第17話 普通であればそれでいい



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「…さっきのは一体、どういうことですか」




床に正座する三人に声をかける。三人ともしゅんと肩を落として落ち込んでいるが、こっちには慰めている余裕はない。




「お兄ちゃんが喜ぶと思って…」

「ご主人さまが興奮されるかと思って…」

「悠人くんがオギャりたいかと思って…」


「はぁ……………」




視線を落としておずおずと答える三人。俺はこめかみを押さえてため息をつく。

秋穂さん、明日香、セリアの超、大、小が一直線に並ぶ姿に和んでる場合じゃないし、胸ばかり見ていい場合でもない。




「まったく……何をしてるんですか、あなた達は」


「「「………ごめんなさぁい………」」」




だだっ広いリビングで妹二人、保護者一人に正座&お説教タイム中。これはこれでおかしいが、それよりもっとおかしな展開があったことを忘れてはいけない。




「……いくつか質問があるんですが。いいですか?」

「はい、ご主人さま。わたくしがお答え致します」




慇懃な眼差しで手を上げるセリア。そもそもの発端である彼女に訊きたいことがあるのだ。残り二人もほぼ同時に手を挙げるが、ここはセリアに答えてもらおう。




「まず、極めて重要なことなんだが…」

「はい、なんでございましょう」

「さっきまでのは夢だよな?全員同じ幻を見たとか…そういう魔法なんだよな?」

「いいえ、全て現実に起こったことにございます。」

「フッ…、そんなバカな…」




やれやれだぜ、と大げさに肩をすくめてみせる。全くのナンセンスだ。この極めて常識的であり、長瀬家で唯一まともだと自負する俺があんなことをするはずがない。俺の頭がこんなにおかしいわけがない!



しかし、銀髪ロリっ子の反応は予想と違っていた。紅い瞳を深い愛情と優しさで満たし、幼子に言い聞かせるように告げる。




「すべて、本当のことでございます。ご主人さま…信じてくださいまし」

「HAHAHA!ナイスジョーク!」

「…冗談ではございません。わたくし、愛するご主人さまに嘘など申しません」

「ウソだ!ウソ!ぜえええええええったいにウソだ!俺があんなキ○ガイみたいな事するかぁっ!」

「ご主人さま……」




カッとなって怒りをぶつけてしまう。従順なセリアが嘘を付くとは思えないが、しかしとても信じられなかった。いや、信じたくないのだ。




「恐れながら、すべて現実に起こったことでございます。ご主人さま」

「ウソだ!俺が…この俺が、妹のアレやソレでうにゃららするなんて!」

「はい。妹の残り湯で顔を洗って、黒ストで顔をごしごしくんくんしていたのも事実でございます」

「わざとボカしたのに傷を抉るなよ!でもウソだっ!あんなことを俺がするわけがない!」

「信じて下さいご主人さま。ご主人さまは喜んで"妹ニウム"を吸収しておられました」

「妹ニウム!?」



なにその単語⁉︎



「妹ニウムとはご主人さまを愛する妹からしか採れない、乙女の秘宝です」

「なんだその頭がおかしくなりそうなブツは!?」

「妹ニウムはご主人さまの性活に必要不可欠のものでして――あ、これについてはまだ作中で説明がございませんでしたね」




「申し訳ございません、ネタバレでございました」と小さな頭を下げる銀髪幼女。

この銀髪ロリっ子のセリアは存在もそうだが、発言にも不可思議な点が多い。作中とは例のアレか?もう二度と聞く気はないぞ!




「妹ニウムは…そうですね、こちらの世界でいえば『汗』とでも言えば良いでしょうか」

「むしろソレでしかないだろ!?」

「本当は少し違うのですが……とにかく、これからもご主人さまは健康のために妹の汗をぺろぺろされて下さいね」

「ンなこと誰がするかっ!!!」

「あ、脇や膝裏などお好み部位があったらお申し付けください。わたくし、走ってまいりますので」

「アンタ正気か!?」




なにを真顔でのたまってるの!?そんなもんキメたら脳が処理落ちするわ!




