幕間 夢の中で

第17話

 夢を見ている。


 あの時の――誘拐された時の夢だ。

 夢を見ていると自覚があるから、明晰夢というやつだろう。


 この夢を見るのは、珍しいことではない。

 自分の人生観が変わるほどの激烈な体験だったから、当然と言えば当然か。


 ここでの僕は怯えて震えるばかり。

 戦う術も持たない、ただの無力な子供に過ぎない。

 我がこととはいえ情けない。

 今くらいの実力があれば、少なくとも抵抗することはできたはずなのに。


 手足にが縄。口には猿轡。喉元に刃物。

 泣くことも、しゃべることもできない。


 ……ああ、最悪の気分だ。

 無力な自分を思い出すのは本当に堪える。


 ここで師匠が扉を蹴り破って助け現れる。

 そして、夢の中でも変わらない神速の太刀捌きでならず者たちを斬り伏せていく。


 ……最近、師匠の本気を見たせいだろう。

 夢の中の師匠はいつも以上に鮮明に映った。


 残ったのは一人。

 こいつには逃げられちゃうんだよなぁ……妙に強いし。

 師匠を相手によくもまあ、あれだけ粘れたものだ。


 一合、二合、三合。

 打ち合う刃金。飛び散る火花。

 縦横無尽に繰り広げられる神速の攻防。


 そして、どう、と倒れ伏す音。


 ――え?


 僕は目を見開いた。


 おかしい。おかしいおかしい。

 こんな展開じゃなかったはずだ。


 最後の一人は敗走する。

 それが、この夢の結末。あの過去の真実だ。


 なのに、なんで。


 師匠が、倒れているんだ――?

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