エピローグ:僕の新しい日々が始まります
突然、何かが弾け飛ぶ音に驚き、目が覚めた。
「ジャイアントキリング、おめでとー」
コロンバス先生が、たった今使用済みと思われるクラッカーを構えていた。
「何ですか。眠いんですが」
「つべこべ言うんじゃない。朝練だぞ。早くコスチュームに着替えんか」
先生はなおもクラッカーを構えたまま淡々と一喝した。
「あっ、おはよう」
練習場に入ると、玄関近くでヌンティアが待っていた。
「おはようございます……」
眠気がまだ覚めきっていない僕は、その場で大きくあくびをした。頭に重たいゲンコツが襲いかかった。
「せっかく挨拶をしてくれている堕精霊にその態度は何だ」
「すみません、もうその言い方やめてもらっていいですか?」
ヌンティアが冷静にコロンバス先生に抗議する。
「新しいコーチ兼堕精霊」
「どっちかと言うとコーチが本業なんですが」
「まあ何だっていいや。ヌンティア、彼の練習を見てやってくれ。あっ、ちょっとこっちに寄ってきてくれないか」
先生がヌンティアを間近に呼び寄せ、何かを囁いた。ヌンティアが僕に歩み寄る。
「あなたはグレゴリーを倒したんだから、これから戦う相手もことごとく実力あるウィザードになるって。だからいつもどおり怠けつつやったら、先生が直々にアンタを天狗野郎と罵って、その場でゴキブリに変えてやるって」
「ちょっと待って、もう僕はあの場所へ送られる必要はないんじゃ……」
「マリスランド? そこへ送るとまでは言ってなかったけどね。でも、また怠け者に舞い戻ったら、多分そうなるかも」
人生の重大危機を一つ乗り越えたからといって、僕に安息は約束されていなかったワケか。
「あれからマーガレットはどうなりました?」
「行方不明」
ヌンティアはさらりと答えた。
「でも不思議ね、フッた人を気にするなんて」
「何気なく聞いただけです」
「ほら、先生がマジな目で見てるわよ。サンクションが来ないうちに、早く行きましょう」
ヌンティアが先生から逃げるように僕を練習場の奥へ促した。進んだ先で芽衣花が不機嫌な顔をして待ち構えていた。
ヌンティアと芽衣花の視線が交錯する。二人の間に火花が散ってやいないか。
「何よ、これは不純異性交遊じゃないわよ。私、正式にSHOOT OUTのコーチに任命されたの」
「それって、何か裏があるんじゃないの?」
「ないわよ! アンタってそんなに素直じゃない子だったの?」
「充分素直よ。これができるから」
芽衣花は僕の方へ歩み寄ると、いきなり抱き寄せた。人質のように羽交い絞めっぽく腕を絡めると、そっと頬っぺたにキスをした。何だろう、この繊細で、程よい弾力性のある触れ心地だ。不思議と、天に昇るような気持ちになった。
「何赤くなってんのよ。今から練習なんだから!」
「そんなこと言って、また不純異性交遊ですか」
「正式なコーチに任命されたの! 話聞いてないの!?」
「アンタの話は聞いてもアテにならないだけ」
いきり立つヌンティアと、淡々と諫めにかかる芽衣花。僕は二人の女子の間で、もみくちゃになっていた。
そうこうしているうちに、僕たちのもとに、ただならぬ気配を持った影が近づいていた。
「随分楽しそうだね。私も入れてくれないか? ああ、心配はいらん。当然そういう意味じゃないからね」
コロンバス先生が、 殺気をみなぎらせた目で三人を睨みながら、狂ったように微笑みかけていた。彼は杖を掲げる。破壊的なオーラをまとった、幾多の稲光が走るエネルギーの球体が、杖の先で膨らんでいった。
「サンクション・ザ・ライトニング!」
壮絶な爆音と、三人の若者の悲鳴が、戦禍のように練習場を駆け巡った。
(完結)
彼女を奪われたダメウィザードの成長記録 STキャナル @stakarenga
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