星屑に願いを
子どもの頃。
私は星が好きだった。星座の事はよくわからないけど、空に広がる点々とした星々が煌めくのを見るのが好きだった。満ち欠ける月を日々眺めてどうして月は形が変わるんだろうと疑問を持っていた。
空を見上げて星々を眺めていれば世の中の嫌な事全てを忘れられたのだ。
星々は宇宙にあると親に言われた。
宇宙とはどのような場所なのだろう。子どもの考える事だからたわいもない想像で、きっと宇宙人なんかもどこかの星には住んでいるに違いないと無邪気に想っていた。いつか自分も宇宙に行くと言う夢がいつの間にか自分の胸に刻み込まれていた。
宇宙という空間があまりにも生き物それ自体に厳しく、冷たい絶対的な存在であるという事には全く気が向いていなかった。
それくらい私の頭の中は夢想で満ちていた。
自由自在に宇宙を星をスーパーマンのように駆け巡り、星々をまたいでゆくようなヒーローをいつも思い描いて、夜の帳を駆け巡っては転んで膝小僧に生傷を刻んでいく。夢はいつしか目標になり、私は本を買ったりして宇宙の事を少しずつ勉強していく。夢はただの夢であり、現実を思い知るがそれでも宇宙は私のあこがれの場所である。気力が萎える事は無く、一途に願い行動し続けていればいつかは叶うと純粋過ぎるほどに思っていた。
私が少しくらいは分別が付くようになったころ。
いつものように私は夜空を見上げ、星々を眺めてどれがどの星座なのかを調べていたところに急に流星が空を切り裂いて横滑りしていくのを見た。
闇に慣れた目では眩すぎるほどの煌めきは、勢いを弱める事なく徐々に軌道をゆるゆると地表へと向けていく。
流れ星は何度か見たことはあるが、これほどの大きなものは初めてだった。
流れ星に三度、願い事を願えば叶う。
与太話だとは知って居てもなお、私は願った。
三度、きっちりと願う事が出来た。
ゆっくりと流れていく星は消えていくことなく、空を滑りながらやがて地平線の彼方へと消えていった。地面と接した瞬間、かすかに輝きが強くなったように見えた。
何となしに私の心に満ち足りたものが広がった。
きっと夢は叶うという無根拠な思い込みと共に。
大人になって、私はいま宇宙開発の職に就いている。
地球は増え続ける人類の数を背負いきれなくなっている現在、宇宙進出は目下の全人類共通の課題として背中にのしかかっている。
重責を思えば時折休みもほしくなるが、責任と共に期待もある。
人類の未来をこそ私が担っているとも思えば休んでなど居られない。
それに、墜落した宇宙船の人びとの事を思えばなお。
あの時私が願っていた星は宇宙船であり、墜落したのはハイジャックに遭ったからだった。数百人を乗せた船は乗員の抵抗もむなしくそのまま燃料切れを起こし全員が帰らぬ人となった。
私はそれに願いを乗せていたのだ。
後で知り、在るはずもない罪悪感に苛まされた。
何故罪の意識を持ってしまったのかわからない。
もしかしたら願いを叶えられたのは彼らの犠牲があったからなのか。
そうとでも一瞬でも頭によぎったからかもしれない。
一心不乱に私は、半ば義務のように宇宙への、人類への貢献をやめずにはいられずにワーカホリックと揶揄されながらも仕事に励んでいる。
いずれは燃え尽きる星屑になるまで。
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