第14話 6階層探索

[──12月29日 13:00  京介の部屋]


「ふぅー!疲れた~!さすがにこんだけ買ってたら重いなぁ……」


 京介は両手にある満杯の買い物袋を部屋に置く。がちゃがちゃと音を立てる袋の中は全て探索者協会のホームセンターで買った物だ。多種多様なものを買い揃えたが、その分出費もありかなり懐が寒い状態になってしまった。


「今回のぶんは必ずダンジョンで稼いでやる……さて、新しく買ったリュックに色々詰めて、6階層にを作ろう!」


 京介は新たに購入した登山用の丈夫なリュックサックにキャンプ用品等を詰め込んでいく。今回京介が考えているのは、今後も6階層のような広大なダンジョンに当たった時のために移設可能な仮拠点を建設するというものだ。ただ全てを京介が考えた訳ではなく、ちょうど読んでいた異世界モノの漫画に似たような場面が出てきたことによるものだった。にベも漫画の中ではスローライフを送る話ではあるのだが。


「とりあえず今回はある程度開けた場所と出てくるモンスターの種類を調べて、場所が決まったらテントとかを建てて仮拠点に。その後に6階層全体の攻略に出よう。」


 そう言って京介はキャンプ用品一式に水筒と発煙筒をリュックに詰め込み扉の前に立つ。ドアノブについているダイアルを回し、6の数字に合わせて扉を開いた。少しの光に包まれた後には、以前見た青空の広がる6階層の光景が目の前に広がっていた。


「う〜ん、この光景は相変わらずダンジョンとは思えないよなぁ……」


 神様が作り出した扉、ダンジョンは今のところ探索者協会のところと京介の部屋にあるものだけしか入ったことは無いが、そのひとつひとつのためにこれだけの空間を作り出しているのはさすが神様というところなのだろうか。


「さて、とりあえず開けた場所を探してみますか!無いなら無いで自分で作ればいいし!しゅっぱ〜つ!」


 意気揚々と6階層の森へと入っていく京介。自然の中を歩く経験もろくになかった京介は、木が生い茂る森の中を歩くのに苦労する。デコボコな地面に、ちょうど頭の位置辺りにある枝などに足も視界も取られ四苦八苦していた。


「ここまでの森は初めて歩くから……おっとと。歩くのが難しいな。」


 普段使いしているスニーカーで来てしまっているので、足裏に伝わる木の根の感触少し湿った地面の冷たさなどが伝わってきて少し不快に思う。


「あ”~、ダメだ!【身体強化】して!ジャンプっ!!!」


 現代っ子の京介はどこまで進んでも見た目が変わらず、独特な緑の匂いと足場の悪い環境に嫌気がMAXになってしまったことで我慢できず【身体強化】を掛けて木々の上、およそ4mほどの高さを一息で飛び上がる。


「ん~、おっ!あっちのほうに広場があるな!」


 木々の上、山を背に左側に木々が見切れている場所を発見する。そのまま地面へ着地すると、京介は開けた場所を目指して足を進める。


「最初からこうすればよかったかもなぁ。ほんと【身体強化】様様だよ。」


 京介は【身体強化】のありがたみに感動しながら森の中をずんずん進んで行く。道中、地面に落ちている枝を拾いながら開けた場所を目指して歩いていた。枝を集めているのは、簡易的な焚火を作るためだ。


「ん、木の間隔が広がってきたな。出口も近いかな?」


 周囲の木々の数が段々と減ってきて、森の外の景色が見えてくる。陽の光に手を翳しながら森を抜けると所々が丘のように盛り上がった平原が広がっていた。モンスターの気配は感じず、穏やかな雰囲気が漂っていた。


「ここまでモンスター数ゼロかぁ……」


 森の中にも、とても開けた平原にもモンスターの気配を感じずにいることが京介には少し不気味に感じた。いままでは一本道の洞窟で出てきたのはスライムだけだったが必ず出現していたこともあり、京介の中ではダンジョンに入れば必ずモンスターと接敵するというのが常識のようなものになっていた。それ故に、ここまで一度も接敵しないどころかモンスターの気配も感じないことが不思議だった。


 京介は天気、と言っていいのか分からないが晴天の空を仰ぎ見る。雲があり、太陽があり、風を感じる。ダンジョンの中にあるもう一つの世界にいるのだということをまざまざと見せつけられているかのような感覚に京介は今一度、神という存在に驚きを覚えた。


「ほんと、神様ってすげーなぁ……」


 そんなことを呟きながら、森から比較的近い場所にリュックを置きテントの設営を試みる。説明書をよく読み、手順通りに骨組みを組んでいく。京介は初めてのことに関しては必ず説明書や設計書などの手順に従う派なので、今回も付属の説明書に従って設営していった。【身体強化】を使用したままだったのでてきぱきと進んで行き、ものの10分でテントは完成していた。ちなみに1人用のテントなのでそこまでの大きさは無い。


「よ~し、次は焚火だな。ほんとは石とかを積むタイプをやってみたかったけど、周囲にはないし川の方に拾いに行くのも大変だから普通に枝で組むやつにしとこう。」


 そう言って、拾ってきていた枝で木組みを行い、簡素で小さな焚火ようの物を作成する。今回は火種として火の魔石を持ってきているのでライターなどの類は持ってきていない。最悪【扉移動】で部屋に戻れるので、何か起きても特に問題はないだろう。


「う~っ、と。なかなか初めてにしてはいい感じにできたかな?」


 しゃがんで作業をしていたため、腰が痛くなる前に伸びをする京介。出来上がった仮拠点を眺めて満足げに頷く。初めてにしてはかなりの上出来で、ここだけ風景を切り取れば普通にキャンプに来たようにしか見えなかった。


「よし、それじゃあ焚火に火をつけて……うんいい感じに煙が上がって目印にもなりそうだな。」


 焚火を作ったのはなにもここで串焼きのような食べ物を作るわけではなく、狼煙を上げて周囲の探索からここの仮拠点へと帰る際に目印になると考えたためだ。拾った枝も乾燥したものだけではなく、多少水分を含んだものも選んで集めたため煙が多少出やすくなっているようだった。


「よし、それじゃあ一回森の中の川沿いを探索してみて、それから違うルートを通ってこの仮拠点に帰ってこようか。」


 広げた荷物をテントの中にしまい、軽くなったリュックを背負い森の中へ入っていく。太陽は依然京介の頭上で燦々と輝いていた。

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