死と向き合う心構え

 僕は果たしてそれと真正面から向かい合っていただろうかと、線香の匂いを嗅ぐたびに思う。

 

 もう若くない。

 

 年月は誰にでも平等に、そして残酷に接する。

 誰もが若さを望み、永遠に生きる事を願った所で所詮は叶わない。

 

 生きていると言う事は即ち死へ向かっている。

 

 生まれたからにはいずれ死ぬ。

 当たり前の事実から、どこか目を逸らしていたような気がする。

 いや、たぶん誰もがその時が訪れるまでは真正面から見つめられないだろう。

 死の間際まで生きたいと願っている人を、どうして馬鹿にできようか。

 生物の本能として、死を拒むのは当たり前のことだ。

 訳知り顔をして、死期が近いと悟ったら受け入れろと言えるはずもない。

 

 もっと話をしておけばよかった。


 そう思った所で、既に当人は居ないのだ。

 

 後悔はいつだって先に立たない。

 何かが出来ただろうかと思って、思考はぐるぐると巡り、結局全ては終わっていた。

 

 現実は無常だ。

 都合の良い奇蹟なんてありはしない。

 だからせめて、物語の中くらいは奇蹟くらい気安く起きてほしいと思うばかりだ。

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