ブラコンは犯罪ですか?いいえ、合法ですよ?

春画屋

第1章 ブラコン妹と過ぎゆく日々

第1話 晴れ時々ブラコン妹



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「お兄ちゃん、今日から私も同じ学園の一員になります。よろしくお願いします」

「おう、よろしくな」




朝の清浄な光が降り注ぐ食卓で、長瀬悠人ながせゆうとの妹――長瀬明日香ながせあすかが深々と頭を下げた。丁寧に手入れされた黒髪が背中に揺れている。




「入学試験は心配してなかったけど、この日を無事に迎えられてよかったよ」

「ありがとうございます…お兄ちゃんのおかげです」

「そういうのは止めろっての。ほら、さっさと飯食おうぜ」




照れて頬を掻く兄に清楚な妹は穏やかな微笑を向ける。優しく慈しむ視線はまるで悠人を包み込むようだ。




「制服も似合ってるぞ、お前ってそういうの似合うよなぁ…」

「良かった、お兄ちゃんに喜んでもらえて嬉しいです」




優しい笑みを含んだ声。穏やかなる美貌が兄へ向けられていた。瞳が少し潤んでいるのは嬉しさのせいだろうか。




「この制服、着るのをずっと楽しみにしてたんです」




ブレザーの裾を掴んで、はにかんでみせる。



きっちり校則を遵守した制服。艶めく長い黒髪と、すらりと伸びたスレンダーで健康的な肢体。テニスで鍛えた四肢は細身ながらも俊敏そうで余計な贅肉は見当たらない。



それに上品な制服に抑えられているせいで余り目立たないが、胸の膨らみはかなりのものだ。たわわに実った二つの果肉は、横から見れば圧倒的なボリュームを見てとれる。明日香と連れ立って歩けば、男の視線がどこに向かうかなどすぐに分かるのだ。




「スカート、大丈夫ですね? 中学の時より短い気も…見えちゃわないですよね?」




言いながら明日香はくるりと回ってみせる。


短過ぎない絶妙な長さのスカートが翻り、モデル顔負けの美脚が覗いている。朝日を艷やかに弾くまろやかな曲線美は黒ストで完璧にデコレートされていた。




「女子校生ってホントにスカート短いですね…大丈夫なんでしょうか」

「大丈夫だって、見えないぞ」

「ふふ、お兄ちゃんがそう言うなら大丈夫ですね」




そういって笑う美少女、明日香。悠人の唯一の家族であり、同居人。清楚な美しさを体現しているパーフェクトな妹である――




ある一点を除いて。




「フフ…ついに、ついにこの日がキました…!ふふっ、今日という日をどれだけ待ち望んだことか!くくっ、ふふふ…っ!」




学園入学という喜ばしい日に、パーフェクト妹が笑っている。



しかしそれは、朝の爽やかな空気に似合わない邪悪な笑みだ。先程までの穏やかな美貌が幻のように消えている――――とても、嫌な予感がする。これまでの経験的に。




「それに私はもう結婚できる年齢ですし…!ふふふ!くっくっく!!!」

「………明日香はいくつになったんだい?」

「ココで答えることは叶いません!」

「やっぱり難しい世の中だよなぁ…」




横槍を入れてみたが、妹は邪悪な笑みを浮かべたままだ。一度スイッチが入ったら、この妹を止めるのは難しい。それにしても何の真似だろうか、手のひらを顔の前でワキワキと開いたり閉じたりしている。




