第3話 2階層目に挑戦

[──12月26日 10:00 京介のバイト先 コンビニ]


「え!東雲店長探索者になるんすか?!」


 朝シフトとして呼ばれた京介は、朝の通勤ラッシュを終えて棚の整理をしながら東雲店長と話していた。


「おうよ!いやー、最初に扉が現れたーなんて話を聞いた時にゃ驚いたけど、なんでも異世界に繋がってるらしいじゃん?異世界モノのオタクとしてはそりゃー気になるってんで昨日のうちに探索者協会の応募フォーラム送っちまった!」


 男勝りな口調で話す東雲店長。見た目は黒髪をおだんごに纏めていて健康的なきれいな白い肌をしている美人。そう、口調は男勝りな感じなのに見た目がめちゃくちゃ大和撫子なのだ。京介も、バイトの面接を受けた際にあまりのギャップにひっくり返りそうになったものだ。だが、彼女はとても面倒見がよく優しい性格をしていて周りに配りもできるいい人だ。おまけに美人だ。客に対しては丁寧な敬語を使えるし、何より見た目も相まって客受けがいい。京介も信頼している数少ない人の1人だった。


「一応自分も応募したんですけどまさか東雲店長も応募してるとは……驚きました。」


「あはは、まぁね。実は昨日の扉に従妹が入っちまってね……そこで見たものなんかを聞いて不謹慎ながらわくわくしちまったんだよ。」


 そう言って照れくさそうに頬を掻きながら彼女は品出しに戻る。京介も、1度話を切って倉庫から新しい商品を運び出す。


(俺の能力とか、部屋の扉のことは隠しといたほうがいいよなぁ……)


「京介?どうしたんだ天井なんか見て?」


「ああいえ、探索者になったらバイトどうしようかなって思って……あはは。」


「儲かるかどうかもわかってないしなぁ~。まぁ私は自分のステータスが気になるし、新しいことに挑戦するのは好きだから店長しながら片手間でやる感じになるんじゃね?まぁやってみないとわかんないっしょ。」


 そういってにかっと笑う東雲店長はとてもかわいかった。






―――――――――――――――――――――――






[──12月26日 19:00 京介の家]


「うっし、今日から2階層目に挑戦だな。持ち物はこの前と同じものに、魔石を入れるようの袋。あと、このまえは魔石そのままつかんでたけど漫画のスライムとかって酸を飛ばしてきたり、なんでも溶かすような特性持ってたりするから万が一ってことで軍手もしていこう。よし、準備OK!」


 リュックを背負い、扉の前に立つ。ドアノブに手をかけようとしたときに、ダイアルのようなものがついていることに気が付いた。


「ん?これって、鍵とかについてるダイアルだよな?数は……0002?なんだこれ。他の人が入らないように暗証番号でもつけろってか?」


 京介はダイアルの千の位に指をかけ回そうとする。しかしどうにもこうにも動かない。百の位も十の位も動かないが一の位だけが動いた。


 しかし、


「1と2しかないじゃん……」


 普通なら0~9まであるはずのダイアルはどれだけ回しても1と2しか出てこない。何度か動かしているうちに、京介はあることに気が付く。


「あっ、これもしかして行ったことのある階層ってことか?」


 千~十の位が0から動かず、1と2しか一の位に表示されていない理由に京介はなのではないかということに気が付いた。京介は前回の探索で1階層の奥まで進み、2階層目を少しだけ覗いたことから「1~2」がカウントされているということが分かった。


「え、じゃあまた1時間かけて2階層に行かなくていいのか?!めっちゃ便利じゃんこれ!」


 京介はドアノブについたダイアルを「2」にして扉を開く。一瞬の光の後、前に覗いた2階層がそこに広がっていた。


「おお~、マジか。これじゃあ3階層4階層って進んでも好きなところから進められるのか。」


 京介は包丁を握り、2階層の通路を見据える。1階層よりも明るく感じる洞窟のような空間は壁から反対の壁までがだいたい4mほどあり1階層よりも広くなっていることがわかる。つまりこの広さが必要ななにかがあるということ。