「とにかく、ご主人さまはを尽くした朝にご満悦でございました。これは事実でございます」

「贅を尽くしたみたいに言うな!ウソだウソだ!そんなことするはずないだろ!?俺がそんなもん喜ぶか!」

「いえ、しかし…ご主人さまは赤ん坊のように大変可愛らしく――」

「ウソだ!ウソだ!ウソウソウソ!!嘘だと言ってよ明日香ァ!」




深い絆がある家族なら、一応は優等生の明日香なら分かってくれるはずと思いきや――現実は甘くなかった。




「セリアちゃんが言ってることは本当ですよ、お兄ちゃん。ほら、ここに動画もあります!」



《…はぁはぁ、黒ストのスベスベがキモチイイ…!》




よく出来た妹の明日香が、最悪のタイミングでスマホ動画を再生する。




《…はぁはぁ、妹ニウムが全身に滾る――!!スゥゥウウハアア――!》




「お兄ちゃんったら…、わ、私の黒ストにこんなに夢中に――きゃっ♡」

「ふふふ、よく撮れておりますね。あぁ…、ご主人さま…お可愛い…尊すぎです」

「まあ、ホントね。仔犬みたいにクンカクンカして…私も黒スト穿こうかしら」




洗面所のどこにカメラが仕掛けられていたのか、映像はヘンタイの――俺の様子を鮮明に捉えていた。




《…はぁはぁ、妹妹妹妹…!クンカクンカスーハースーハー!いい匂いだなあぁクンクン!》




「な、なんだ……これは……」

「ふふふ、こんなこともあろうかと!買っておいたんです!世界最小!最軽量!4K画質の小型ビデオカメラ!スマホとの連携だってバッチリOK!これさえあれば、いつでもお兄ちゃんの可愛い姿を録画して、それをおかずにニヤニヤ出来ます!」

「ふふふ、素晴らしいキャメラです。夜の日課が捗りますね」

「この映像プラス悠人くんの使用済みパンツで、どこでも楽園に変わるわね」


「終わった――――」




隠し持っていたカメラを神速で構え、ニコッと笑う明日香。まるでテレビCMのアイドルのように愛らしいが、動画に群がる二人も含めてコメントがエグい。




《…俺は今、妹たちのスーパーパワーを受けている!ウー!ハーッ!スゥゥウウハアア――!》



「私、もうこの黒ストは穿けません…。一生の宝ものとして保存します!」

「ああ――、わたくしもストッキングを穿いていれば良かったです…生脚をこれほど後悔したことはありません」

「私のハイストッキング&ガーターベルトは……顔を拭くのには向かないのかしらね、金具が多いから……残念」




絶望。失望。後悔――心が冷たい海の底へ沈んでいく。自分のヘンタイ行為を見せられるのはただ、辛かった。


それはエロゲをプレイ中に暗転した画面に映る自分と目があった時のような、そんな重く苦々しい感覚――実の妹にトドメを刺されるとは思ってなかった。




「あれ…?大きな星が点いたり消えたりしている…。アハハ、大きい… 彗星かな? いや、違う――違うな。彗星はもっとバァーって動くもんな…」

「ご主人さま、ご主人さま、しっかりされてください。」

「……銀髪ロリママ…?うーん、現実やめられないのかな?おーい、出してくださいよ。ねぇ?」

「しっかりしてくださいまし、ご主人さま。わたくしの膝の上に甘えられますか?」

「……………………………………………………………いや、いい」




セリアの醸し出す母性に思わず甘えたくなったが、そんなことをしたら確実に俺は終わる。大切な何かを失って二度と戻ってこれなくなる。




「オホン!とにかく次だ! 他にも訊きたいことがある!」

「はい。どんとこい、でございます」

「朝飯で出てきた『我が国の妹女王アイリスの卵』というのは?」

「我が国の女王、アイリスさまが丹精込めて育てた鶏の卵です。緑の国の名産品でありまして――オムライスはご主人さまの好物だったので拵えました」

「よくも重要な部分だけ欠落させてくれたな…!俺ってば完全に頭おかしくなったかと思ったぞ!」

「? なにか問題ございましたでしょうか?」

「今のところ問題しかないよ!」




きょとん、と小首を傾げるセリア――他二名。

三人とも問題点がさっぱり分かっていないようだが、もしかして俺がおかしいのか?そんなワケあるか!




「それと、『パンツガチャ』ってのはなんだ!」

「パンツガチャは一日に一回引けるログインボーナスにございます。全妹のパンツをランダムで入手することができるのです。朝の苦手なご主人さまのためにわたくしが企画立案を致しました」

「そんな企画よく通ったな!?!」

「ふふふ。僭越ながら、わたくしの企画は全妹五十億人が全て賛成。反対者はゼロでございました」

「あるべき法と倫理!」




そっちの世界はやべーやつしかいないの!なんで得意げに胸を張れるの!?




「あれが…あれがマジで妹のパンツだったとしたら、俺はなんてモンを口に……」

「ええ、とても美味しそうにもしゃもしゃしておられましたね」

「だから傷を抉ってくるなよ!?」




この幼女は間違いなくSだ!弱ってる相手にも容赦しないタイプ!




「あれはその…ホンモノ、なのか?『異世界ではパンツとは果物のことなのです』とか、違うなら言ってくれていいぞ?」

「もちろん脱ぎたてホヤホヤおぱんつでございます。正真正銘、あの清楚ビッチの盗れたて下着です」

「産地直送みたいに言うなよ!!マジかよ、俺ってば完全にヘンタイじゃねぇか…!」




深すぎる闇と再び襲いかかる絶望に膝をつき、床へ崩れ落ちる。そんな俺をセリアは慈しむように撫でながら




「信じられないのも無理はございません。ですが、ご安心下さいませご主人さま。わたくしはご主人さまとずっと一緒です」

「セリア…」

「ご主人さまに誠心誠意お仕えし、揺り籠から回転ベッドまでご主人さまが快適に過ごせるようお世話致します」

「…お前は何を言ってるんだ」




そんなトチ狂ったセリフを慈愛たっぷりに言うんじゃない




「ご主人さまへ妹に囲まれ、妹にまみれるそんな活を。それが従者であるわたくしの役目でございます。お着替えもお風呂もお手洗いもどこでも一緒です」

「なに言ってるんだっての……それに、トイレとかは流石にムリだから」

「…では、お着替えとお風呂だけでも認めて下さい」

「どうしてこの人達は心理テクニックを悪用してくるんだ…」




話が、いや常識が全く通じない。明日香も秋穂さんもこの手の交渉をしてくるのだ。今もセリアの言葉に感動したみたいに頷いてるけど、俺はぜったい騙されないからな!




