第6話 いざ探索者協会へ

[──12月27日 9:00 探索者協会 東京本部]


「えぇ~、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。私はここ、探索者協会東京本部の代表を務めることとなりました本場夷蔵もとばいぞうと申します。」


 新築の匂いがする途轍もなく大きな建物の中、およそ千人はいるだろうという会場の中で、ひとりの男が壇上に立ち挨拶をしている。その男は初老に差し掛かろうかというような年齢の相貌をしているが、背筋はぴんと伸び、その背丈は180cmはゆうにあるだろうことが見てわかる。また、その体躯はやや細身ではあれど痩躯というわけではなく引き締まった身体であろうことが分かる。


「皆様にお集まりいただいたのは他でもなく、彼の扉に挑戦する有志の方々、通称になっていただくためでございます。自衛隊など、すでに政府主導のもと我々は『ステータス』と呼ばれるものを得ており、またそれとは別にと思われるものを聞いております。」


 『ステータス』の言及に加え、と発言を聞いた探索者候補たちは一様に動揺を表し会場内にどよめきが起こる。


「皆様、どうか落ち着いてください。皆様の動揺はとてもよくわかります。私も初めて報告を聞いた際には自分の耳を疑いましたから……しかし、すべて本当のことです。そして、これから皆様に体験していただくことでもございます。ですので、今この場での確認はお控えください。」


 その言葉に会場は次第に冷静を取り戻していき、静かになっていく。


「ありがとうございます。それでは番号順に扉へとご案内いたしますので、あてはまる番号を呼ばれましたらあちらの出口へ向かって下さい。以上で、第一回公募探索者説明会を閉会といたします。ご清聴いただき誠にありがとうございました。」


 そういって壇上で頭を下げ降壇する。すると出口にいた従業員らしき女性が拡声器を使用して番号を読み上げていく。






―――――――――――――――――――――――






「さっきのおっさん超怖かったな?」


「いや東雲さん来てそっこーで寝てたじゃないですか。」


 探索者協会東京本部で開催された第一回公募探索者説明会には、京介と東雲の姿があった。二人の番号は連番で、それぞれ京介が「326」、東雲が「327」の札を持っている。先ほどから5人ずつ呼ばれているので、おそらく2人は一緒に呼ばれることになるだろう。


「にしても、まさか受かるとはな~」


「でも東雲店長、すごく楽しみにしてたじゃないですか。」


「そりゃそーだろ!ゲームでもVRでもなく現実でダンジョンだぜ?そりゃテンションも上がるだろー?てかバイト中じゃないんだから呼び捨てでいいよもう~。」


「え、じゃあ東雲さんで……」


 にっこり笑いながら京介の背中を叩く東雲。その笑顔に京介だけでなく、周囲で番号待ちをしている男たちも見惚れる。見た目の位階があればAはあるだろう東雲はご機嫌に鼻歌を奏でる。


 従業員と思われる女性がぞくぞくと探索者候補の番号を呼んでいく。会場から人がどんどん減っていき、京介ら2人の順番がついにやってくる。


「326~330番の札をお持ちの方はこちらに来てくださ~い!」


「あ、呼ばれたっすね。行きますか東雲さん。」


「おう!いや~初ダンジョン楽しみだな~!」


並んで通路の方向へと進む。途中、他の番号「328」「329」「330」の札をもっているだろう人たちが集まってきた。2人の男性と1人の女性が最終的に集まった。従業員さんのところへ


「あ、皆さん揃いましたか?では札を拝見いたしますね~…………はい!確認できましたので、この先まっすぐ進んでくださいね~。」


 各々番号の書かれた札を従業員に見せ、通路の先に進んでいく。奥に暗幕のかかったところがあり、その前に警備員が2人おり京介たちが近付くと暗幕を開いてくれる。暗幕が開かれると、その先には両開きで木製の扉があった。シックな雰囲気にまとめられたその扉の横には先ほど壇上で話をしていた本場さんが立っていた。


「え~、次はあなた方ですね。入る前に注意事項を少しばかり失礼します。まず中に入りますと外部と連絡が取れなくなります。そして扉の中、ダンジョンでは敵対する生命体、通称モンスターが現れます。今回入ります扉の中には仮称としてと呼ばれるモンスターがおりますのでご注意を。」


「え、戦うんすか?」


 後から合流した女の子が少し青い顔をして本場さんに聞く。京介は話を聞いたときにグリーってどんなモンスターだろうなくらいにしか考えていなかったが、よくよく考えれば今ここにいる人たちはであり、今初めてダンジョンに潜るのだ。ゲームや漫画と違って現実で、しかも自分自身、生身の身体でダンジョンに入るわけだからそれは恐怖だろう。


「いや、今回は中に入ってステータスを入手していただくだけになります。ダンジョンの中に今回のためにお呼びした自衛隊員がおります。万が一近くにモンスターが現れたとしてもその者が対応いたしますのでご安心ください。」


そう本場が説明すると先ほどまでの暗かった空気が和らいだ。今回はダンジョンの中に入って各々がステータスを取得するだけらしい。京介はすでにステータスを得てしまっているが他の4名はまだステータスを持っていないので、できるだけ顔に出さないように気を付けようと思う京介。


