第23話 目覚め
「う、ん……ここ、は。」
うっすらと瞼を開き、差し込む光に顔をしかめる。未だ混濁した意識の中で、ぼやけた頭に浮かぶのは夜中の戦いだ。
「……っは!ゴブリンは?!」
頭に最後に浮かんだのは死にゆくゴブリンキングの顔。やり切ったかのような、あの顔を忘れられずにいる。
「アイツ……笑ってたんだよな。」
「京介さん?!よかった!目が覚めたんですね?目立った外傷はなかったんですけど、目を覚ます様子が無くて……村長も寝かせとけばいいって言って全然診てくれないしで……」
「あはは……心配かけてごめんね。でも大丈夫だよ。多分過労とかそんなとこだろうし……介抱してくれたの?ありがとう。」
猫耳をぺたんと畳んで少し涙目なケミーは相変わらず表情豊かで嬉しそうに笑ったり目を伏せながら心配したり、村長に怒ったりと忙しなく感情を露わにする。
そんなケミーの姿を見て、落ち着きを取り戻した京介は脳裏に浮かぶ昨夜の戦いのことを一旦忘れ、介抱してくれていたケミーへと無事であることを強調しながら感謝を述べる。
「京介さんはこの村を救ってくれた恩人様です!えへへ……また、救ってくれましたね。」
「恩人様はむず痒いんだけどなぁ……村に被害はない?大丈夫だったかな……結構派手に暴れちゃったし。」
「大丈夫ですよ!もともと柵とかも急拵えでしたからね。それに、私達手先が器用なので多少ならすぐ直せますよ!」
胸の前で拳を握り、自慢げに力説するケミーを見て京介はついつい笑みがこぼれる。それと同時に、ゴブリンの軍勢の残党がまた襲ってくるのではと不安にもなる。
「あの、ゴブリン達は……」
「はい、京介さんがゴブリンキングを倒してくれたおかげで軍勢は解散しました。しばらく周囲にゴブリン達は残るとは思いますけどほとんどのゴブリンはこの周辺からいなくなると思いますよ。」
「え、そうなの?こう敵討ちとかそういうのは……」
「う~ん、もっと強い魔物とかならあるかもですけどゴブリンでそういうのは聞いたことないです。多分村長に聞いても分からないと思いますよ?」
そう言ってケミーは桶に入った水に手拭いを浸してから一度絞り、京介の額へと乗せる。そこで京介は自身の体が思った以上に熱を保っていることに気が付いた。そのせいか汗ばんでいて背中がじんわりとしているようだ。
「俺……どれくらいここで寝てた?」
「え?う~ん、戦ってたのが夜中なのでそこからだと多分丸1日くらいにはなると思いますよ?」
「え”」
丸1日ということは今の日付は12月31日ということ。しかも外はすでに陽が沈む頃なのか、窓辺から夕陽が差し込んでいるようだ。
つまり、明日には探索者協会が一般開放され、その上国内に存在する津々浦々の扉に入れるようになるということだ。
「じゅ、準備!てか東雲さんに連絡しないと!あ”ぁ~やっばい!完全に寝すぎた!」
「ちょ、ちょっと京介さん?!大丈夫ですか?!急にそんな取り乱したら危ないですってば!」
寝台の上で急に頭を抱えて身悶えしだした京介に驚きながらも、なんとか落ち着かせようとあたふたするケミー。ふたりのやり取りはそのあともまだ少しの間続くのだった。
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[──12月31日 18:00 東雲沙友里の部屋]
prrrrrrr prrrrrrr お掛けになった電話番号は 現在 ――――
「う~ん……出ない。」
自分の部屋で沙友里は、明日から始まる探索者としてのスタートを楽しみに、入念な準備をしていた。そこで、一緒に行く約束をしていた京介にどこで待ち合わせをするかなどの話をするために電話を掛けたのだが、5度目になる今回も電話に出ることは無かった。
「アイツ何してんだ?アタシからの電話を無視とは……用事があるとは聞いてないけどなんか忙しそうにしてたしなぁ……」
そう言ってベットの上でごろりと体勢を変えて仰向けになる。目の前に出ている自身のステータスを見ながら、明日の探索者デビューに思いを馳せる沙友里。
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名前 :
位階 :G
レベル:1
体力 :150/150
魔力 :100/100
スキル
【槍術 Lv.1/10】
【体術 Lv.1/10】
【光属性魔術 Lv.1/5】
【先見 Lv.1/3】
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「つぇーのかなこれって……」
自身のステータスを見て、内容にピンと来ていない沙友里。ゲームや漫画だと【光属性魔術】は勇者や聖女の持つ特別な物というイメージだが、自分がなぜそれを得ているのかてんで心当たりはない。だが、スキルに関しては持っていて損はないだろうし、今後増えるのか分からないが減ることは無いだろうと思い、明日の楽しみの一つとして置いておくのだった。
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あとがき
阿吽です。
とりあえずここまでで第一章として、次からは現実世界の話多めの第二章が開幕する予定です。今以上に多様なキャラクターをお出しする予定なので何卒長い目でご愛顧頂ければなと思います。
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