見ているか見ていないかを問われたら多分

 視線を感じる。

 部屋の隅っこの、埃をかぶったなんてことはない、何もない空間。

 もうだいぶ部屋の掃除をしていないな、一ヶ月くらいだろうか。それくらい埃が積もってダマになっている。日々の忙しさにかまけてフローリングにもうっすらと積もっている。掃除機をかけないとなと布団の上で転がりながら思っていた。

 それよりも視線を感じる。

 猫がよくじっと天井の隅っこを見ていたりするが、あれだ。

 何もいないはずなのに、そこに何かが居るって妙に確信めいたものを感じる。


 別に自分が霊感を持っているとかそういう話でもない。

 夜の墓場とかトンネルとかに行っても微塵も恐怖心を感じない。同行した人は怯えていたけどたださびれているってだけでしょとしか思わなかった。

 むしろ山の中にぽつねんとある旅館とかビルの廃墟の方が怖かった。

 というのも、そこは確かに廃墟なんだけどなぜかエロ本が部屋の中に山となって積みあがって居たり、あるいは使い古してボロボロなんだけど確かに布団が敷いてあって、ついでにどこから仕入れて来たのかポータブルの小さいテレビなんかがあったりと明らかに誰かが住み着いている形跡があって、こんなところに住んでいる人というのは明らかにヤバい手合いだというのがわかるから。

 やばくないにしてもホームレスだったりするのは確実で、付きまとわれるのもうっとおしい。

 つい最近もそろそろ秋めいて涼しくなってきたってのに今更肝試しだなんて浮かれる阿呆に付き合ってきたばかりだ。

 浮かれるアホコンビ、もといカップルは肝試しで更に肝を冷やしたか、あるいは絆を深めて今はよろしくやっているのかもしれない。

 

 それよりも視線だ。

 じっと自分の背後を見ている何かの正体を突き止めたい。

 椅子を持ってきて天井の隅っこに居る何かが何なのかを突き止めないと今日も安らかに眠れない。

 隅っこにはクモの巣が張っている。いくらオレの部屋が虫が入り込んでくるからといって勝手に住居を作らないでほしい。なお住人はすでに居らず、引っ越した模様。クモの巣を掃除して隅っこの天井を穴が開くまで眺める。スマートフォンのライトを使って。

 穴が開くほど見た結果、わずかに天井に穴が開いている事に気づいた。

 そんな事には気づきたくなかったが、なんで穴が開いている?

 クローゼットから天井裏に行けるので、気が進まないが気になって仕方ないので天井裏を覗いてみる。

 スマートフォンのライトでは心もとないので懐中電灯を引っ張り出してきて、何かあったらこれで殴りつけるつもりで。

 

 スイッチを押し、強い光を放つ懐中電灯。

 さて天井裏に頭をひょっこり出してみると、なるほどすえた匂いしかしない。埃っぽくて微妙に湿っぽい様なそんな空気。

 もちろんなんもいない。ライトで照らしても生き物の気配はない。

 まっくろくろすけみたいな、摩訶不思議な世界の住人も居ない。

 もちろんオレには霊感があるはずもないので、その手のものはいない。

 つまりは杞憂、思い込み。

 そう結論付けて、オレは天井裏から引っ込んだ。


 明日も速いのだ。

 もう寝なければいけない。

 オレは電気を消して布団に潜り込む。

 

 ぞくりと背筋に悪寒を感じた。

 視線を感じる。

 オレの背後に、背後は床もしくは布団しかないというのに。

 寝間着に着替えたオレの背後に、何が一体居るってんだ。

 何もない、存在する隙間すらないはずなのに。

 生臭い息すら臭ってくる。

 振り返ろうにも首は動かない。

 じっとりと舌が這いずってくる感覚がある。隙間は何度も言うが無いはずなのに。


 一体こいつは何物なんだ。

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