「それでは皆様、ご準備はよろしいですかな?中に入りましたらおそらく『神の声』が聞こえることでしょう。そのあとに『ステータス』と声に出して、ご自身のステータスを確認なさってください。」


「おぉ~、そのへんはゲームっぽいんだなっ!」


「う~ん神様の声ってどんな感じなんっすかねぇ~」


「強いスキル来い強いスキル来い……!」


「モンスター見れると思ってたのに残念……」


京介以外の4人がそわそわし始める。そんな姿を見て本場が少し微笑むと、5人を扉に促す。


「それでは皆様扉のドアノブに触れてください。ドアノブを捻ると少しの間光に包まれます。そのあとにはもうダンジョンの中にいますので、どうか慌てずに先ほど説明しました手順でご自身のステータスを確認なさってください。」


 5人は本場に言われた通りにドアノブに触れ、そして捻る。京介には慣れた光がその場にいた5人を包み込み、消える。あとには静寂とそれを見守っていた本場が残った。


「はぁ……神々は一体何を考えられていらっしゃるのやら。さてまだまだ探索者候補の方々はいらっしゃるのだ。老骨に鞭打って働くとしましょうか。」





―――――――――――――――――――――――






「おお……ここがダンジョンの中かぁ!」


 東雲がテンションMAXで叫ぶ。光に包まれた後、目の前に広がっていたのは悠々たる青空に平原。遠くの方に山が連なり、360°囲むように聳え立っていた。少なくとも日本国内にはないであろう牧歌的かつ澄んだ空間に、ダンジョン内に入った5人は感動していた。


「皆様、扉からあまり離れぬようにお気を付けください。この度護衛を探索者協会より任されております自衛隊です。こちら側へ来る際におそらく『神の声』を聴いておられるかと思います。ですので『ステータス』と唱えていただきご自身のステータスを確認なさってください。」


 扉横で待機していた自衛隊員が、注意を促す。感動をしてテンションが上がるのはいいが、ここで好きに行動されると下手すれば遭難か、悪くてモンスターと出会い死亡してしまう。そうならないための今回の自衛隊員の護衛という名の監視を配置した理由だった。


「おう!そうだったな……早速ステータス!」


 東雲が先陣を切って自身のステータスを確認する。それを聞いて他の面々も「ステータス!」と唱え自身のステータスを確認していく。各々がおそらく目の前に表示されたステータスに驚き、「おっ!」「わっ!」と声を上げて嬉しそうな顔で自分のステータスを確認している。京介は他の人の顔を見て、「自分にしか見えないステータスを見てるとこんな顔になるんだな」と思いながら自分もステータスを開く。



―――――――――――――――――――――――


名前 :朝谷京介

位階 :G

レベル:35

体力 :700/700

魔力 :490/490


スキル

【取得経験値10倍】

【剣術:素戔嗚流 Lv.1/10】

【無属性魔術Lv.1/5】

【心眼Lv.1/3】

【鑑定Lv.1/3】

【扉移動】


称号

【世界初の探索者】【神剣保持者】


―――――――――――――――――――――――



 相も変わらずぶっ飛んだスキル群を見て内心溜息をつく京介。レベルだけを見ても、探索者候補にはありえない高レベルだし称号なんかもついてしまってる。もし他人のステータスを見ることのできるステータスやアイテムなんかがあれば、まずいことになりそうなものだ。


「おう!京介はステータスどうだったよ!」


「わぁ!東雲さん……いやまぁ可も無く不可も無くって感じですかね。」


「ほんとか~?私は結構よかったぞ!でもこれ、ステータスって他の人に見せられねぇのかな?」


 そう言って何もない空中をつついている東雲。京介は何もないように見えるが、東雲からはそこに自分のステータスが表示されているのだろう。


「皆さんご自身のステータスは確認されましたでしょうか?確認ができた方からこちらの扉から元の現実世界にお戻りください!」


 自衛隊員があたりを警戒しながら声をかける。皆一様に何もない空間を見ていたのを自衛隊員は見ていたのだろう。全員がステータスを手に入れている様子を見て声をかけてくれたようだった。


「あ~、もう終わりかよ~。冒険とかしてみたかったのによ。」


「まぁまぁ東雲さん。探索者にはなれたわけですし、今日は帰りましょうよ。」


 唇を尖らせて悪態をつく東雲をなだめる京介。「こんな顔をしても美人のままなんだな」と思いつつも東雲の背を押して扉へと向かう。


「では皆さんドアノブに触れてください!また光で見えなくなりますが、ちゃんと現実世界に戻れますので!」


 5人がドアノブに触れ、捻る。先ほどダンジョンに入ったときと同じように光に包み込まれ、次に目を開くと探索者協会の中へと戻っていた。


「皆様、無事にお戻りになられたようで安心いたしました。それではこちらから受付の方へと回っていただき、を探索者カードに登録いたしましたら本日は終了となります。どうぞよろしくお願いいたします。」


「「「「はい。」」」」


「……え?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る