第1話 初探索

[―― 12月25日 10:20 京介の部屋]


「んぁ…ん?あぁ昨日はケーキ片付けてそのまま寝たのか。」


 布団から起き上がると、窓のカーテンを開けて朝日を浴びる。今日はバイトの予定もなく1日暇なので、昨日のを試すことにする。


「うん、ちゃんとあるわ……夢じゃなかったか。」


 押入れの片方の扉を見る。とても豪華で意匠を凝って作られた扉がそこにある。昨日帰ってきた後に見つけた扉。中に入ったら色々なことがあり、あれよあれよというまにとんでもないことになっていた。


「……ステータス」



―――――――――――――――――――――――


名前 :朝谷京介

位階 :G

レベル:1

体力 :75/75

魔力 :30/30


スキル

【取得経験値10倍】

【剣術:素戔嗚流 Lv.1/10】

【無属性魔術Lv.1/5】

【心眼Lv.1/3】

【鑑定Lv.1/3】


称号

【世界初の探索者】


―――――――――――――――――――――――



 昨夜与えられたスキルや称号がそこには並んでいる。明らかにチートなスキルや他人に見られたら明らかに怪しまれるスキルと称号がてんこもりで京介は頭を抱えてしまう。


「これどうすればいいんだマジで……。というか詳細みたいなの見れないのか?」


 そう考えてステータスのスキルで使えそうな【鑑定】に触れてみる。すると、



―――――――――――――――――――――――


【鑑定Lv.1/3】

 ダンジョンに関連するものの詳細を見ることのできるスキル。レベルが上がることで位階の高いものの情報を見ることができるようになる。


―――――――――――――――――――――――



「おお!なるほどスマホみたいな感じでタップすれば内容が見れるのか!」


 ステータスの見方がわかった京介はほかのスキルと称号についても内容を見ていく。



―――――――――――――――――――――――


【取得経験値10倍】

 ダンジョンのモンスターを倒すことで得られる経験値を通常の10倍得ることができるスキル。スキルレベルの上昇には関係しない。


【剣術:素戔嗚流 Lv.1/10】

 剣を扱う術を身に着けることのできるスキル。素戔嗚流の剣術は極めることで山を切り、海を割る力を手に入れることのできる神の流派。


【無属性魔術Lv.1/5】

 無属性の魔術を扱うことができるようになるスキル。無属性はあらゆる属性の源となる属性である。


【心眼Lv.1/3】

 死角や意識外からの敵意や攻撃を察知することができるようになるスキル。レベルが上がることで反応速度や感知する距離が上がる。


【世界初の探索者】

 世界で初めて扉を通った者に与えられる称号。ダンジョン内における運気の上昇とダンジョン出入口の扉の位置を感知することができる。


―――――――――――――――――――――――



「うわぁ……これ凄すぎないか?」


 スキルと称号の内容に目を通してついため息が出てしまう。あまりにも強いスキル群に称号の効果が加わってまさにチート級の強さになっていた。


「これ他の探索者?を知らないから一概には言えないけど……最強じゃないか?」


 心臓がどきどきしているのを感じている。大学を卒業した後、就活に失敗してフリーターとしてぱっとしない生活をずっとしていた京介は、今後の人生が大きく変わろうとしていることを感じ始めていた。


「これなら……これなら俺の躓いた人生もやりなおせるんじゃないか?!」


 京介は急いで動きやすいジャージに着替え台所から包丁、部屋に積んでいた雑誌を左腕にガムテープで巻きつけて簡易的な盾を作った。使い込んでボロボロになったリュックには冷蔵庫に入っていたおにぎりと水のペットボトル、タオルや絆創膏を入れて準備を整えた。包丁を利き手である右手に持って左手で扉を開く。一瞬の光に包まれ、次に目を開くとほの暗い洞窟のような場所に出た。後ろには先ほど通った扉がある。


「あぁこれが称号に書いてあった扉の位置がわかるってやつか。扉の方を見てなくても後ろから何となくだけど扉を感じるな。」


 目を閉じてその場で少しくるくる回っても常に扉がどの方向にあるのかがわかる。なんとも不思議な感覚だった。


「まぁ慣れれば大丈夫だな。位置がわかれば迷子になっても最悪帰れそうだし……とりあえず進んでみるか。」


 包丁を持つ手に少し力がこもる。京介の知識にあるダンジョンが考えている通りならが出てくるはずだ。


「うわぁ!」


 周囲を警戒しながら進んでいると、目の前を上から何かが通り過ぎて行った。それは、京介の足元にばしゃりという音とともに落ちる。


「こ、これってなのか?」


 京介の足元には薄水色で半透明な粘性の液体が動いていた。半透明な体の真ん中あたりにはビー玉ほどの丸い宝石のようなものがある。


「これ包丁で倒せるのかな……漫画とかだとこのビー玉みたいなのが弱点というか核?みたいなかんじかな。」


 京介は包丁を逆手にしてスライムの核に向けて振り下ろす。スライムは何の抵抗もなく核を砕かれ、光の粒子になって消えてしまった。


「うわっ、あ~倒したら消える感じのダンジョンか……ん、これはスライムの核?的なやつか。」


 スライムが消えた後には先ほどのビー玉のような核が落ちていた。京介はそれを拾ってリュックの外ポケットにしまう。そこで京介は自身の体が以前よりも軽く感じることに気が付いた。


