法しかないかしらね』




何ですか、と訊ねようと湯船から身を起こせば、ガチャリと扉が開かれた。




息子、、のためにママ、、がひと肌脱ぐしかないわね♡」




いつの間に服を脱いだのか、バスタオル一枚の秋穂と幼女、、が嬉しそうに微笑みながら入ってくる。




「ちょ――っ!?」

「これで母子水入らずね、お風呂場だけれど♡」




慌てて後ろを向くが、秋穂は平気な様子で身体へお湯をかけ始める。




「なんで入ってくるんですか!?」

「あら、そんなの決まってるでしょ。昔から仲を深めるには『裸のお付き合い』って」




豊満な胸はバスタオル一枚で抑えきれるはずもなく、柔軟性の高い生地をはち切れんばかりにしている。小さなタオルは尻も太腿も隠しきれておらず、かがんだ途端に際どい部分が見えてしまいそうで、




「だからって一緒に入らなくてもっ!」

「だ・め・よ♡」

「なんでですか!?」

「家族ですもの、お風呂くらい一緒に入るでしょう?」

「入りませんよ!?」

「あら、昔は一緒に入ったのよ?覚えてないかしら」

「何年前の話ですか!」




目を白黒させて叫ぶ悠人。しかし、美人すぎる叔母はリラックスした声で「あぁ、キモチイイわ…」などと呟いたりもして




「家族仲ならもう十分に深まってますよ!」

「だ、め、よ♡ まだまだ私と仲良くして貰わないと♡」




湯船で顔を背ける悠人に秋穂は艶っぽい笑みで答える。急速に鼓動を跳ね上げさせる悠人に対し、秋穂の方はいたって自然な様子だ。




(やっぱり風呂にカギはつけておくべきだった!!明日香の猛反対に負けずに!)




ブラコン妹をもつ悠人は、かつて妹に風呂へ突入されたことがある。故に今日も警戒の為にタオルを腰に巻いているわけだが、秋穂相手にこの薄い防御がどれほど役に立つかは分からない。



なぜなら、秋穂は悠人よりも年上の女性であり、大人である。精神的にも余裕があり、叩くとすぐにボロを出す妹とはまるで違うのだ。有栖川秋穂は献身的に支えてくれた優しき叔母であり、精神的に強固な上下関係が築かれている故に逆らえない。




(このままではマズい!ヤバすぎる…っ!股間の草薙の剣が戦闘態勢に…っ!)




恥ずかしさと混乱の渦に呑まれる悠人の背に、予想外の平和な声が投げられた。




「狭い空間にほぼ裸。同じ恥ずかしさを共有すれば、家族の絆も深まるものよ。ね、明日香もそう思うでしょ?」

「ウン!」




きっぱりとしたよく通る声で答える幼い少女。思わず振り向けば、風呂場へ侵入してきたのは秋穂だけでなく、妹の明日香も………………………あす、か?




「……………あの、秋穂さんて……お子さんが?」

「まさか。まだ悠人くんとシてないでしょ?」




少女にもシャワーを浴びせながら、艶っぽく微笑む秋穂。


子ども特有の細い髪を撫でながら、ミルク色の肌へとお湯をかけていく。ふるふると頭を振って水滴を弾き飛ばす少女は子犬のようで、それはかつて幼い妹もよくしていた仕草で―――




「あ、あの……秋穂さん」

「あら、悠人くんも流して欲しいのかしら? ふふっ」

「いや、そうじゃなくて…この子は、その……親戚のお子さんとか、ですか?」

「親戚にこんな子は居ないでしょう? この子は明日香よ」




この女の子が明日香…だ、と…? はは、まさか




「…………あっ、なるほど。同じ名前の子が近所にいたんですか。預かってきたんですね」

「はぁ…、悠人くん。この子をよく見て」




ずいっと差し出されるように背中を押され、裸の少女が悠人の眼前へ。若干混乱しつつも、悠人は言われるままに少女を見つめる。




「………………………………。」

「………………………………。」




湯気に当てられ、ほんのり朱に染まる少女。


幼いながらも整った顔立ちはまるで妖精のよう。ぱっちりした大きな瞳は聡明な光で満たされ、少女の賢さが見て取れる。大人しい雰囲気は守ってあげたくなるほど儚げだ。


このまま彼女が成長すれば、きっと将来は女優やモデルとして大活躍だろう。テレビにもCMにも引っ張りだこなのは間違いない。それほど可愛らしく、まだ未完成の美貌を持つ少女だ。



