第16話 第一現地人
「助けてくれてありがとうございますです恩人様!私、
怪我の手当てをしながらネコミミ美少女が自己紹介をしてくれる。彼女はケミーという名前で、なんと猫獣人!ネコミミは本物だし、腰からは尻尾が生えていた。さらに話を聞くと、薬草を取るために森の浅いところで採取していると運悪く森ゴブリンの哨戒に見つかってしまい、狼煙の見えたここなら誰かいるのではという考えからなんとかここまで逃げてきたそうだった。
「恩人様が助けてくれなかったら死んじゃうところでした……本当にありがとうございますです!」
「いや、間に合ってよかったよ本当に……あ、ごめんまだ自己紹介してなかったよね。俺は朝谷京介っていう名前で、その、恩人様なんて呼ばなくていいから……」
頬を掻きながら照れたように返す京介。命を助けたからか、猫獣人のケミーは京介に対して既に全幅の信頼を寄せているようで、人懐こい笑顔で京介のことを見ている。
「恩人様は冒険者さんなんです?」
「冒険者……?いや探索者なんだけど……」
「探索者……?恩人様は何か、探してるんです?」
ケミーは不思議そうな顔をしてこてんと首を傾げる。京介はその様子に違和感を覚えケミーにいくつか質問をする。
「あ~、その世界を探索する人みたいに思ってもらえればいいんだけど……そうだ、ケミーはこの世界についてどれくらい知ってる?」
「どれくらいですか?う~ん、まずこの世界?っていうのは『フレクスガルド』のことです?私たちが今いるのは中央大陸の西方、『ヴァ―リー王国』の国境に近い場所です!そういえば京介様はどちらからいらっしゃったんです?」
「俺は一応、日本からってことになるんだけど……しらないよね?」
京介はケミーの話を聞いているうちに、この世界はただのダンジョンではなく実在している世界なのではないかと考え始めていた。世界の名前や大陸の存在、国が存在していることから、ダンジョンの階層にしては設定のようなものがあまりにも大きく、次の階層に繋がる階段を見つけるにも一筋縄ではいかないだろうと考えていた。
「ニホンですか?う~ん、ごめんなさい聞いたことがないです……でもでも!大きな街とか、それこそ王都に行けば知ってる人がいるかもです!」
「王都か……うん、とりあえずそこを目指してみるよ。ありがとうね、ケミー。」
「いえ!恩人様のお役に立てたならなによりです!」
そう言ってケミーは天真爛漫に笑って見せる。京介はそんな無邪気なケミーを見てふと思い出す。
「そういえばケミーは村に住んでるんだっけ?時間とか大丈夫?」
「はっ!そうでした!はやく薬草を持って帰らないとでした!」
「そ、そっか。まぁまだこの辺にいると思うからさ、何かあったらまた来てよ。」
「ありがとうございますです!京介様、それではです!」
そう言ってケミーは平原の奥、丘の向こうに走っていった。京介はそんなケミーの後姿を見送った後、倒した森ゴブリンの魔石を拾いテントに入り座り込む。リュックからメモ帳を取り出しケミーから聞いた内容を書く。
「ただのダンジョンだと思ったけど……かなり雲行きが怪しくなってきたなぁ。」
世界『フレクスガルド』、中央大陸、『ヴァーリー王国』、獣人……
およそ日本、ないし地球では聞かない名前に京介は、この世界がただダンジョンのために作られた空間などではなく、元々存在していた全く別の世界であり、そこに京介の部屋に現れた扉が繋がっているのではないかと考え始めた。
「はぁー……ただそんな扉がなんで俺の部屋にあるのかってことだよなぁ。」
最初はただスライムの出てくる洞窟に繋がる階層型のダンジョンだと思っていたが、急な広がりを見せるダンジョンに驚きを通り越して呆れのようなものが出てくる。神様たちはなにを思ってこの世界に京介の部屋の扉をつなげたのか。
「まぁただの人間が神様について考えても意味ないか。よし、今日はこの辺にして帰るか。」
そう言ってテントの外に出る京介は、仮拠点の様子を一通り確認した後【扉移動】を使って自分の部屋に帰る。急に狭い部屋へと帰ってきたので、京介は少しムッとした後、汗を流しに風呂へ入るのだった。
―――――――――――――――――――――――
[── ???]
「うんうん!彼は無事にたどり着けたみたいだね!」
「そうですね~。最初にこちらの世界に繋げると聞いたときは耳を疑いましたが~。」
真っ白な大理石で作られた荘厳な城の中。大きな水面に映る1人の男の姿を見る2人の人影があった。2人は紅茶を嗜みながら、水面に移る映像を楽しんでいた。
「お、なるほど仮拠点を作ってまずは周りの探索かな?彼は結構慎重なタイプなのかなぁ?」
「う~ん、どちらかといえばこの世界のことをまだ十分に理解していないのだと思いますよ~?彼もまさか自分の部屋の扉が別の世界に繋がっているなんて思ってないんじゃないですか~?」
「あはは、そりゃまぁ知らないだろうさ。なんせあの扉のことは向こうの神々にも教えてないんだからね!」
そう言って少年のような見た目をした人物がけらけらと笑う。子供のような見た目ではあるがその身から発せられるオーラのようなものがとても強く、一目見ただけでただものではないことが分かる。
「も~、彼に渡すためのスキルを用意するのに私がどれだけ大変だったか~……」
「あはは、でもその分休暇は上げただろう?それに君には便利な分体がいくつもあるじゃないか。向こうの神々に説明したり、国の偉い人間に説明しに行ったりしたのも分体なんだろう?」
「と、いうか~私の権限じゃ向こうの世界に行けませんから~」
そう言って3対6翼の白翼を持つ女性は紅茶を一飲みする。その顔には面倒事に巻き込むなとわかりやすく書いてあった。
「さて、彼が私の世界でどんな姿を見せてくれるのか……楽しみだね。」
少年は悪戯っぽい顔でにんまりと笑うのだった。
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