「あぁ!モンスター倒したからレベルアップしたのか!ステータス!」



―――――――――――――――――――――――


名前 :朝谷京介

位階 :G

レベル:6

体力 :165/165

魔力 :80/80


スキル

【取得経験値10倍】

【剣術:素戔嗚流 Lv.1/10】

【無属性魔術Lv.1/5】

【心眼Lv.1/3】

【鑑定Lv.1/3】


称号

【世界初の探索者】


―――――――――――――――――――――――



「うわぁ……スライム1匹でレベル6まで上がったのか?スライムの経験値が多いわわけじゃないだろうし……【取得経験値10倍】の効果なんだろうな。というか、体が軽く感じるのはレベルが上がった影響か?ステータスだと体力と魔力しか書いてないから細かいとこまで見れないんだよなぁ……」


 京介は一度その場で軽くジャンプしてみる。通常であれば50cm程度しか飛ばないはずだが京介は軽く1mは飛んでいた。その他にも軽く走ったり、包丁を振るったりすると明らかにキレが増していた。ステータスには書かれていない、いわば裏ステータスのようなものがあるようで少なくとも筋力は上がっているのがわかる。


「うっし、じゃあ次からスキルを使ってみようかな。う~ん、包丁でも剣術って使えるのか?」


 試しに包丁を構えて【剣術:素戔嗚流 Lv.1/10】を意識する。すると頭の中に現状のスキルレベルで使える技が思い浮かんでくる。使える技は【飛斬】と【柳流れ】だった。


 【飛斬】は剣を振るった後に斬撃が飛んでいく技だ。斬撃はだいたい2mほど飛んでいくようだった。


 【柳流れ】は相手の攻撃を持っている武器で受け流す技のようで相手の攻撃の威力と自身が使っている武器の耐久によって成功率が変わるようだった。


「なるほど……これでも充分強いと思うけど、レベル1だからこれからもっと増えるわけだよな。それじゃあこっちの魔術の方も確認してみるか。」


 次に【無属性魔術Lv.1/5】を意識する。すると頭の中に現状のスキルレベルで使える無属性の魔術が思い浮かんでくる。使える魔術は、【魔弾】と【身体強化】だった。


 【魔弾】は魔力を3消費して5mの距離を拳大の弾がまっすぐに飛んでいく魔術だ。


 【身体強化】はその名の通り身体を強化することができ筋力や硬さを増すことができる魔術だ。魔力消費に固定はなく、魔力1ごとに1分ずつ増えていく魔法のようだ。


「なるほどなるほど……こっちも結構使い勝手がよさそうだな!」


 京介は少し水を飲んで、さらにダンジョンの中を進んでいく。洞窟の様相は変わらずほの暗い中を京介は警戒しながら進んでいくと通路の端にまたスライムがいることに気付いた。


「お、スライム発見。じゃあスキルを使って倒してみるか。」


 そう言って京介は【飛斬】を放つ。【飛斬】は白い軌跡を残しながらまっすぐとスライムめがけて飛んでいき、パンッという破裂音と共に弾け飛びスライムの核だけが後には残った。


「あ、また少し体が軽くなったな……これがレベルアップした合図みたいなもんかな?あ、そうだスライムの核ってダンジョン由来のものなんだから【鑑定】できるんじゃないか?」


 京介はスライムの核を拾って【鑑定】を使う。



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魔石

位階:G


位階:Gにあたるモンスターの魔石。様々な素材として使用可。

また、魔力を抽出することでエネルギーとして使用することができる。


―――――――――――――――――――――――



「魔石かぁ!確かにダンジョンのモンスターからでるってなれば魔石か。てか位階ってなんだろう。そのままとればランク?的なもので上がっていけばいくほどいいみたいな感じだよな。」


 京介は【鑑定】したスライムの核をまたリュックにしまい込み、ダンジョンの奥へと進んでいった。






―――――――――――――――――――――――






[―― 12月25日 11:00 警察庁小会議室]


「つまりあの扉の先には全く別の空間が存在しており、そこでは一切外との連絡が取れないんだな?」


 スーツ姿で背格好の良い強面の男が眉間にしわを寄せ尋ねる。


「はっ、その通りでございます。また扉ごとに空間が違うようでして、平原が広がっている扉や遺跡のような空間に出る扉など様々な様相を見せております。さらに、その空間には見たこともない生命体が存在しているようでして、今のところ会話が成立した相手はいないとのことです。」


 警官服に身を包む男がスーツ姿の男に応える。小会議室にはこの二人しかいないようだった。


「はぁー……いったい何だってんだこれは。しかも日本だけじゃなく世界中で同じことが起こったんだろ?上の連中はてんてこまいで昨日の夜からず~っと会議会議会議だってよ。早いとこ法案でもまとめて統制しないと行方不明者が増えちまう。」


「えぇ。現状扉の中に入ってしまって戻ってきていないと報告されているのが50件ほど寄せられています。おそらくは扉内に存在している生命体に襲われたか、空間内にて遭難してしまっているのではないかと。現在警察が扉周辺にて監視をして中に一般人が入らないようにしております。一刻も早く自衛隊による現地調査をお願いしたいところですね……」


 扉出現から半日ほど過ぎたが今でも、各地で扉に入ってしまった行方不明者が戻ってきておらずその対応に警察は追われていた。日本政府は即刻、非常事態宣言を発令し扉への近寄りを禁止した。いまは政府で扉の調査や扱いをどうするのかの会議を進めている。


 小会議室の中でふたりそろって溜息を吐いていると、いきなり扉を勢いよく開いて新たに警官がひとり入ってきた。


「緊急です!!!扉内に入っていった行方不明者がふたり、帰還したとのことです!!!」


「「なんだって?!」」


 いまだ、日本は混乱の中にあるのだった。

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