第2話 行方不明者の話と国会議事堂にて

[―― 12月25日 11:00 東京都 ハチ公前の扉]


「ではあなたは中に入って行ってしまった妹さんを助けるために中に入っていったということですね?」


婦警が目の前の人物にやさしく問いかける。


「は、はい。昨日の夜に私と妹は塾の帰りで駅に向かっていたんですが、妹がハチ公前に急に現れた扉に興味を持ってしまって中に入ってしまったんです。年の離れている妹をひとりでおいていくことなんてできませんから、探しに私も中に入っていったんです。」


 制服に身を包んだ女性が俯きがちに応えた。制服は高校の制服で、有名な進学校のものであることが確認できる。


「中に入った後、すぐに出てこなかったのはなぜですか?」


「妹がそのまま走って行ってしまったんです。昔から興味のあるものには一直線で、突っ走る癖があるのでたぶん今回もそうだったんだと思います。扉の先は花畑のような場所で、夜にあの扉をくぐったはずなのに向こうは雲一つない青空の朝だったんです。私もう、びっくりして……」


 女子高生はその顔を青くしながら自身の体験したことを話していく。婦警は聞いた話を漏れなくメモしていく。


「ゆっくりで大丈夫ですよ。我々もあなたを責めたいわけではなく、少しでもあの扉の情報が欲しいのです。」


「はい。すぅー、ふぅー……妹をなんとか追いかけて捕まえた時だったんです。花畑の向こう側、ちょうど花が途切れるあたりに何かがいたんです。」


「何か……?」


 女子高生は自身の両肩を掴んで、震える。


が振り返ったときにあまりの恐怖で私は妹を抱えて逃げ出したんです。」


「恐怖……とは?」


 女子高生の震えは収まらず、涙があふれだす。


「前にゲームで見たことがあるんですがあれは多分、ゴブリン……」


「ゴブリン……緑色の肌で子供ほどの身長の?」


「そうです、そのゴブリンがいたんです。私は咄嗟に妹を抱き寄せて、気付かれないうちに扉まで逃げて帰ってきました……」


 そう言って女子高生は大きく息を吸い込んだ。いまだ震える体を抱きしめながらも婦警の目を見つめて言う。


「婦警さん……あれは、あの扉はなんなんですか……」


婦警はその質問に答えられる答えを持ち合わせていなかった。






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[―― 12月25日 12:00 京介の部屋]


「だいたい1時間でこの成果か……」


 京介の前にはのダンジョンにて手に入れた魔石が8個置かれていた。


「しっかしのダンジョンだったかぁ~」


 そう。京介はダンジョンの探索を行っていた際に、なんとに繋がる階段を見つけていた。ダンジョンの1階層目は一本道の洞窟となっていたため横道などなく迷うことなく進むことができ、またスライムが1体ずつのみ出てくるので戦闘でも苦戦することはなかった。そのため行き止まりと思われる場所まで辿り着くと、正面の壁にいきなり階段が現れたのだ。


「多分、階層の1番奥まで辿り着くのが条件だったのかな?てか魔石を手に入れても今の俺じゃ特に使い道もないんだよなぁ……あ、一応ステータスっと」



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名前 :朝谷京介

位階 :G

レベル:17

体力 :420/420

魔力 :180/200


スキル

【取得経験値10倍】

【剣術:素戔嗚流 Lv.1/10】

【無属性魔術Lv.1/5】

【心眼Lv.1/3】

【鑑定Lv.1/3】


称号

【世界初の探索者】


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「おお!めっちゃレベル上がってるじゃん!スキル様様だなこりゃ。」


 8体のスライムを倒したことでレベルが上がっており体力も魔力もレベル1の頃からとてつもなく増えていた。


「これくらいあればさすがに2階層に行っても大丈夫だよな?」


 京介は腕を組みながら次の階層のことを考える。実は少しだけ階段の先を覗いてきていた。階段の先は同じような洞窟ではあったが、道幅は2倍ほどに広がっており少しだけ明るくなっていた。モンスターの姿は確認できなかったが、少なくともあの道幅でスライム1匹ということはないだろう。


「ん……あぁ東雲しののめ店長か。」


 荷物を整理しているとスマホに通知が届く。それはバイト先であるコンビニで店長を務めている東雲沙友里しののめさゆりさんから無事かどうかの確認連絡だった。東雲店長は面倒見のいい姉御肌の女性で、自分とそんなに歳も離れていなかったはず。


「え~っと?無事な人から連絡を……シフト変更は無事が確認できた人から……うん、俺は大丈夫だから返信しとこう。コンビニは無事だったっぽいし、東雲店長も無事みたいだし無職にはならなさそうだ。」


 京介は簡単に「無事です。シフトはどこでも大丈夫です。」と返信を送る。そのままSNSアプリのXterエクスターを開く。するとTOPトレンドにはやはり「扉」という文字が入っていた。そこをタップしてみると各地で扉が現れているようで、そのどれもが観光地として有名な場所ばかりだった。京介は初めて扉を通ったときに聞こえた神様の話を聞いたことを思い出して、「人が集まりやすいところにつくったんだろうなぁ」と考えた。


「ん?特例措置……???」


 扉に関連した記事を読んでいると関連記事として、「日本政府から全国民に対して扉に関する措置を発令。」という見出しのものがあることに気付いた。それを開くと中々の長文が書かれていておもわずうめき声が出たが、頑張ってすべてに目を通す。内容をまとめると、


・扉はすべて国の管理のもと調査を進める。

・扉内部に入ることで「ステータス」と呼ばれるものが表示されるようになる。

・ステータスを持っている人のことを「探索者」と呼ぶこととする。

・国管理のもとの「探索者協会」を立ち上げ有志の探索者を募集する。

・扉に入るには「探索者協会」に所属していなければならない。


とのことだった。


「ん~……?お堅い日本の政治家がよく扉に入るのを許したなぁ~。お、漫画の更新来てるじゃん。」


 京介はあまり深く考えないことにしたのだった。








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[―― 12月25日 11:00 国会議事堂]


「―――― ということなのでぇ~ちゃんと役立ててくださいね?」


「は、はい……誠に感謝いたします。」


 国会議事堂の中、政治家たちが一堂に会した中で一際存在感を放つ白い服を身にまとった女が全員を俯瞰できる話をしていた。その女こそ京介に扉の中で話しかけていた存在だった。


「私たち神はぁ~、ちゃ~んと見てますからねぇ?下手なこと考えたりしたらぁ~、メッて神罰しちゃいますからね。」


「はい!はい!必ずや!ご期待に添えられますよう尽力いたしますので!!!」


 総理大臣が床の上にほとんど土下座の形でひれ伏している。他の議員も直接女の姿を見ないようにその場で平伏していた。普段の議員の姿を知っている日本国民が見ればありえないものを見たような顔をしてフェイクニュースか何かだと勘違いしてしまうような光景だった。だが議員たちは皆一同に心の底から目の前に現れた存在に歯向かう気など微塵も起きなかった。それほどまでに女から発せられる人知を超えた圧のようなもの……女曰くと呼ばれるものが自然と発せられているらしいが女がこの場に現れた時から誰も彼もが疑いなどしようもないほど分からされていた。


――――目の前にいるこの女はまごうことなき神の1柱なのだと。


 こうして異例のスピードで議会は進んでいき、「扉」及び「探索者」に関連する法案がまとめられていくのだった。











――――――――――――――――――――――


あとがき


どうも、阿吽あうんです。

この作品を読んでくださり誠にありがとうございます。

皆様のプレビューやフォロー、レビューが励みになっておりますので、

これからも何卒応援いただけますと幸いです。

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