「お兄ちゃん!長瀬悠人――貴殿に結婚を申し込みます!」

「お断りします」




唐突のプロポーズは一秒で拒否。




「ぐ…っ!我との…魔王との契約を結ばないというの!?」

「あ、それ魔王のイメージだったのか」




真面目な明日香のイメージはどうにも古い。そもそも『魔王ごっこ』とかこういうのは中学で卒業してくるものじゃなかろうか。




「お兄ちゃん!なにを勘違いしてるんですか!私はお兄ちゃんと合法的に恒久的に男女交際したいだけなんですよ!?」

「なにも勘違いしてなかったな。 とりあえずご飯食べないと冷めるぞ?」

「ご飯より先に平らげるべき問題がこの場にあります!」

「はぁ…そうですよね。まずお行儀がよろしくないから座りなさいや、明日香さん」




長くなる、と踏んだ。こういう特別な日に限って、ウチの妹はなぜか問題を起こしたがるのだ。そもそもこのプロポーズも何回目だろうか、兄妹だってのに。




「そもそもな、兄妹で恋愛なんかできるわけないだろ。結婚なんてもっての外だぞ」

「そこです! そこがミソなんです!」

「茶碗を持ったのに立ち上がるんじゃない、お行儀の悪い」

「兄と妹の恋愛に横たわるタブーの存在…それがより愛を燃え上がらせるんです!何の障害もない恋愛が素晴らしいものになると思いますか?否!答えは否!」

「あーはいはい。いいから座れっての――あ、今日ってば終日晴れなのかぁー良かったなぁ明日香」

「世の中のどんな恋物語も分厚い壁を乗り越えて、打ち破って、その先にあるハッピーでラブなエンドを迎えるんですから!さあ!私と一緒にHERE WE GO!」




アドバイスも世間話もガン無視。不肖の妹は目をキラキラさせて熱弁を続ける。


いつものこと、と放置してテレビを見つつ白米を口へ――うむ、美味い。日本の朝はやっぱりご飯だよな




「あああ!!? 大変っ!お兄ちゃん死にました!今死じゃいました!!」

「おい、勝手に殺すなっての」

「その白ごはんは危険な猛毒が仕込まれていたんです!」

「なんでだよ」

「何者かが朝のうちに毒を盛っていたわけです…それを気づかずに…ああ、可哀想なお兄ちゃん……」

「炊いたのお前だよね?」

「でも死んじゃったのは手違いだったので、異世界転生したお兄ちゃんに神様がスペシャルな能力をくれました。すっごい女たらしになって、妹に触るだけでアヘ顔性奴隷に変える力です。」

「神様ぶん殴んぞ」




神を恨みつつ時計を見れば、そろそろ出ないとまずい時間だった。せめて8時のポッポー(時計から飛び出る鳩の人形)が鳴く前に家をでないといけない。妹の熱弁に付き合っていては遅刻必至で、下手をすれば進学初日からサボることになりかねない。




しかし、妹は止まらない。




「はぁ…、全世界でお兄ちゃんを大好きな妹がドンドン増えて、お兄ちゃんと結婚したい妹たちが各地でデモ活動でもしてくれれば、こんな面倒な手順を踏まなくて済んだのに…」

「そうだな、それは国を挙げて取り組まないといけない問題だな。主に正気に戻す方向で」

「彼女たちは正気なんです!真剣なんです!政府を転覆させて妹と兄だけのマイシティーを作ろうとしてるだけなのです!」

「だいぶ世紀末じゃねえか」




――ご覧の通り、ウチの妹・長瀬明日香は超がつくほどのブラコンなのだ。




なぜ優等生の妹がこうなってしまったのかは知らない。本人に訊けば『んふふー。知りたい?知りたいですかぁ?』とニマニマしてくるので訊かないことにしている。



そもそも問題の原因を知ることは解説にはなっても解決にはならないのだ。決して妹のニマニマ顔がウザくて面倒だから諦めた、とかそんな理由ではない。ないったらない。




「そういうお兄ちゃんはブラコンについてどう思ってるんですか?やっぱり精神的な病だとか隔離すべき性犯罪者だとか、いっそのこと火炙りにしてしまえとか思ってるんです?」

「いやいや、そこまでは思ってないから。誰を好きになるかは本人の自由だと思うよ」

「そうでしょうとも! 愛とは自由なんですから!」

「でもなぁ、まともな恋愛をしたほうが健全だとも思うけど?」




あくまで一般的でハト派な意見を述べる兄をブラコン妹は鼻で笑いながら




「フ…。お兄ちゃん、愛に健全も不健全もありません!せいぜい正常な体位があるくらいです!」

「オブラート!!!俺は女の子のそういう発言は断固反対だ!!!」

「異議あり!!女の子だって性欲くらいあります!三大欲求に対してのそれは言葉狩りの視野狭窄な行為です!」

「ぐ…っ! ああ言えばこう言う…!」

「お兄ちゃんは知らないでしょうけど、私は夜な夜なお兄ちゃんのことを想いながらお気に入りのぬいぐるみで――」

「専門家のケアを受けろ!ブラコンは隔離してあらゆる治療を受けて治すべきだ!そんな性癖は火に焚べて燃やしてしまえ!」




頬を赤らめて告白しなくていい秘密を告白する妹に兄は瞬時に過激派へ。その時、




ポッポー ポッポー 八時だジェイ




「はっ!まずい!遅刻するぞ明日香!急いで飯食え!」

「愛の世界に時間は関係ありません!それこそ私は四つの時にはお兄ちゃんとの結婚覚悟完了して、一億年と二千年たっても――」

「現実に戻ってこいっての!!お前は今日入学式で挨拶までするんだろうが!!ええい、とっとと行くぞ!!」

「!!! おっ、お兄ちゃんから手を繋いでくるなんて!!ウチのお兄ちゃんが朝からグイグイ来る!!」




焦るこちらに対して妹の明日香は満面の笑み。なんだかとっても理不尽な気がする。




「鞄は全部詰めてるんだよな!? ダッシュで行くぞ!!」

「はい! お兄ちゃんとなら何処へでも!!」




長瀬悠人は妹の手を掴み、玄関ドアを蹴破り、そうして春風の中を走り出した。




「手を繋いで式場へ飛び込むだなんて――お兄ちゃんも大胆になりました♡」

「式は式でも入学式だよ!俺の方は始業式!色気なんてねぇよ!」




本日は見事な晴天。降水確率はゼロパーセント。




風もなく過ごしやすい気温で、今日も今日とて――いや、ところにより騒がしくなりそうな予感。


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