第11話 5階層は謎の大部屋

「ここが、5階層?」


 4階層の攻略を終えた京介は、現れた次の階層へつながる階段を降り5階層へと辿り着いた。いつも通りの洞窟のような作りに違いはないのだが、変わっていたことは通路ではなく大きな広い空間になっていたことだった。京介の降りてきた階段の位置からでも反対側の階段は確認できるのだが、それよりも手前。大きな部屋のちょうど中央の位置になにか黒い光沢を持った台座のようなものがあることに気が付いた。


「休憩部屋……?いやでもそんな感じの空間じゃないしなぁ。これがなんか関係あるんだろうけど……台座なのかな?」


 京介は辺りを見回しながら、大きな空間の中央にある黒い台座のようなものに近付いた。黒く光沢のある綺麗な五角柱の台座の天辺には意味ありげなくぼみが3つ空いている。


「くぼみ……3つ……あっ?」


 京介は5階層に到達するまでの道のりを思い出す。2階層から4階層にかけて出てきた属性付きのスライムと魔石、そして5階層の空間にある3つのくぼみのある台座。京介はリュックの魔石用の袋に入れていた今までに集めてきた魔石から、各属性水・風・火の魔石をひとつずつ取り出した。


「俺の考えがあってればこれで……!うおっ?!」


 京介が台座のくぼみへ3つの魔石を入れると台座が光を放ち始める。京介は驚いて台座から離れる。入ってきた階段のあたりまで離れると、京介の眼前にステータスがでてくるのと同じような状態でウインドウが出てくる。



―――――――――――――――――――――――


 3属性の魔石を感知致しました。


 初回の挑戦を確認。


 特殊条件を達成。


 5階層の階層BOSS(特殊)を召喚しますか?


        はい / いいえ


―――――――――――――――――――――――



「特殊条件……?初回なのは分かるけど特殊……あ!もしかして属性なしの魔石でもよかったのか?」


 つまり、京介は3つのくぼみを5階層までに手に入れた属性付きの魔石のことだと考えていたが、そうではなくなだけであって属性付きじゃなければいけないということではなかったようだ。


「ちょ、一旦いいえで!えー、どうしようかな……特殊は気になるけど絶対強いよな?た、倒せるか?いや、回天とか【身体強化】とか多分全部使えば行けなくはない……か?あぁ~比較対象がないからマジでわからん!」


 レベルもあり、スキルも武器も神様にもらった特別なもので強いこともわかっている。だが、ボスモンスターの強さも分からない上、自身が探索者としてどれくらい強さなのかを自覚できていない京介は台座の前で右往左往しながら迷っていた。


「い、一旦属性無しの魔石のやつを見てみるか……」


 そう言って属性のついていない1階層で手に入れた魔石を3つ取り出し、台座のくぼみに嵌め込む。すると先ほど同様台座は光を放ち、京介の前にウインドウが表示される。



―――――――――――――――――――――――


 魔石を感知致しました。


 初回の挑戦を確認。


 5階層の階層BOSSを召喚しますか?


        はい / いいえ


―――――――――――――――――――――――



「あぁ~、なるほどな。こうなるのか……」


 先ほどのウインドウの内容とは違い今度は普通の内容が表示された。京介の考えた通り、属性付きの魔石をくぼみに入れることが特殊条件へと変わるトリガーだったようだ。京介はウインドウに対していいえを選ぶ。


「う~ん……でもやっぱり特殊って付くと気になるよなぁ~!うん、よし!最初のボス挑戦なんだし特殊のほうで頑張ってみよう!」


 京介はさきほどの属性付き魔石三種を台座のくぼみへ嵌め込む。すると最初に出てきたウインドウと同じ特殊条件を満たした内容が出てくる。


「ふぅー……よし!」


 京介は出てきたウインドウの「はい」に指を合わせ、押す。


 すると、台座は魔石と共に光に包まれ空中へと霧散していく。その後すぐに台座のあった場所へ光が集まっていく。それはモンスターが倒れた後に散らす光の逆再生のように集まっていき、やがて形を成す。


 光の収まった後、そこにいたのは1体のだった。


 ただ、今までのスライムと違ったのは体色が黒いことと、


「でっっっっかくねぇ……?」


 京介の背丈をゆうに超える大きさであることだった。


「ピギィィィィィィィ!!!」


 相変わらずどこから発しているのか謎の発声が大部屋を揺らす。それほどまでの大音量、そして身体の芯を震わす低音に京介は愕然とする。


「ちょっ!マズい!」


 ドガンッッッ!