しかし、見れば見るほど懐かしさと見慣れた感があり―――




「………………ま、まさか…」

「?」




眼の前の少女がペンギンみたいに小首をかしげる。思わず一緒に身体を傾けたくなるほど可愛いが―――――そんなバカな、いや、まさか!?




「…ふふ、漸く理解できたようね。この子は明日香、お薬の力で小さくなってもらった長瀬明日香(4歳)の姿よ」

「ジントニッ!?」




これなんて黒の組織!?

闇の組織のあまりの身近さに驚くが、当の本人はドヤ顔で




「ふふん、すごい薬でしょう? 私が長年研究に研究を重ね、ついに開発にこぎつけた新薬よ、ちなみに『あれれ〜?コナーン薬』と名付けたわ」

「名前はもうちょい考えてください!!」




そんな安易な名前はダメ、ゼッタイ!悔しいけどそれ以外ない気がするけれども!




「でも、悠人くんがちゃんと明日香に気づいてくれて良かったわ。気づかなかったらツノを引っこ抜かなきゃいけなくなるもの」

「なんの話ですか! それより明日香は元に戻るんですよね!?」

「大丈夫よ、元のブラコン妹にちゃんと戻れるわ」

「そういう言い方されると抵抗あるでしょ!!」




こんな薬をしれっと作る叔母に憤懣やるかたない!


心配になって明日香(?)を見つめれば、じっとこちらを見つめ返してくる。このくらいの年頃なら普通は走り周ったり、騒ぎまくったりと煩いはずだが




「あ、明日香…、お前、大丈夫なんだよな?」


(こくこく)


「ほんとか? ほんとにヘーキなのか?」


(こくこく)




小さく頷く長瀬明日香さん(4歳)

明日香は精神まで子どもに戻っているのか、先ほどからこちらを大人しく見上げている。子どもの頃の方が手がかからないというのは複雑だ。




「それにしても、なんでこんな薬を明日香に…」

「それは……仕方なかったのよ」




理由を問えば、秋穂は途端に遠い目で明日香(幼女)を見つめながら




「昔、私は姉の形見である二人の兄妹を信じて送り出したわ。幼かった兄の方には『何があっても妹だけは守りなさい、兄として、男として』と約束までして……」




兄妹とは当然ながら悠人と明日香のことだ。秋穂はまるでその頃へと思いを馳せるように明日香(ロリ)の髪を撫でつける。




「もちろん、私も兄妹の様子を心配で何度も見に行ったわ。無理を言った自覚はあったもの」




思い出して、バツが悪いような苦笑い。そんなことはないと悠人は首を横に振る。明日香(ロリ)も同じく首を振る。




「でも、会うたびに二人とも元気で楽しそうで、特に妹はお兄ちゃんによく懐いていて…約束を守ってくれたのねって安心してたの。それからは過剰に心配はしなくなったわ、あとはこの街の住人と兄妹二人に任せようと思ったの」




でもね、と秋穂は悲しげに目を伏せて

 



