第18話 獣人村の村長
「ただいまです〜!!!」
「おっ、ケミーじゃねぇか?!帰ってきたかぁ〜!」
ケミーが大きな木の柵の前で叫ぶと、物見櫓のようなところから大柄な体格の男がこちらを覗き込み、返事をする。その男の頭の上にも猫の耳がついていた。
「ようこそです京介さん!ここがケミー達の住んでる猫獣人の村なのです!」
大きな木の柵の一部が門のように左右に大きく開いていく。柵に阻まれて見えなかった中には木造の家が建ち並び、中央には井戸と何か大きなテーブルのようなものが設置されていた。
「へぇ、ここがケミーの住んでる村なのか……住んでる人たちはみんな猫獣人なのか?」
「そうなのです!ここにいるのは皆おんなじ猫獣人なのですよ。あっちにケミーの住んでる家があって、向こうの横に長い家が村長のいる家なのです。」
そう言って村の中に入りながらあっちこっちと指をさしながら村を案内してくれた。家の周りを走っている子供や、井戸の近くで話をしている女性たち、家の修理をしているのか屋根の上で木材の板を持って何か作業をしている男性がいる。
「ケミーも用事があるので、一緒に村長のとこに行くのです!」
「あ、あぁうん。いきなり人間の自分が行っても大丈夫かな?」
猫獣人しかいない村の中を歩いている京介は、こちらを見る視線があることには気付くが、あくまでも初めて見た相手を観察するような視線しかないのが不思議だった。
「大丈夫なのです。たまに人間の商人さんが来ることもあるですし、嫌われてると言ってもそんなに過度な訳ではないのです。」
「そっか……。」
ケミーが当たり前のように話す内容を聞いて、京介は少し悲しい気持ちになるが今は村長の家に向かうことを先決した。
「あ、そんちょー!連れてきたのですよー!」
村の中を歩いていると、ケミーの言っていた通りの横長の家が見えてきて、その家の前のベンチに杖を突いた小柄な老人が座っているのが見えた。その老人はケミーに気が付くと、ベンチから立ち上がりこちらへと近づいてくる。
「おお……。ケミーや、よう無事に帰ってきたの。」
「えへへ。あ、これ頼まれてた薬草だよ!また家の中の薬草棚に置いとくからね?」
仲の良さそうに話す村長とケミー。京介はケミーの自然な話し方を聞いて、普通に話せるのかと驚いていた。
「あ!村長!この人が私を助けてくれた恩人様の京介さんだよ!すっごい強いの!」
「ふぉっふぉ……そうですか、あなたが。森ゴブリンの群れからケミーを助けてくださり大変感謝しますぞ。」
そう言ってぺこりと頭を下げ感謝を伝える村長。京介は少し慌てて返す。
「いやいや!そこまでの敵ではありませんでしたし、ケミーには色々と教えてもらったうえ村まで招待してもらって、俺の方が貰いすぎてるくらいですよ……。」
腰を低くした返しをすると、村長が目を見開くほどに驚いたようで少しの間固まっていた。横にいたケミーはどうしたのかと村長の顔の前で手を振る。
「これ、やめなさいケミー……。ええと、京介さんでしたかな。ここで立ち話もなんですから、どうぞワシの家に上がってくだされ。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
手で家の中に促され、それに従って村長の家の中にケミーと入る。村長の家の中は様々な物であふれており、植物が置かれている棚や、お椀がいくつも置かれた机に囲炉裏のような場所がある。薬品のようなツンとした匂いがして思わず顔を少ししかめてしまった。
「ほほ、汚くて失礼じゃが何卒許しておくれ。村に薬を調合できる者がワシしかおらんものでのぅ。」
村長はどうやら薬師のようで、ケミーは村長に頼まれて薬草を摘んできているようだったが、まさか村長自身が薬を作っているとは思っていなかったので京介は思わず意外そうな顔をしてしまった。
「どうぞこちらの席にお座りくだされ。今、茶を淹れますでのぅ。」
「そんちょー!薬草置いとくねー!」
村長が囲炉裏の方へ器を持って進むと、京介の隣にいたケミーが入口近くの壁際にある棚に、摘んできた薬草を並べ始めた。
「恩人殿、改めてこの度はケミーを助けていただきお礼申し上げる。」
村長が京介の前に淹れたてのお茶を置く。そのまま京介の対面側に座った村長が頭を下げて感謝を述べる。
「いやいや、本当に迷惑だとか思ってないですから!俺は別の国っていうか大陸っていうか……まぁ本当にこの辺のことは何もわからなくて。だからケミーに教えてもらえて本当に助かってるんです。」
そう言って京介は出されたお茶を一口飲む。緑茶に似た風味だが後味にミントのような清涼感があり、とてもおいしいお茶だった。
「ほっほっ……そうですかそうですか。して、本日はいかがしたのですかな?何か用ありと見受けられますが……」
「あぁ、はい。 ケミーからある程度のことは聞いてるんですけど……」
そう言ってメモを取っていた紙を取り出して、読み上げる。村長はうんうんとうなずきながら聞き、全てを聞き終わった後に少しばかり考え込んだ後に口を開く。
「失礼、京介殿と呼ばせてもらうが……京介殿は一体何を成そうとしておる?」
「えっ?」
まっすぐと目を見据えられる京介は思わずドキリとしてしまう。老練さを感じるその眼差しは京介の心を見透かすかのようで、京介は図星を突かれたことに違和感を覚えていた。
「……なぜ、そう思ったのか聞いても?」
京介は訝し気に村長を見る。だが村長はそんな京介の視線を涼し気に流し、話を続ける。
「ほっほっ……実は京介殿のような者が過去にもいたのじゃよ。人間種でありながら獣人種を救おうとした者がな。」
棚で薬草を整理していたケリーの手が止まる。村長は腕を組み、遠い昔を思い浮かべながら語り始める。
「あれは獣人種の国が滅んだ後、他種族の国々が大きくなっていきそれに反するように獣人の地位が下がっていったときだったという……各地で逃げ延びた獣人種達を狩りと銘打って遊び半分に殺し始めた時じゃ。」
滔々と話し始める、村長。ケミーもどこからか椅子を持ち出して村長の隣に座っていた。
「国が滅び、行き場も無くなった獣人はその名の通り獣に堕ち他国の村々を襲い始めた。無論全ての獣人がそれに続いたわけではなかったが、他種族からすれば獣人という害獣に随分悩まされたろうて……そんな世界が続き、全ての種族に獣人という名が悪名となったときに、その頃の国家間にてある約定がされたんじゃ。」
一口、村長はお茶を飲むと、ふぅと息を吐いて一拍置く。
「『獣人種一括管理協定』という約定じゃ。表向きは獣人を各国にて集め、管理統制を行うということじゃったが、本当に行われたのは獣人狩りに奴隷の扱いじゃった。獣人の中にも長命の者がおるがその者らには隷属の焼印が残っとるそうじゃ……」
「……っ。」
村長の隣で話しを聞いていたケミーは膝の上で手を握りしめ、頭の上の猫耳は項垂れるようにぺたんと倒れていた。
「ほとんどの獣人が捕らえられたとき、残った獣人たちと共に立ち上がった人間種がおった。その者の名は廃れてしまうほどの時が流れたが我ら獣人は決して忘れない。」
村長が天井を見上げて、敬うように名を告げる。
「人間種でありながら獣の王となったその者の名はイスカンダル。異なる世界より現れた獣人種の救世主じゃった。」
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