第21章:これが、僕のウィザードとしての実力です

 戦の終わりを告げる鐘が鳴らされた瞬間、場内がただならぬ喧噪に包まれた。


「勝者……友道幸助!」

 アイリスコロシアム中から、歓声と驚きと、様々な感情のこもった声が入り混じる。これは、僕の勝利を喜ぶ歓声なのか? 僕は地に足がついていないような感覚になっていた。これ、夢じゃないよね?


 審判が微笑みながら、僕の杖を持つ手を挙げる。

「僕、勝ったんですか?」

「そう、君が勝者だ。オレでも信じられないけどな」

「ありがとうございます」


 心、いや、魂の底から、嬉しさが、泉のようにこみあげてきた。

「やったああああああああああ!」


 もう一度目の前を見ると、確かにグレゴリーは大の字で伸びている。やはり、僕が奴を倒したんだ。

 マーガレットがグレゴリーの元へ駆け寄ってきた。

「グレゴリー……」

 彼女はグレゴリーを心配そうに見つめる。続いて僕に恨めしそうな視線を送りながら、 歩み寄ってきた。


「アンタ、何かズルした?」

「ズルじゃない。僕は、強くなったんだ」

「彼の杖に何か仕込んだんでしょ?」

「何もしてない。僕はこの力でグレゴリーを倒した」

「ふ~ん」


 マーガレットは、再びグレゴリーの方へ近づく。彼女は、彼の体にケリを入れた。

「恥さらし。あのギガ・何とか・キャノンは、アンタが今まで築き上げた名誉を木っ端微塵に壊したわね。て言うか、それを1㎡も守れないアンタって一体何なの?分からなくなっちゃった」


 グレゴリーは、傷だらけの身をわずかに起こした。

「待ってくれ、これはまぐれ」

「現実逃避しないで、アンタとはバイバイね」

 グレゴリーの苦し紛れの脚韻を、マーガレットは冷淡な脚韻で突っぱねた。そして僕のもとへ戻ってくると、今まで何事もなかったかのように微笑みかける。


「今まで悪かったわ、ねえ、良かったら明日、SHOOT OUTの裏口で待ってるから」

「来るな!」

 僕はマーガレットの言葉を遮った。


「何よ」

「もう、ヨリを戻す気はない。お前の心は彷徨っている。僕のことを弱虫呼ばわりして、強いグレゴリーと寝返ったんだろう?」

「そうだけど、今は」

「今は何だ? 僕がグレゴリーに勝ったから、僕が強いから、また優しくしてくれるのか? そんな優しさならいらない」


「そんなこと言わないでよ」

「お前は強い奴と一緒にいたいだけだろう。そんなの彼女のやることじゃない。だから僕は、君が好きじゃない」


「何よその告白。『好き』なんじゃないの?」

「好きじゃない!」

 僕は念を押すように語気を強めた。マーガレットの目が潤み始めている。でも、僕は自分の気持ちに正直になるしかなかった。


「正直、今でも僕はウィザードたち完璧だなんて思ってない。でも、これだけははっきり言える。君の心は弱い。どうしようもないくらい弱すぎる。そんな人間の隣にいるわけにはいかない」


「幸助」

「行け」

「どうして」

「いいから行け!」


 マーガレットは僕を睨みつけると、舞台裏へ走り去っていく。

 芽衣花がヌンティアに肩を貸しながらやってきた。


「あれでいいの?」

 ヌンティアが素朴に問いかけてきた。

「いいんだ」

 僕は静かに答えた。


「そう、とりあえず、大金星おめでとう!」

 ヌンティアは僕に抱き着き、勢いのままに押し倒した。

「正直どうなるかと思ったけど、勝って良かった! もうゴキブリにならずに済むってことじゃん!」


「ちょっと、ヌンティア、離れなさいよ!」

 芽衣花が力づくでヌンティアを引きはがす。彼女は僕に手を貸し、立ち上がらせた。


「でも、良かったわね。アンタ、無事でいられて」

「芽衣花」

 芽衣花は何も言わず、優しく僕にハグをした。


「ちょっと、アンタ私のこと止めながら何してるのよ」

 ヌンティアが再び割り込みを図り、二人がまたもみ合う。

「あ~、だからちょっと待ってって」


 僕は何とか二人を制した。

「でも、二人ともありがとう。おかげで僕は、強大な敵を倒すことができた」

「それは間違いないって感じね」


「じゃあ先生に報告に行こうか」

「芽衣花、それ終わったら後で私と話があるから」

「幸助のことなら話すことはないわよ。さあ、幸助、行こう」


 芽衣花は僕の肩を押して舞台裏へ促した。この間も芽衣花とヌンティアは僕の背後でもめていた。

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