第2章

第24話 あけましておめでとう

[──1月1日 10:00  探索者協会東京本部]


「では!これより日本全土に点在している異世界へと通ずる”扉”の一般開放をここに宣言いたします!探索者となられた皆様は、まずご自身の身の安全を第一に考えて行動するように!」


 多くのテレビカメラに囲まれ、過去類を見ない程のカメラのフラッシュに包まれながら、壇上の本場夷蔵が毅然とした態度で宣言を行う。


 今この場にいる探索者達も、この宣言の中継を見ているであろう他の探索者協会にいる探索者達もその宣言を聞き届けて、大きな雄叫びを上げた。


 以前より注目度としてはトップにあった扉と探索者協会の動向だったが、今日からは探索者自身にも注目が集まることになる。多様な世界観を持つ扉の中の異空間は敵対する生物がいる一方で多くの資源を有している。もしこれらが尽きることの無い物であれば他国に頼りきりだった資源や、国内生産に役立つ物が手に入るようになるということだ。ただ、まだ始まったばかりの事なので、国としても及び腰にならざるを得ないのが本音ではある。


「おっし、そんじゃアタシ達も行くか?」


 京介の隣にいた東雲が背中に背負ったかなり長い木の棒を揺らしながら、肩を突いてくる。動きやすい恰好を意識したのかド〇キに売っているようなヤンキージャージを着ているその姿は、東雲の見た目と比べるとギャップが強すぎる気もするが京介には慣れた姿だった。


「そうですね。今日はここの扉に入ってスキルとか色々試してみましょうか。」


「おう!いやぁー、ステータスが見えるようになってから超気になってたから早く試してみたかったんだよな!」


 そう言って東雲は宙を見つめる。おそらく自分のステータスを見ているのだろう。

 

 京介も自分のステータスを呼び出して確認をする。






―――――――――――――――――――――――


名前 :朝谷京介あさたにきょうすけ

位階 :F

レベル:97

体力 :1830/1830

魔力 :692/1200


スキル

【取得経験値10倍】

【剣術:素戔嗚流 Lv.3/10】

【無属性魔術 Lv.4/5】

【心眼 Lv.2/3】

【鑑定 Lv.1/3】

【扉移動】


称号

【世界初の探索者】

【神剣覚醒者】

【階層主単独討伐】


―――――――――――――――――――――――




 こうして見るととんでもない成長をしてしまったのでは?と考えるが、時すでに遅しと後悔するべきか、備えあれば憂いなしと喜ぶべきか分からない現状だ。


 「おい!置いてくぞー!」


 人の流れの向かう方で東雲が手を振って京介のことを呼ぶ。その東雲の顔はこれからの冒険に心の底から喜んでいるように見えた。


 「すみません!すぐ行きます!」


 駆け足で東雲の隣まで行き、そこでふと持ち物に気付く。


 「てんちょ……東雲さんは荷物それだけですか?」


 東雲が身につけていたのは、腰に着けたウエストポーチと背中に背負った背丈程のやや黒みがかった木の棒だけだった。対して京介は、動きを阻害しない程度の大きさのリュックサックに木刀を帯刀している。


「ん?あぁ、別に今日で探索し尽くす訳じゃないんだし応急手当の道具と武器だけ持ってきた!京介はなんか木刀以外はバイトのときとあんま変わんねぇな?」


「あ~、なんか普段使いしてるんでリュックサックが一番しっくりくるんですよね。物も結構入りますし最悪盾みたいに使えるかなって。」


 京介の背負っているリュックサックは自宅のダンジョンで使っているものではなく、本日用に用意したスポーツタイプの軽めのリュックサックだ。もちろんダンジョン協会で購入したものだ。


「お、そろそろ順番じゃないか?」


 そう言って少し背伸びをして前を見る東雲。見た目が超絶清楚美少女なのでその一挙一動に周りの男達が目を奪われる。京介は、「でも中身はヤンキーなんだよなぁ……」という声をなんとか飲み込んでいた。


「次の方こちらに!」


 扉の脇で、入場整理をしていたダンジョン協会の人が京介たちを呼ぶ。


「扉に入る前に、まず探索者カードをお出しください。今回は我々ダンジョン協会の者がおりますが、今後は全ての扉前に改札を設けさせていただき、皆様がお持ちの探索者カードを入る際に提示していただくことになります。」


 要するに、今後の扉への入退は駅の改札のような感じになるということだった。常に協会の人員を全国の扉に置くことは難しい上に、一人一人確認して記録するのは大変な労力がかかるため今回のような形で入退を管理することにしたのだろう。そもそも扉に入った先では全てが自己責任であり、月日を重ねていくうちに様々な問題や犯罪等が増えていくことだろう。だがその対策をとるのは国の仕事ではあるので、新しく法律やら縛りやらが増えるまでは自由にやっていこうというのが京介の考えだった。


 京介と東雲は以前に協会で発行してもらった探索者カードを機械に通して緑色のランプが点るのを見てカードをしまった。


「はい、これでお二人の入場が記録されました。扉の中では全て自己責任であり、生死の確認が取れるかもわからない状況です。未だ謎の多い場所ですのでくれぐれも注意してお進みください。」


 ダンジョン協会の人が手で扉の方向を指しながら注意事項を述べる。京介は軽く頭を下げ、東雲と横並びになって扉をくぐる。一瞬の光に包まれた後、最初に感じたのは喧騒、それからすぐ隣にいる東雲の肩の感触だった。

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世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。 阿吽 @aunnkunn

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