「ふむ…、ご主人さまが何を気にされているのか分かりかねますが…気に病む必要はございませんよ」

「なんでだよ…、気に病むだろ…下着の持ち主だって傷ついてるだろ…」

「ご安心下さい、ご主人さま。そんなことは絶対にございません。ご主人さまが吐き出しになったパンツは、マキシマムオナニストに送り返しましたし…フフッ、いやはや」

「なにが可笑しいんだよ…」

「いえ、ご主人さまにおかずとしてお出ししたパンツがアリシア姫の夜のオカズに再利用されてしまうとは――これがリサイクルというものかと…ふふっ」

「うまいこと一つも言ってないからな!?」




どっと吹き出す三人。正座のまま腰を折って爆笑している。何がそんなに可笑しいんだ!ああ、頭がおかしいのか!




「なんで話が通じないんだ!異世界ってどうなってるんだ!何の秩序もない無法地帯じゃないか!」

「ご主人さま、秩序ならきちんとございますよ。妹妹しすしすワールドの原則は『妹!暴力!セックス!』でございます」

「然るべき機関から教育を受けて下さい!」

「わたくしのスローガンとしましては『ヤル気!性器!セリア!』でございます」

「最後ゴロ合ってねぇじゃねぇか!それにだ!俺は女の子のそういう発言は断固として反対だ!」

「恐れながらご主人さま、性欲は人の三大欲求の一つです。女の子だって性欲くらいあるのです。三大欲求に対してのそれは言葉狩りの視野狭窄な行為だと思われます」

「それは前にも聞いた!それでも俺は断固として反対する!」




このロリママァ、明日香と同じセリフを…!血は争えないというのか…いや、【妹】は争えないのんか――って、なんだこの日本語。




「それと!明日香はなんでウチに居るんだっての!検査はどうしたんだ」

「えへへへ…、実はまだ途中だったんですが採血もCTも問題なさそうだったので――追加の検査は抜きにしてもらったんです」

「なにを勝手なことを…」




あっけらかんと答える明日香を思わずキツく睨んでしまう。が、頭のネジが飛んだ優等生は全く動じる様子はない。頭も舌もよく回る妹は慌てる様子もなく弁解する。




「そもそも!私は健康です!お医者さんもそこは太鼓判を押してくれました!それに、私がいかにお兄ちゃんと離れることによって甚大なストレスを受けるかと言うことを微に入り細を穿つように説明したところ、今度は精神鑑定にまわされそうになったんです!私はそれを断っただけです!」

「そのお医者さんは信用できるな」




是非ともかかりつけ医になってもらおう。世の中まだまだ捨てたもんじゃないな




「ご主人さま」

「なんだ?」

「申し訳ございませんが、そろそろ学校へ行かないと――遅刻してしまいます」

「えっ」




フラットなセリアの忠告に壁時計を見上げれば、時刻は七時五十分――ポッポー(時計から飛び出る鳩)はまだ鳴いていない。




「あれ、今日って日曜だろ?休みだろ?」

「本日は月曜日でございます。この世界の皆さまはわたくしの『認識改変魔法』の影響で一日中眠っておられましたので――」

「なんだと!?明日香!?」

「大丈夫です、お兄ちゃん!こんなこともあろうかと、私は既に制服で準備完了です!」

「気づいてたなら早く言えよ?!」

「ご主人さま、着替えならこちらでございます。わたくしが着せて差し上げますので――ささ、どうぞ」

「いやいいから!自分で着替えるから!」




恭しく手渡される制服一式を奪い取り、時間がないのでその場で着替える。ウチの元ヤン教師は欠席と遅刻には鬼のように厳しい。秋穂さんも明日香もセリアもヘンタイの目でガン見してくるが――背に腹は変えられん!




「おいちょっ、コラ!見すぎだろ!少しは配慮してくださいよ!?」

「ああ…、ご主人さま……尊みで溢れております」

「ええい!うるさい!見るんじゃない!」

「きゃっ♡お兄ちゃんったら…トシゴロの妹の前で着替えるなんて……ハレンチです♡」

「撮影してるやつに言われたくないわ!消せよ!?絶対に消せよ!?」

「この年頃の子って、ボクサーブリーフなのね。あら、カタチが――うふふ♡」

「頼みますから大人の方は大人らしくして下さい!」




三人の美幼女、美少女、美女に着替えをたっぷり視姦されて――この世界はやっぱり狂ってるのかもしれない。でも、それもウチだけで…学校は大丈夫なんだよな!?



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