第3話 アリス・テレスティア魔法学院
「お兄ちゃんは使い魔なので一緒に学園に通ってもらいます」
昨晩、疲れから倒れるようにして眠ってしまったら、お約束と言わんばかりにアトリと一つのベッドで寝かされていて(しかも裸)、この現実味の無い現実が自分の思い通りにはならないのだと決意を改めた今日の朝。
低血圧らしく、寝起きが悪いアトリの着替えと髪の手入れをさせられた後に、そう告げられた。
「学園ってどんな?」
ここだけの話ではあるが、俺は学校と言うものに通った事がない。
天涯孤独だった俺は、十五までを施設で過ごした。
だから、アニメや漫画で知った程度の知識でしか学校というものを知らないので、アトリがどんな学校に通っているのか興味があった。
「んー、普通の、貴族が集まるパブリックスクール、ですかね」
貴族、育ちのよさそうな顔立ちをしているが貴族ときたか、正直貴族社会のしきたりだのなんだのは面倒臭そうなので一気に興味が薄れてしまった。
でもとりあえず疑問は残さないように聞けることは聞いておこう。
「この国の貴族の定義って何?」
「第一の最低条件としては魔法が使える
特権を持つ魔法使いが貴族でその他の魔法使いが武士とか騎士みたいな感じか、まぁ現世における封建的な身分制度と大して変わらないみたいだが。
だがメイジの半分くらいは平民って、つまりメイジ自体が特権階級の価値が無いって事になるのか?
「貴族ってもっと特権階級的な身分じゃないのか?どうしてそんなにメイジの立場が尊重されないんだ?」
魔法が使えるって、基本的に圧倒的なアドバンテージであるはずだが。
だいたいの媒体では魔法使いは選ばれた特権階級のような位置づけにされてるし。
「主な原因は宗教ですね、この国は今二百年続く長期間の平和な時代に突入して、武力としての貴族の価値が衰退したんです、そして国内の生産を上げる点でも、メイジの魔法が普及した方がいいという点で兵隊としての下流貴族が廃止されて、農民達と交わり、平民のメイジを多く生んだ訳です、それを後押ししたのが今や国教となった国民総メイジをスローガンに抱える、ラー=ウル教です」
……長い、理解が追いつかない情報量だ、だがまぁおかげでこの国の情勢についても分かった。
よくある異世界転生だと国が戦争していたり、魔王軍に襲われていたりするがその心配も無いという訳か。
しかし、魔法を題材にした作品だと、才能があるだの無いだの、血統がいいだの悪いだのが重視されていて平民の扱いなんてそれはひどいものだけど。
メイジが普及しているこの世界なら、その心配もなさそうだ、やはり、平和とはいいものである。
時折、平和ボケした国民の目を覚まさせてやるとかいってテロを起こす悪役がいるけれど、世界中の全ての人間が平和ボケすればこの世から戦争なんて無くなる、平和ボケは伝染する物であるから、平和ボケこそが、世界を平和にする病だと俺は思っている。
おっと閑話休題。
「アトリも貴族なの?」
まぁ見るからに貴族っぽいけど爵位とか気になるし、どれくらいの格のお嬢様なのかは知っておきたい所。
アトリは俺の質問にクックックと笑いながら答えた。
「かくも畏き千年年続く、バルドルス伯爵家の末裔、エレナ・ヴェガ・バルドルス、だけどその正体は、かの始祖アラトナの生まれ変わり、アトリリーア・ジ・ゼロニウス」
キメ顔でそう語るアトリを見て、俺は思った。
こいつは間違いなく厨二病真っ只中なんだと。
なので俺はスルーすることにした。
てか始祖の生まれ変わりって、現実で例えるならブッダの生まれ変わりを名乗るようなもんか?痛すぎるだろ。
正直召喚者という絶対切れなさそうな縁でなければあまり近づきたくない感じだが。
「……なるほど、バルドルス伯爵家なのか、アトリは」
「う、うん、一応私だけじゃなくて、お兄ちゃんも、だよ」
俺との温度差を感じてかアトリは若干落ち込んでいた。
「使い魔にも、主人の身分は適用されるのか?」
使い魔も家族の一員!って話なら公爵の使い魔とかには逆らえなかったりするわけで非常に面倒だ。
たまにあるんだよな、奴隷を殴った時に主人の身分を適用されて裁かれる場合が。
「あはは、家畜が爵位なんて持つ訳無いでしょ、お兄ちゃんはお兄ちゃんだから伯爵なんだよ」
家畜、その言葉を聞いてこの世界では人間を奴隷のように扱う前時代的な封建的社会なのかと戦々恐々としていたが、直ぐにそれが杞憂だと思い知ることになる。
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