「ふぅー。よし、行こう!」


 京介は2階層を進んでいく。見える範囲では1階層と同じように脇道はなく、一本道のように見える。心なしか壁の岩肌に苔が増えたような気がするが、京介は気にも留めずにダンジョンを進んでいく。


「んっ?あれは……」


 京介が2階層を進み始めておよそ5分ほどのあたりで、進行方向になにか動くものがいることに気が付く。それはやがてこちらに近付いてきてその全貌が明らかになった。


「これって……またスライムかよ!」


 そこにいたのは1階層でも出会ったスライムだった。だが京介が対面した2階層のすらいむは1階層のスライムとは違い、京介の膝ほどまでの大きさに青色に近い半透明の体を持ったスライムだった。あきらかに大きく、また意志を持った動きを見せるスライムに京介は身構える。


「でも今の俺のレベルならスキルを使って倒せるはず!先手必勝【飛斬】!」


 京介は青スライムめがけて【飛斬】を放つ。まっすぐにスライムめがけて飛んでいく【飛斬】だがスライムは真上に跳ねることで避けてしまう。スライムが着地すると、体を揺らしながら意外にも速いスピードで京介との距離を詰めてくる。


「マジかよ!くっ【飛斬】!っと【魔弾】も!」


 京介はスライムの動きに驚きながらもバックステップで距離を保ちながらまた【飛斬】を放つ。さらにスライムがまた避けることを考えて、【飛斬】の直線状よりも上を狙って【魔弾】を放った。


「ギュピィッ!」


 京介の思惑通り、また【飛斬】を真上に飛んで避けたスライムに後から放った【魔弾】が当たり、そのままスライムの体を貫通した。そのままスライムは空中で光となって消え、地面には魔石が落ちていた。


「はぁー……焦ったマジで。スライムだからって舐めてたら危ないなコレは。」


 京介は落ちた魔石を拾いながら自分の油断を反省する。1階層のスライムより明らかに強化された見た目をしていたのに同じスライムと思い侮っていたが、動きの速さや攻撃を避けるだけの知性が備わっていたことで危険な状態に陥りそうになった。今後は一度相対したモンスターであろうとも決して侮らずに行動することを誓った。


「よし、とりあえずこの魔石も……なんか色違くね?まぁ【鑑定】っと。」



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水の魔石

位階:G


位階:Gにあたる水属性のモンスターの魔石。様々な素材として使用可。

また、魔力を込めることで真水を生じさせることができる。


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「なるほど!あのスライム、なんか青っぽいなとは思ったけど水属性か!モンスターにも属性があるんだな。これは覚えとこう。ん、体も軽く感じるしレベルアップもしたか。ステータス。」


 倒したスライムから手に入れた水属性の魔石をコンビニ袋にいれてリュックにしまいながら自分のステータスを確認する。



―――――――――――――――――――――――


名前 :朝谷京介

位階 :G

レベル:23

体力 :540/540

魔力 :357/360


スキル

【取得経験値10倍】

【剣術:素戔嗚流 Lv.1/10】

【無属性魔術Lv.1/5】

【心眼Lv.1/3】

【鑑定Lv.1/3】


称号

【世界初の探索者】


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「おっ、レベルが20超えてる。でも位階は相変わらずGのままか……レベルが上がったら位階も上がるのかと思ったけど違うのか?まぁ、この辺は追々確かめるしかないか。」


 京介は自身のステータスを確認し、またダンジョンを進んでいく。今日の探索で出来れば3階層まで行きたいと考えていた。ダンジョンに入るための扉に新しく追加されていたあのダイヤルのためだ。以前は1階層で見つけた階段を降り、2階層には1、2歩程度しか踏み入れていなかったにも関わらずダイアルには「2」まで表示されていた。であるならば、3階層目まで踏み込めば次回に探索する際にダイアルには「3」が表示されるようになり3階層目から始めることができるはず。


「そのためにもまずはこの2階層をクリアしないとな……よし!十分警戒しながら探索を進めようか。」


 京介のダンジョン探索はまだまだ続く。

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