 黒スライムは身体からを伸ばし京介目掛けて振り下ろす。京介は触手を避けるために立っている場所から右側へ飛び、転がりながら着地することでなんとか避けることに成功する。だが京介の立っていた地面が触手の衝撃によって抉れているのを見て頬が引き攣る。


「いきなりかよ!くっ【身体強化】!それから【魔弾】!」


 京介は黒スライムの触手が浮かび上がりこちらへとまた向けられるのを見て急いで立ち上がり、【身体強化】を発動しながら走り始める。そのまま回天を抜き、空いている左手で追ってくる触手へ【魔弾】を放つ。


「当たっ…っても再生すんのかよ!じゃあ【飛斬】!っと【魔弾】だ!」


 走りながら後方を確認すると、触手に当たった【魔弾】と弾け飛んだ触手が見えるがすぐに再生されてしまっていた。それを見た京介は黒スライムの本体に【飛斬】と【魔弾】を飛ばす。黒スライムの巨体はどうやら鈍重なようでわずかに体を揺らす程度にしか動かず、京介の攻撃をまともに食らってしまう。


「ビギュゥゥゥゥ!」


 黒スライムは痛みに悶えるように叫ぶ。【飛斬】が当たった部分は大きく切り裂かれ、【魔弾】の当たった部分はくり抜かれたように表面部分が弾け飛んでいた。だがそんな傷など無かったかのように再生が始まる。だが、京介の与えたダメージは無駄では無かったようで黒スライムの大きさが少しだけ減っているように見えた。


「よしっ、本体への攻撃は有効みたいだ!っておわっ?!触手増えてんだけど!」


 京介が黒スライムの本体にできた傷を見ていると、京介を追っていた触手の本数が2本から4本に増えていた。それも先ほどよりも幾分か速度が上がっているように見える。


「っ!右か!」


 【心眼】が発動し、京介の死角から迫っていた触手の1本をなんとか避ける。京介の脇をスレスレで通り過ぎる触手からはごうっと空気を薙ぐ音が聞こえ、京介は冷や汗をかく。


「出し惜しみとかしてる暇ないな!【魔纏い】に【魔手】!」


 1度だけどんな攻撃も防いでくれる【魔纏い】と見えざる手を生み出す【魔手】を発動する。京介の身体を紫色の魔力の粒子が包み、京介だけが感じ取れる見えざる【魔手】が前方に現れた。


「とりあえず攻撃は一回なら防げる!この間に叩く!」


 黒スライムから少し離れた周囲を走っていた京介は触手が再度攻撃をしてきた隙を突いて本体へと肉薄する。


「【魔弾】!と【飛斬】連発だっ!」


 京介は黒スライムへ0距離で【魔弾】を打ち込み、さらに回天自体で黒スライムを何度も切りつけながらその刃から【飛斬】を叩きつけるように直接打ち込む。京介の身体が黒スライムの体に入り込むほど肉体を削っていると【心眼】による殺気の感知を背後から感じる。


「そう来るよなぁ!読めてんだよっ!!!」


 そう言って京介は自身を護るように背後に【魔手】の両手を移動させ4本の触手を2本ずつ掴み取る。これで黒スライムが新たに触手を出さない限り邪魔されることは無いと考えた上での京介の作戦だった。


「オラオラオラオラァッ!」


 回天による連撃と【飛斬】のラッシュを黒スライムの内部へ直接叩き込む。やがて京介の身体が完全に黒スライムの体内へと埋まり込むほどに削ったときだった。


「っ?!他のスライムにもあった核か!」


 外からは見えなかった黒スライムの核が見えてきた。その大きさはもともとのスライム達ほどの大きさで、黒スライムの体内で不気味に佇んでいた。京介は黒スライムにとどめを刺さんとするため核へ狙いを定め回天の柄の底の部分へ全力の掌底を打ち込む。


「ビギュギュギュギュギュッ!!!」


 京介の手のひらに確かに感じる硬い物を砕く感覚。頭を上げると回天は黒スライムの核へと突き刺さり、砕いていた。


「やっ……た。」


 次の瞬間、黒スライムの体は全て光へと変わり散っていく。戦闘の緊張感が解けるのと同時に、京介の身体を途轍もない全能感が満たす。今まで以上の経験値を得たのであろう急激なレベルアップによるものだった。


「っあ”ぁぁぁ~……疲れた。」


 身体の疲れはレベルアップ時に消えていたが精神的な疲れは払拭されないようで、京介はその場にへたり込む。回天を鞘へ入れ、リュックから水を取り出し飲んで一息つく。すると、京介の目の前に光が集まり段々と四角く形を成していく。やがて光が消え、そこに現れたのは黒い光沢のある台座と同じ材質のような箱だった。


「……あ、黒い台座【鑑定】すればよかったな。」


 京介の頭はまだ十分には休まっていなかった。

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