第17話 獣人の村
[──12月30日 15:00 京介の部屋]
「よし、今日は缶詰系なんかの食べ物を持って行こうか。昨日のうちに仮拠点は完成したから、今日は丘の方に探索しに行ってみようかな……」
京介はリュックへ缶詰食品を詰め込み、扉の前に立つ。ダイアルは既に6似合わせてあるのでそのままドアノブを捻った。数瞬の光の後、階段からでた先と同じ山の麓の森の中だった。
「よし、こっからは【身体強化】して平原まで行ってまた焚き火を焚く。煙が上がったら平原の奥の丘陵がある方へ行ってみよう。」
京介は【身体強化】を発動して森の中を走る。時折方向を確認するために飛び上がり森の切れ目、平原の見える方向へと向かっていった。
「よっし、森を抜けたか。え〜と、仮拠点はもう少しあっちの方か……。」
森沿いを走りながら仮拠点のある場所へ向かう。途中森の中にモンスターの気配を感じたが、こちらに襲いかかってくることは無かったので、そのままスルーをした。
「よ〜し到着っと。とりあえずテントの中に食料とかをしまって〜……って、ケミー?」
京介がテントの中を覗くと、中には以前森ゴブリンに襲われているところを助けた猫獣人のケミーが寝ていた。京介がリュックを下ろすとケミーの頭に生えている猫耳がピクッと動きケミーが起き上がった。
「ふにゃ〜……はっ、恩人様!?あ、あのすみませんです。恩人様のことを探しに来たんですけどいなかったので待っていたらつい寝てしまったです……」
そう言いながら猫耳と頭を項垂れシュンとするケミー。その姿がまるで叱られたペットの猫のようで少しクスッと笑う京介だが、ケミーは本気で落ち込んでいるようだったのですぐに訂正する。
「いやいや、全然怒ってないから大丈夫だよ。それに恩人様じゃなくて京介でいいってば。様もいらないから、ね?」
「ありがとうございますです。え〜っと、じゃあ京介さんとこれから呼びますですね?」
そう言って嬉しそうににぱっと笑うケミー。腰の辺りから伸びているしっぽも嬉しそうに揺れており、猫獣人だが仕草は犬っぽかった。
「ところで、俺に用事ってどうしたの?何かあった?」
京介とケミーは昨日、森ゴブリンを倒した後に別れたきりだ。ケミーが薬草を取りにこの近くの森に来ているのは知っていたが、また薬草でも取りに来たのだろうか?と京介は思った。
「はっ、そうです!京介さん!私たちの村に来てくれませんか!?」
猫耳をピンと立てて京介に詰寄るケミー。急な勢いに京介は思わずたじろぐが、ケミーの言う村に興味が湧いたので
「いいよ。」
と、ふたつ返事で了承する。
「良かったです!助けてくれたお礼もしたいので是非村に来て欲しかったのです!」
「行くのは大丈夫なんだけど、俺が行っても大丈夫?その、獣人以外は敬遠してるとか……そういうのは?」
漫画やラノベの知識しかない京介からすると、こういった異世界の村、それも種族違いの存在はそれぞれ対立していたりすることがあるので人間である自分が村へ赴いても大丈夫なのか?という不安があった。
「大丈夫だと思うですよ?むしろ京介さんが獣人の村に来るのが乗り気なことにびっくりなのです。」
「え?」
「え?」
京介はケミーの言っている意味があまり分からず、つい首を傾げてしまった。それを見てケミーも同じように首を傾げる。
「え〜と、なんで俺が乗り気だとびっくりなの?」
「それはもちろん獣人が嫌われてるからなのですよ。」
ケミーの口からさも当然かのように言われる言葉に京介は放心してしまった。獣人が嫌われているという話は物語の中だとたまにあることではあったが、いざ現実に目の当たりにしてしまうとかなりダメージがあった。京介が会った獣人はケミーの猫獣人が初めてであるし、ケミー以外の獣人にはまだ会ったことがないので一概に良い獣人だけだとは言えないことは分かるが、種族全体として嫌われているとなるとかなりの事だと京介でも理解出来た。
「ごめ、ん。俺あんまり歴史とか関係性とか気にしないってか分からないからさ……」
「そうなのです?そういえば聞いたこともないお国から来たって言ってましたですね!それじゃあ村に向かいながら説明しますですね?」
「あぁ、頼むよ。」
そう言って2人はテントから出て、森とは反対方向の丘陵地帯へ進んでいく。ケミーの身のこなしは軽快で慣れた足取りで、猫獣人特有なのかは分からないが、足音がほとんどしなかった。
ある程度歩いたところでケミーが京介に獣人の話をし始める。
「え〜っと、まず京介さんはこの世界にどんな種族がいるか分かるです?」
「ごめん。その辺も分からなくて……俺みたいな人?種族と、ケミーの言う獣人って種族だけ知ってるかな。」
「了解なのです。まず、この世界【フレクスガルド】には、人間種・獣人種・エルフ種・ドワーフ種・魔族種。そしてこれは誰も見た事がないですけど神族種と呼ばれる6種の種族がいるです。」
「ふむふむ。」
京介がメモを取りながらケミーの話を興味深そうに聞く。
「そして、それ以外の生物に動物種と魔物種がいるです。動物種は家畜とかでどの種族も飼育してるですけど、魔物種は全く違うです。魔物種は魔力の集まる自然の中に産まれる特殊な生物なのです。京介さんも見たかもですけど、森の中なんかにはよくいるですね。あ、ちなみに京介さんがいたあの辺はアズ金山なんて呼ばれてて、昔は金鉱石が取れる山だったみたいですけど坑道がダンジョンに変わっちゃってからは冒険者様以外に誰も近寄らなくなったですね。」
京介はメモを取りながら、「アズ金山」や「ダンジョンに変わる」「冒険者」と気になるワードに印をつけていった。
「え〜っと、あ、そうです!獣人の話です。獣人ははるか昔、それはそれは昔過ぎてケミーのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんくらい前みたいなのです。それくらい昔はこの大陸は獣人が支配してたのです。他の種族さん達は獣人の国のもとでそれぞれ暮らしてたです。」
「え、そうなの?すごくない?」
京介はあまりの凄さに思わずメモから顔を上げて、足を止めてしまう。
「えへへ、でもでも今は違うですよ?まぁ、むか〜しのお話なのです。ほんとかどうかわからないですけど、獣人の大人はみんなそういうです。」
「でも、なんでそれが獣人が嫌われてる話に……?」
2人はまた歩き始めながら話を進める。
「ん〜、それがケミーもよく分からないです……なんでもある時獣人の王様が狂乱して崩御してからおかしくなっちゃった……って聞いたです。だからきっと昔の獣人の王様がなんか悪いことしちゃったです?」
「そんな曖昧な……それだけで嫌われるなんておかしくないか?」
「ケミーも詳しいことまで分からないのです〜……村長なら多分詳しいことも知ってるですよ。あ、そろそろ村が見えてくるですよ!ほら!」
そう言ってケミーが前方を指さす。そこには木で作られた大きな柵でぐるりと囲われた場所が確かに存在していた。だが、その規模は村と呼ぶにはあまりに大きく、まるで砦の様相だった。
「これ村じゃなくて要塞じゃないか……?」
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