第22話 一騎当千

「うおおおおおおおおお!!!」


「ルギャウゥ!ガァァァアァァッァァァ!!!」


 優しき光を放つ一人の戦士と、いまだひっきりなしに襲い掛かってくるゴブリンの軍勢。両者ともに一歩も引かずに互いを殺すことだけを考えて両の手を、足を動かしている。


「行かせるかっ!」


 京介がゴブリンキングと相対しているときに、その横を潜り抜けて村へと行こうとするホブゴブリンを咄嗟に【魔弾】で倒す。だがその隙を突いて今度はゴブリンキングが振り下ろしの威力の大きい攻撃を京介の頭目掛けて繰り出すが、横目でゴブリンキングの動きを見ていた京介は【魔手】で自分の体を引っ張り、ゴブリンキングの攻撃線上から避ける。


「グガガガガッ!【ルギャウルゥ】!」


 ゴブリンキングが何事かを唱えた後に背後にいたゴブリン達が総色気立つ。赤いオーラのようなものが立ち上るようになったゴブリン達は先程までとは違い、全員が京介目掛けて突撃してくる。


「なんだそれ!ここに来て全体バフかよ!」


 京介も負けじと【魔手】を唱え直し、【魔弾】の連射を止めない。更には【縮地】を使用してゴブリンキングの死角を常に捉え、【飛斬】で撃ち漏らしたゴブリン達を切り捨てる。


 既に戦いが始まってから2時間が経過した。夜は長いが、この異世界の時間が現実世界と同じかどうかは調べていないので不安が勝る。だが、そんなことを言っていられる余裕はないためとにかく目の前の敵を倒すことだけに集中していた。


「ウギャウ!ルガガ!」


 再度、ゴブリンの軍勢に命令を下すゴブリンキング。赤いオーラを纏ったゴブリン達の動きが更に変わり、森ゴブリンは猫獣人の村へ殺到するようになり、ホブゴブリンは京介に対して更に熾烈な攻撃を繰り出すようになった。どんどんと京介の行動に最適化されていく軍勢の動きとゴブリンキングに焦りを覚え始める京介は、それでも止まることを辞めず全ての敵を討ち滅ぼしていく。


 だが、波状攻撃の様にキリがなく幾度となくやってくるゴブリン達の勢いは熾烈を極め徐々に徐々にと柵の方向へ押し込まれていた。


「ぐっ!数が多すぎるだろ!あと何体倒せばいいってんだ!」


 京介が感知している敵の数ば減ったり増えたりと常に変動しており明確な数を把握することが出来ずにいた。


「このままじゃジリ貧か……!いや、ステータス!」


 京介はその場で垂直に勢いよく跳び上がり自身のステータスを確認する。




―――――――――――――――――――――――


名前 :朝谷京介あさたにきょうすけ

位階 :F

レベル:97

体力 :1830/1830

魔力 :692/1200


スキル

【取得経験値10倍】

【剣術:素戔嗚流 Lv.2/10】

【無属性魔術 Lv.4/5】

【心眼 Lv.2/3】

【鑑定 Lv.1/3】

【扉移動】


称号

【世界初の探索者】

【神剣覚醒者】

【階層主単独討伐】


―――――――――――――――――――――――




「これだ!」


 京介は自身のステータスを確認して唯一ともいえる希望を賭けてレベルが2つも上がった【無属性魔術】に意識を向ける。すると新たに使えるようになったが浮かんできた。


「これなら、!!!」


 京介は飛び上がった後の空中から、ゴブリンキングのいる地上へと落下しながら新たに覚えた無属性の魔術を発動する。


 その魔術の名は【黒星コラプス】。


 視認している範囲内に極小のブラックホールを発生させ約30秒間周囲の全てを吸い込み続けるという化け物じみた魔術だ。その分、消費する魔力は300とかなりの高燃費ではあるが威力には期待ができるだろう。


「全てを吸い込め!【黒星コラプス】!」


 ゴブリンキングの遥か後方、ぎりぎり村の柵が巻き込まれない程度の効果範囲を測って魔術を発動する。すると、ゴブリン達の蔓延る森のあった荒れ地の中に光の反射も何もなく夜の闇のなかでもはっきりと分かり、見ていると引き込まれそうになるほどの漆黒の球体が現れる。


「ゲギャ?」

「ギャ?」

「グルゥ?」


 突然現れた黒い球体の近くにいた森ゴブリンが疑問の鳴き声をあげる。だが瞬きもする間もなくその森ゴブリン達が


「ギャウ?!」


 近くで見ていたゴブリン達も、ゴブリンキングでさえもその光景に驚きを隠せなかった。


 地面から少しだけ空中に浮いていたはずの黒星の周辺が音もたてずに瓦解していき、渦を描くように全てをその漆黒に吸い込んでいく。その光景は確かに不気味であり驚異的ではあるが、ゴブリンキングが最もその現象に対して恐怖を感じたことは”音”だった。


「ギャウゥゥゥゥゥゥゥッ」

「グルゥゥゥゥゥゥゥッ」


 吸い込まれていく森ゴブリン達だが一定の距離まで黒星に吸い込まれながら近づくと一切の音が消えてしまうのだ。叫び声も、断末魔も、崩れる音も、何もかもが無音のまま吸い込まれて消えていく。それが何よりもゴブリンキングには恐ろしく思えた。


「グ、【グギャウ】!ガァ、ギュウグガァガァ!!!」


 まくしたてるように声を荒げて何かを命令するゴブリンキング。赤いオーラを纏っていたゴブリンの軍勢が今度は青いオーラを纏い始める。するとゴブリンの軍勢は揃って踵を返し、山側へと走り逃げていく。


「え?はぁ?!いまさら逃げんのかよ!」


 京介はせめてゴブリンキングだけはと思い、【魔弾】と【魔手】、【飛斬】を集中して放ち、【縮地】でゴブリンキングの前へと出る。だがゴブリンキングはそれこそ待っていたと言わんばかりにニヤリと笑い京介の攻撃の全てをその身で受けた。


 京介はその行動の意味が分からず驚いた拍子に勢いそのままに躓いて、転んでしまう。すぐに体制を整えてゴブリンキングへと向き合うが、そこには体を徐々に光に変えていく、死にゆく王の姿があった。その顔には恨みも怒りも無く、自身を置いて逃げていく同胞達のことを優し気に見送る顔が最後まで残り、魔石と謎の紙をドロップして消えていった。


「はぁ、はぁ……なんだったんだ最後のあれは……」


 そう言って森のあった方を見るとちょうど黒星の効果時間が切れ、漆黒の星が消えていくところだった。もともと森だった場所は京介の攻撃と黒星の効果によって跡形も無く消えており、後には耕されボコボコに荒れた地面と大きな窪地が残るだけだった。


 逃げていったゴブリン達の気配はとうに無く、倒したことでドロップした数えるのも億劫な数の魔石があたりに散らばるだけだった。そんな光景と、柵を乗り越えてこちらへと涙目で向かってくるケミーの姿を見て京介の意識は途絶えたのだった。

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