第10話 5階層への階段
「ふぅー、さすがに汗ばんできたな。水も少なくなってきたし……あ、水の魔石使ってみるか!」
京介は水の魔石をリュックからひとつ取り出し、【鑑定】に書いてあった通りならば魔力を込めることで真水が出るようなので、水を飲み切ったペットボトルを用意してその上で水の魔石を持ち魔力を込めていく。すると魔力を5込めたところで魔石が溶けるように水が流れ始める。ペットボトルの中に水がたまり、京介が持っていた魔石が消えたころには500mlのペットボトルが満杯になっていた。
「へぇ、Gの水の魔石一個で500mlなのかな?真水だって書いてあったしこのまま飲んでみるか。」
そう言って京介は魔石製の水を口に含み、一思いに飲み込む。とてもよく澄んだ水で飲みやすく、適度に冷えているため体の暑さを払拭してくれる。続けざまに水を飲み、半分ほどを飲んだところでペットボトルから口を離した。
「ぷはっ!意外に美味いなぁ~。これなら水の魔石を集めてリュックに入れておけばいつでも水を用意できるな!」
京介は水の魔石の有用性に気付き、この攻略が終わったあと2階層に行って水の魔石を集めることを決めた。
「そうと決まればこの階層もはやいとこ終わらせるか!」
京介は【身体強化】をかけなおし走り始める。時間を確認すれば4階層に潜って40分ほどになる頃だった。ダンジョンに潜り始めてから約2時間で、過去最長だ。明日が休みなのもあるが、回天の強さや魔石の有用性を知った京介がダンジョン攻略に今まで以上に乗り気になったことからくる時間だった。今までの人生で、ここまで京介が何かにのめりこむことは無く、ここにきて初めて京介は趣味と呼べるようなものが出来たのであった。
少し進むと、モンスターがいる気配を感知する。
「ん、今度は3体か……試してみるか、【魔手】!」
京介は【無属性魔術】の【魔手】を発動する。京介の前面に目には見えない手が現れ、京介の思いのままに動く。3体いる赤スライムのうち、両脇にいる2体を地面に押さえつける。【魔手】にどれくらいの力や耐久力があるのか試していなかったが、どうやらスライムを押さえつけておける程度には力があるようだった。いきなり上から体を押さえつけられたことに驚いたのか赤スライムたちは左右にプルプルと揺れて逃れようとするが、【魔手】ががっちりと掴み込んでいるので容易に抜け出すことはできない。
「先頭の1体を回天で!残りの2体はそのまま【魔手】でいけるか?」
抑え込んでいない赤スライムを回天で切り裂く。【魔手】によって抑え込まれている赤スライム2体は【魔手】でそのまま地面へと押し付ける力を増していき、赤スライムの身体がだいたい10cmを切ったところで核が圧力で割れ、光となって倒れてしまった。
「【魔手】は力を籠めるだけなら素手よりも力が出るな。抑え込むのも楽だったし、今度は持ったり殴ったりと色々試してみようかな。」
赤スライムの魔石を拾いながら【魔手】の使い方を考える京介。いざとなれば自分自身を掴んで、急な回避に使ったり足場に使ったりと様々な機転を利かせられそうだった。
「よし、このまま4階層を突っ切って5階層を目指そう!」
魔石をしまい終わった京介は少し伸びをして、また走り出した。だんだん気配を掴む感覚にも慣れ、回天の握りや振り方、最近は走り方にも気を使い足腰の負担に気を付けるようになった。
「お、壁だ。やっと4階層も終わりか……次の階層は何の属性のスライムなんだろうな。」
そんなことを考えながら4階層奥の壁に近付く。するといつものように壁の一部が消え、次の階層に続く階段が現れた。京介は、一度大きく深呼吸をすると5階層へ続く階段を降りていく。京介の足取りは軽かった。
―――――――――――――――――――――――
[──12月28日 18:00 東雲家 客間]
「ふぅむ……本場ほどの者が言うであれば嘘ではないのだろうな。」
「もちろんでございます。それに今はもう職を辞した身であります故、東雲家御当主様にお目通り致しましたことに関しましては……」
絢爛ではあれど過度な物は何一つとしてない、調和のとれた美しい客間にて2人の男が話をしていた。
ひとりは探索者協会東京本部の代表にして元陸軍陸将の本場夷蔵。巌のような身体に歴戦の戦士を思わせる相貌は、齢60とは思えぬほどの圧を放っている。
しかし、そんな本場でさえ頭を下げる相手。それこそは東雲家当主にしてあの「東雲沙友里」の実の父である
「わかっておる……。しかしあの出来損ないがな……家を出てどこぞで放蕩しておるかと思っとったがまさか探索者になるとは。」
「はっ、こちらで調べましたところ現在はコンビニエンスストアにて店長を請け負っており、前日探索者として登録しました。その際のステータスがこちらとなっております。」
そう言って本場は一枚の書類を取り出す。そこには調べ上げた東雲沙友里に関する情報と、探索者として登録した際に記入したステータスの内容がまとめられていた。
「ふん、愛人の子にしては能力はあったが人一倍生意気な性格でな。つけてやった婚約者が気に入らぬと言って出ていきおった不出来な娘じゃ。野垂れ死んでおれば墓くらいは作ってやるつもりじゃったが、まさか探索者としての素養があったとはな。」
「本人は自身の能力についてはよく分かっておらぬようでしたが、我々といたしましては、その高い能力を鑑みて探索者筆頭、旗印のような者に担ぎ上げたいと考えております。」
「ふん、好きにせぇ。だがある程度育ったところでワシのもとへ戻すぞ。今まで好きに生かしてやったのじゃ。いい加減東雲家に奉公してもらわねばな。」
そういってソファーの上で鋭い眼を細め顎を撫でる東雲大悟郎。頭の中では東雲沙友里が戻った後の有効活用について策略を巡らせていた。
本場は許可をもらったことに感謝の意を込め、深々と頭を下げる。しかし、大悟郎から見えない位置でその顔は相手のことを侮蔑したかのように大きく歪められていたのだった。
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