「数年ぶりに再会したら、信じて送り出した兄妹の妹が童貞兄の調教にドハマリしてアヘ顔でブラコン宣言してるだなんて………思ってなかったわ」

「それは言い過ぎ―――じゃないかもですけど!一部過激な表現が含まれてますよ!」




否定しにくい事実の羅列が悔しすぎる!それに、




「それと明日香の幼女化と何の関係があるんですか!」

「鈍いわね、悠人くん。明日香のブラコンをすために決まってるじゃないの」

「ブラコンを直す…?」

「ええ、そうよ」

「『治す』じゃなくて、『直す』ですか」

「ええ、この子のブラコンはウルツァイト窒化ホウ素よりも固い決意で出来ているわ。それにクマムシよりもシツコイの。お医者様でも治すことは困難を極めるわ」

「そ、そこまでですか…」




あながち間違ってないだけに言い返せない。


悠人自身も妹には何度も倫理や常識について説いてきたが、それはどれも良い効果を生まなかった。もともと明日香の方が頭の出来が良い。痛烈な反論にあえば悠人は話をはぐらかすしか方法はなかった。




「それに、悠人くんの問題を解決する為でもあるの」

「俺の…?」




意外な話の展開に悠人は目を瞬かせる。




「悠人くんは明日香を…妹を守る事を第一に考えすぎて、明日香の心に距離を置いてしまっているわ。」



それに、と秋穂は頷いて



「悠人くんばかりが大人としての責任を背負う一方で、明日香は守られてばかり…それは同じ家族として寂しかったはずよ。」

「そう、ですね…」




明日香(幼女)と目が合えばフルフルと首を横に振られた。私は大丈夫、と言いたいのだろう。




「その寂しさが原因となり、頼れるお兄ちゃんである悠人くんを『頼れる一人の男の人』として見てしまう結果に陥らせたんだと思うの」

「な、なるほど…」

「だから幼い明日香と兄妹としての、、、、、スキンシップを重ねることで、昔にすれ違った想いを満たしてあげて現在いまの明日香のブラコンっぷりを矯正するの。ね、簡単でしょう?」

「う、うーむ…」




分かるような、分からんような。そもそも兄妹としてのスキンシップってなんだ…?




「大丈夫よ、心配しないで。悠人くんならきっとできるわ」




困惑する悠人に対し、秋穂は落ち着かせるように微笑んで見せる。叔母を応援する為なのか、隣に控える幼い明日香もブンブンと首を縦に振っている。




「でも、具体的には何をすれば…」

「大したことじゃないわ。兄として妹をお風呂に入れてあげたり、公園で遊んであげたりすればいいの。明日香の中の『お兄ちゃんとは』という認識が変わりさえすればいいのだから」

「それなら俺も出来る…か?」

「大丈夫よ、悠人くんは良いお兄ちゃんだもの。………失敗すると明日香のブラコンが悪化してとんでもない痴女になるかも知れないけど」

「いま不穏なこと付け足しませんでした!?」




そんなことないわよ、と秋穂が雑なフォローを入れる。不用意な不安が心へなだれ込む悠人に対し、発案者である叔母はオホホと軽く笑いながら自身の計画に太鼓判を押した。




「私も居るから大丈夫よ。悠人くんは安心して明日香の心を満たしてあげて頂戴ね」

「でも相性とか、明日香の心にささる行動とか、なんかそういうのあるんじゃ…」

「それも心配ないわ。悠人くんはもう経験がたくさんあるんだし、ニビシティのタケシを育てに育てたリザードのきりさくで蹴散らすみたいなものよ」

「例えがエグい…」




秋穂のぶっ飛んだ矯正方法に納得した部分もあるが、しかし寂しかっただけで手遅れ一歩手前のブラコンになるものだろうか――――




「――っくしゅん!」




風呂場という事を忘れて議論していた二人の前で、明日香(幼女)が小さくくしゃみをした。いつまで経っても湯船に入れないせいで身体が冷えてしまったらしい




「あらあら、ごめんね明日香。さあ悠人くん、明日香を入れてあげて」

「お、俺がですか!?」

「もちろんよ、明日香の心を満たしてあげるのが目的なんだから……あっ、入れるのはお風呂よ?お風呂だからね?」

「念を押さないでください!分かってますよ!」




立ち昇る湯気の中、ブラコンじゃない妹が無邪気に笑った。



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