お兄ちゃんとして召喚された俺にはワケがある

みの湯雑心

転生兄妹編(仮)

第1話 終わる日に始まるいつものやつ

 多くは語る気にもならないくらいほど。

 あり得ない不幸が十重二十重に俺を天誅と呼ばんばかりに抹殺しに来た天中殺の厄日だった。

 この世の理不尽を全て詰め込んだような悪夢から全力疾走で逃避していた最中の事だった。

 まるで世界に嫌われてるような、生きる事を許されていないような、そんな運命を感じながら逃れようと必死にもがいていた所に。


 突然脳内に直接語りかけてきた声を聞いて、「ああ、俺、とうとうストレスで頭がイカれてしまったか」と絶望と諦観に侵食されて、せせら笑いながら、その声の呼び掛けに答えてみたら。

 なんと異世界に転生したもんだから、これが夢なのか現実なのか、冷静に判断する余裕もなく、召喚されたわけだった。


 どんな不幸が俺を襲ったのかについては、ここでは割愛させてもらう。



 目の前には白髪の少女がいた。

 咄嗟に出てきた感想が可愛いとか美少女だとかお人形さんみたいだとか陳腐な賛辞しか思い浮かばなかった事から。

 今までどれだけ現実リアルの美少女と縁の無い人生だったかと思い至る。

 そして、俺の貧相な想像力で目の前の妄想少女を産み出せたのだとしたら大したものだと少しだけ冷静な品評もする。


「○×△□○○×」


 名前も知らない彼女は、全く聞き取れない言葉で、感激しているかのように喜んだ。

 そして、今まで経験した事の無い強さで俺に抱きついた。


「~~~」


 いきなり美少女に抱きつかれて動揺が暴れまわるが、あり得ない状況過ぎたことで現実味が一気に薄れた為に、かえって冷静になった。

 普通に考えて、無条件で自分を抱きしめてくれる美少女なんていないだろ?、そんなものはまやかし、虚仮、妄想の類だと一発で唾棄できないようでは、まだまだお子様だと笑われてしまう。


 現状を分析する。

 狭い部屋、変な薬みたいな匂い、(俺の基準で)絶世とも呼べる美少女と二人きり……うん、妄想で決まりだろう。

 目の前の彼女から伝わる体温や花のように甘い匂いは十全なリアルの指数を満たしているが。

 あり得るとあり得ないを合算した結果、この状況はあり得ないに分類された。

 だから、こちらを熱っぽい視線で見つめる彼女の瞳の前でも冷静に入られたし。

 その瞳が近づいて来ても、全く動揺しなかった。


(まるで、ルビーのように綺麗だな……)


 なんて悠長に考えていたら、唇に何か触れた。


「んがっ」


 それが彼女の唇だと気づいたのは思い切り唇を押し付けられて、逃れられなくなった後だった。


(あ、アウトー!、あうあうアウトー!くぁわせふじこlp…こういう即物的な愛情表現は、俺の最も忌避するべきもの、つまり、妄想ではありえない……っ!)


 逆に現実だったとしたらどんな理由でキスなんてするのかも非常に不可解な話ではあるが、恋愛のABCのAすらも拒絶反応を抱かずにはいられないほどの、超、プラトニック至上主義者である俺にとっては、妄想の中でさえキスが起こる確率などは、まさしく天地が引っくり返る程の奇跡である。

 だってそんな人並みで、浅ましい願いを持った事は無かったからだ。

 自分の中で既に出来上がっていた彼女が死に際にやってきた天使の類かもしれないという仮説を粉々に吹き飛ばす程に、その行為は暴力的なまでに俺の予想の範疇を超越していたのであった。


 だから、どこかもわからない場所に飛ばされ、目の前の超、美少女にキスされるという状況を、現実と受け入れた。


(……あ、これ、異世界転生モノじゃね?)

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