星の瞬きを遠くに見て、忘れ去られた時を思い出す

 最近の事はあっという間に忘れていく。

 遠い昔の事をやけに思い出すのは、年を喰ったという感傷に浸っているだけなのかもしれない。

 

 星は瞬く。

 月は遠くにありて輝く。

 

 匂い。

 きっとそれはたなびく煙のように何処からともなく忍び寄って来る。

 今を生きる人々が、普段は忘却しているもの。

 

 ひたひたと、気づいたら自分の背後に立っている。

 ふと思い出すと、根源の恐怖が脊髄の中身を直接に叩いてくる。

 誰もが何故忘れていたのかと、思い出した時に後悔している。

 

 時は長く、時に短く、永遠かと思えば、一瞬の瞬き。

 特に人の生なんて、宇宙の瞬きにも及ばない。

 心臓の一拍が打つたびに、少しずつ目減りしていく。

 

 愚にもつかない考えをしている時が一番幸せで、目の前にいる人を幸せにしたいと願う事がどれだけ思いあがっているかを思い知らされている。

 

 帰らないものを願ってもと誰かが言う。

 帰ってこないものをからの手に握りしめたかった。

 帰ってこないものは何処へ行くのだろう。


 だから空を見上げ、きっとあれはあそこに旅立ったのだと思うようにする。

 何の慰めにならないとしても、自分の気持ちだけでも慰めたかったから。


 昨日の事は全く覚えていない。

 今日の事はこれから忘れていくだろう。

 明日の事は誰もまだ知らない。

 

 遠い過去の思い出は化石になる。

 遠い未来の出来事はいずれ過ぎ去り、やはり忘却の彼方へと置き去りにされる。

 

 何にも意味があるかもしれないし意味はない。

 そこに見出すものがすべてだ。

 何があるかを偏った眼鏡で穿った見方で一面から見ているだけ。

 

 ずっと夜の中を立ち尽くしている。

 方向もわからずに何処へ向かおうかとも考えられない。

 星はそれでも瞬いている。

 いつも同じように。

 何時でも同じように。

 ずっと実は、同じようになんて輝いていないのに。

 ずっと僕は勘違いをしていた。

 

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