第8話 第3階層

[──12月28日 18:00 京介の部屋]


 京介は自室で自分の探索者カードを見つめていた。表面には自身の名前とランクである「G」の文字。裏面には、昨日記載した嘘のステータスが書いてある。


「昨日の受付の人……なんか俺のことすごい見てたよなぁ。」


 昨日、晴れて探索者となった京介だったが最後に会った探索者協会の受付嬢は何かを感じ取ったかのように、京介の番だけやたら確認してきたりこちらの顔をジッと見てきていた。探索者協会に勤めているからには受付嬢にもステータスはあるのだろうが、なにか感じ取るものがあったりするのだろうか。


「ま、今は考えてもしかないか。とりあえず年明けまではバイトとこの部屋のダンジョンで時間つぶすか。」


 そう言って京介は探索者カードを財布にしまい、ダンジョンに入る準備をする。いつもなら包丁と盾代わりの雑誌を巻いていたが今日からはそれら持って行かない。


「ふぅ……押し入れの中自体は普通でよかった。じゃなきゃこんなでかいの置きっぱとかできないし。」


 京介はダンジョンに繋がる扉の横にある押入れの擦り戸を開ける。中には畳んである段ボールや夏服などが置いてある。その中にひときわ異質なものがひとつだけ鎮座していた。


「さて、今日はお前の試し切りだ、月照回天刀げっしょうかいてんとうだったか……?長いし回天でいいか。渡されたときにも思ったんだけど意外と軽いんだよなこれ。まぁ神様が用意した武器だし普通なわけないか。」


 そう言って腰部分に刀の鞘についている結紐で結ぶ。このやり方はネットで調べたのでなんとか形にはなっている。少し腰を回したり、その場でジャンプしてみたりと動いてみるが特に動きの妨げにはならないようなので、京介はそのままリュックを背負い扉の前に立つ。ドアノブのダイアルを確認すると1の位が3まで動かせるようになっていた。


「うん、神様にあの空間に連れていかれたから大丈夫か不安だったけど大丈夫そうだな。さて、行きますか。」


 京介は扉を開く。少しの間光に包まれると、次にはダンジョンの中であろう洞窟の中にいた。洞窟の見た目は2階層とあまり変わらないが、道幅がまた少し広がったような気がする。あと壁に生えていた苔のような植物が消え、変わりに洞窟の奥からそよ風程度の向かい風を感じる。


「なんかちょっと牧場っぽい匂いするけど……まぁそこまで臭くないしいいか。よし、行こう……【身体強化】!」


 腰の刀に手を置きながら洞窟内を走る。【身体強化】は前もって時間を指定せずに使用すると自分から発動状態を切らない限り魔力を消費し続けて発動することができることを知り、今後はこれで使用していくことにした。


「ん、モンスターの気配だな。さて、お前の試し切り一発目だ!」


 ダンジョン内を走っていると前方にモンスターの気配を感じた。数はひとつで、どうやらまたスライムのようだった。


「このダンジョンはスライムしか出ないのか?っと見えてきたな。ん、3階層のスライムは緑色なのか。」


 気配が近付いてきてくると、ダンジョンの道の真ん中に緑色のスライムがいるのが見えてきた。そのスライムは半透明の緑色で2階層にいたスライムよりも大きく感じる。


「うっし、ほんじゃまぁ回天の試し切りになってくれよっ!!!」


 京介は緑スライムに肉薄し、腰に下げた月照回天刀を抜き放ち居合切りの形で振るう。


「え、は?」


 一切、何の感触も無いことに京介は驚きスライムのいた場所を振り返る。そこには体を半分、斜めにずれ落ちながら光となって消えていく。空気を薙いだようにしか思えない感触に京介はことここに至っての凄さを思い知った。


「ちょちょちょ、ちょっと待て!いったん【身体強化】切って……えーと【鑑定】!」


 京介は月照回天刀を【鑑定】で見る。



―――――――――――――――――――――――


月照回天刀げっしょうかいてんとう

位階:SSS

状態:封印状態

所有者:朝谷京介


神々が力を封入せし紛うことなき神剣。

どれだけ切ろうと刃こぼれはせず切れ味も落ちない。

その刃は常に清潔に保たれ、穢れを知らない。

今はまだ封印されており、神剣の能力は扱うことができない。

この神剣を扱い、振るうことができるのは所有者のみである。


―――――――――――――――――――――――



「位階SSS?!ってか封印されててこんなに強いのかよ……」


 【鑑定】のスキルで見た月照回天刀には「SSS」の位階がつけられており、また完全な状態でないにも関わらずとてつもない切れ味を誇る、まさに神剣たる性能をしていた。


「いや、神様が作ったって聞いてはいたけど……これは他のダンジョンに持って行ったらまずくないか?」


 ただでさえ刀なんていう形で目立つというのに、これだけの性能を誇った武器ならば目をつけられてもおかしくはない。それ以前に銃刀法違反だ。


「ああいや、どっちにしろ探索者協会で扱う武器なんかの装備は登録しないといけないんだった……いっかい探索者協会に持って行って登録をして、でも絶対どこで手に入れたとか聞かれるよなぁ~…………はぁ。ん、緑スライムだからか?魔石も緑色だ。」


 京介は刀を鞘に納めて、あれこれ考えながら緑スライムから落ちた魔石を回収する。その魔石は緑色に染まっており、2階層の青スライムから手に入れた水属性の魔石と酷似していた。


「とりあえず【鑑定】。」



―――――――――――――――――――――――


風の魔石

位階:G


位階:Gにあたる風属性のモンスターの魔石。様々な素材として使用可。

また、魔力を込めることで風を生じさせることができる。


―――――――――――――――――――――――



「緑スライムは風属性か!んー、2階層からなんとなく考えてはいたけど、階層ごとの特徴みたいなのがモンスターにも表れてるのかな?2階層は壁に苔が生えてたりしてちょっと湿気ってた感じがしたし、3階層では常に風を感じる……他のダンジョンはわからないけど、ウチの扉のダンジョンは属性で分かれた階層みたいな感じなのかな。」


 この調子でいけば、4階層や5階層では違う属性のスライムと合うことになりそうだ。もちろん扉のダイアルを見る限り10階層や100階層では終わらなさそうだからスライムだけということはなさそうだ。


「ま、とりあえず今は先に進んでいこうか。回天も問題なくというか、めちゃくちゃ強いのが分かったしこのまま3階層は突っ切って早いとこ4階層目に行っちゃうか。【身体強化】でスピード上げれば1階層1時間で進めれそうだしな!」


 そう言って京介は、自身の身体に【身体強化】をかけてダンジョンの中を走って進んでいく。レベルアップの効果もあってか息切れすることは無くなり、バイト中にも以前は重たいと感じていた荷物も軽々運べるようになり、助かっていた。


「明日は休みだからガンガン行くぞー!」


 ダンジョンの中に京介の大声が響くのみだった。

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