ただしい姿、ただしい未来

 ひとつの道を指し示されて、ひとつの未来だけを見据えて。

 

 いつだって僕はそれだけを信じていた。

 

 誰かが指し示した一つの形だけを、誰かが提示したその姿こそが僕のあるべき将来であると。

 

 道を踏み外したその先に未来はない。

 

 半ば脅迫的な教え込み。

 

 盲目的に信じていた教えを打ち砕くのは、内なる反骨心の芽。


 自覚のない萌芽はいつしか荒地に芽を出す雑草のように僕の心に蔓延った。

 

 だれが、それを、ただしいときめた。


 ぼくは、それは、まったくもってまちがっていると感じた。


 理屈じゃない、全く持って理論的じゃない。


 ただ押し付けられたそれを、ただ受け入れているだけではいられなかった。


 なにが正しくてなにが善いのか。

 なにが間違っていてなにが悪いのか。


 ぼくにもわからない。


 わからないが、でもそれは絶対的なものではない。


 全ては相対的なもので、ある一方からの視点のみで語られるべきではないもの。


 昨日のように思い出せる、あらゆる罵倒を駆使して僕を罵った人々の顔。

 

 期待に応えたかったけど、その期待は残念ながら僕にはあまりにも間違ったものであったと感じていた。


 正しいとは間違っている。

 間違っているのは正しい。


 ただ見るべきは、方向性であり、どちらの座に居るのか。


 ベクトルが違えば自ずと立ち位置も異なるただそれだけのことを受け入れられなかった彼らと決別し、向かうは不確定の先。

 確定した未来をあやふやにし、昨日をさかのぼりながら僕は見えない霧の中にあえて迷い込んでいく。

 全てをわからないままに進むのもまた一興。

 正しくない道を彷徨いながら、きっと僕は悪いとされる方へと向かっていく。


 それを決めるのは、他の誰でもない、己だ。


 おれが決める。

 何が善くて何が悪いのか。

 

 全てはそれからだ。

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