第5話 とんでも美女からのお願い

「ここって……初めて扉に入ったときに来た空間か?」


「ぴんぽんぴんぽ~ん、大正解です~!」


「うわぁっ!」


 京介は驚いて声のした後ろを向くと、絶世というのも憚られるほどに隔絶した美女がいた。頭の上に光輪を携え、背には3対6枚の翼を生やすその美女は聞いたことのある声をしていた。


「うぇっとぉ……の?」


「そ~ですよ~。覚えていてくれたんですねぇ~?」


 ふわふわと飛ぶというよりも浮かんでいるような状態の美女は、ゆっくりと降り立つとにぱっと笑って京介の手を取る。


「京介さん!実は神様たちから伝言を預かっておりましてぇ~」


「えっ?あっはい……」


 急に美女に手を握られて思考停止で頷き返してしまう。本人にあまり対人耐性がないこともあるがこれだけの美女に近付かれ、そのうえ手を握られてしまい京介の思考回路は簡単に吹き飛んでいた。


「えっと~、立ったままなのはあれなので~。え~、ほいほいっと~……はい!京介さんもこちらにどうぞ~。」


 美女は中空を少し見たかと思うと、何もなかったはずの真っ白な空間に木造のイスとテーブルが出現していた。京介は促されたまま椅子へと座り、その対面に美女が座る。


「実はですね~、京介さんにど~してもお願いしたいことがありまして~」


 申し訳なさそうに眉を曲げる美女。京介はそんな顔を「困り顔でも美人なんだなぁ」などと思っていた。


「以前に~、京介さんは神様たちに気に入られたということをお話ししたかと思うのですが~……京介さんに興味が集中されすぎていて~、神のお仕事が滞っているといいますか~……ぶっちゃけると日本の神界がマズイことになりそうでして~」


「は、はぁ……え、それ大丈夫なんですか?」


「このまま今の状態が続いてしまうと~、日本が最悪消えてしまうかも~なんて~……」


「えぇ?!どっ、どどうすれば?!」


 美女に見惚れていたが、日本が消えると聞こえて思わず我に返る京介。いきなりのとんでも発言に加えて、その原因が自分だと言われることに大きな戸惑いが起こる。


「でも、どうすればいいんですか?もうダンジョンに潜らない方が……?」


「いえいえ~、ダンジョンにはぜひこれからも潜ってください~。実は問題なのは~、京介さんがご自宅にある扉にだけ入ってることなんです~。」


「んん?」


 どういうことだろうかと京介は首をかしげる。確かに今、日本どころか世界中の観光地に扉が現れている中で、自分の部屋に扉が出現していることは特殊な状況だろう

。だがそれだけで神様のお仕事が止まるほど注目が集まるものだろうか?


「実は~探索者になった方々はダンジョン内でだけ~神様に見られてるんです~」


「見ら……えっ?」


「神様たちの新しい娯楽の一つみたいに~なっちゃいまして~」


「あ、ダンジョンに入ってるのがいまのところ自分しかいないから……?」


「あ、いえいえ~入ってる方はほかにもいらっしゃるんですけど~」


 京介は自分だけ特別だと考えていたが、最初に扉に入っただけということを知り俯きがちに黙る。


「まぁ諸事情ありまして~……ただ京介さんにそのこと?でちょ~っとお願いがございまして~」


「あぁはい。なんでしょうか……」


「報酬は先払いでご用意しますので~、京介さんには~他の扉にもたくさん入っていただきたいんです~」


「ん?自分がダンジョンに入っているから神様たちがって話では……?」


 確かさっきの話ではそうなっていたはずだが……?


「京介さんにもわかりやすいように~お話ししますと~、扉のことは~テレビのチャンネルだと思ってください~」


「テレビのチャンネル?」


「はい~、そして神様はそのチャンネルを見るためには~、そのチャンネルを持っている神様のところへ行かなくてはならないんです~」


「あぁ~、まぁなんとなくわかりました。現状だと自分の部屋に現れた扉ばかり神様が見ちゃってる?感じなんですかね。」


 まぁ要するに神様に人気な配信者みたいなかんじなんだろうと京介は考えた。そしてその配信を見るために神様が1か所に集まりすぎていて、仕事が滞っているということなんだろうか。確かによくない状況に思える。


「でも自分まだ探索者協会に応募しただけで、他の扉に潜れるのかはまだ……」


「あ~、そのへんは大丈夫ですよ~。神様ぱわーでちょちょいのちょいですから~」


「なるほど……頑張ります。」


 神様パワー恐るべし。


「それじゃ~、先ほどお話した報酬をお支払いしちゃいますね~」


「あ、はい。でももうかなりいいスキルをいただいているんですが……」


「今回の報酬は~移動系のスキルと~、武器のお渡しになりますね~」


「え”」


「それ~!」


 美女がかけ声とともに手のひらを京介に向ける。すると、その手のひらからキラキラとしたなにかが発せられ、京介の体の中に吸い込まれていく。特に何か体に異変が出ることなくキラキラはすべて京介の体の中へと入りると、頭の中に声が聞こえる。


『スキル【扉移動】を入手しました』


「おおう?!」


急に聞こえた声に驚きつつも、その声は目の前の美女に酷似していて思わず顔を見つめてしまう。すると美女は人差し指を口の前に立てながら「しーっ」とウインクをした。


「そしてこれが京介さんにお渡しする武器の~、え~っと、名前名前……あ~、『月照回天刀げっしょうかいてんとう』?だそうですよ~」


 そういって何もない空中から一振りの刀が現れる。それはとても美しい波紋をもった、引き込まれるほどの美しさを持った刀だった。


「いや~、それにしても京介さんはすごいですね~」


「えっ?いや、刀に関してはなにも身に覚えがないんですけど……」


「いえいえ~、この刀は京介さんの為だけに~神様たちが作成された~神剣なんですよ~」


「えぇぇぇぇ?!?!」


 俺のために作った神剣?!?!?!?


 あまりの爆弾発言につい大声を上げてしまう。


「そ~ですよ~、最初は~普通に丈夫なだけの刀だったんですけども~、神様たちがこの刀に力を込めてくださって~、気が付いたら神剣になってしまったんですよね~」


「しまったんですよね~って…………えぇ。」


 意外とノリが軽いのか神様って……ってそういえばつまらないからって現代にダンジョン作っちゃう方達だったわ……


「まぁまぁ~、強くなる分には悪いことではありませんから~。それでは、はいっ。刀の鞘は私からのプレゼントですよ~。え~と、これにてお願いと報酬のお渡しは完了です~。それでは~、探索者として~これからも頑張ってくださいね~。」


「あ、はい!ありがとうございました!神様たちにも感謝をお伝えください!」


「うふふ~、は~い。それでは~……」


 だんだんと蜃気楼のように美女の姿が揺らめき薄れていき、完全に消えてしまった。任されたことはしっかりと覚えているし、なにより手の中で握られている刀の重みと感触が現実で起きた出来事であることを雄弁に語っていた。


「あ、ステータス……」



―――――――――――――――――――――――


名前 :朝谷京介

位階 :G

レベル:35

体力 :700/700

魔力 :490/490


スキル

【取得経験値10倍】

【剣術:素戔嗚流 Lv.1/10】

【無属性魔術Lv.1/5】

【心眼Lv.1/3】

【鑑定Lv.1/3】

【扉移動】


称号

【世界初の探索者】【神剣保持者】


―――――――――――――――――――――――



「うわ~称号も増えてるし、マジで人には見せられなくなってきたなぁ。はぁ、どれどれ。」


 京介はステータスの新しい【扉移動】と【神剣保持者】に触れる。



―――――――――――――――――――――――


【扉移動】

 自身が入ったことのある扉に飛ぶことができる。

 ダンジョン内ではそのダンジョンの出入り口になっている扉の前に転移する。


【神剣保持者】

 神剣を手に入れた者に与えられる称号。

 刀剣の扱いに上方補正がかかる。


―――――――――――――――――――――――



「はは……やばすぎだろこれ。」


 すでにぶっ飛んだスキルを与えられていたのに、ここにきてさらにぶっとんだスキルと称号を手に入れてしまった。【鑑定】の内容を見て、あまりの内容に乾いたわらいがつい漏れてしまう。ここまでくると、もう色々隠すよりも開き直ったほうがいいような気がしてきた。


「はぁ~、もう考えるのはやめよう!神様のお願いでもあるし!なんか神様パワーで探索者には受かってるみたいだし!頑張るか!あ、早速だし【扉移動】で帰ってみるか。」


 そういって新たに手に入れた【扉作成】のスキルを使ってみる。すると目の前に、京介の部屋にある扉と瓜二つの扉が現れた。京介は扉のドアノブに手をかけ、開く。いつもの光に包まれ、次に目を開くといつもの京介の部屋にいた。


「めっっっっちゃ楽だわこれ。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る